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「さーて、安室さんがどんな反応するか見ものね!」
着替えが終わって外に出る。水着なんて何年ぶりに着ただろう。
腹筋を隠すために前は露出が少ないものを選んだが、その代わりに背中がバッサリ開いていて少し落ち着かない。
『水着の可愛い女子高生が二人もいるんだから、きっと喜ぶわ』
「違いますよ!あたし達じゃなくて…」
「ねえ君達、今時間ある?」
「「!」」
炎天下の中、海水で冷えた砂の上を歩く。
女三人であることに目をつけられたのか、いかにもな若い男から声を掛けられた。
『ごめんなさい、この子達なら忙しいから渡せないわ』
「お姉さんは?すっごい美人だけどモデルか何か?良かったらオレと…」
『…ああ、言い方が悪かったわね』
真夏のビーチ。こういう輩はどこにでも湧くが、ここは特に多いのだろう。更衣室から戻るこの短い距離で捕まるとは。
心底めんどくさいと思いつつ、女子高生二人の間に入ってグイッと肩を引き寄せる。
『この子達は、今から“わたしと”遊ぶから暇じゃないの。…別を当たってもらえる?』
一部分を強調しながら軽く睨みつける。気まずくなったのか、男はそそくさと立ち去って行った。
「沙月さんかっこいー!」
『だから今日は王子でいたかったのよね…』
はあ、と軽く溜息を吐く。
あの格好ならああいう類の男に絡まれることはまずないのに。二人をナンパ野郎から守るのも今よりずっとやりやすいし。
出鼻を挫かれた気分だったが、気を取り直して再び元いた場所に向かって歩を進める。
家族連れやカップルで賑わう中をしばらく歩いているうちに、人混みの隙間にパラソルの準備をしている安室とコナン君の姿が見えてきた。
「あ、おかえり……」
二人がこちらに気付いて、安室と視線が交わって。
いつもと変わらないその目に何故だか今回はドキッとして、でも直後に彼が硬直したので思わず首を傾げた。
「っ、お前…!」
『…?』
「そんな肌出してたら男が釣られるだろ!?」
大股でずかずかとこちらに歩み寄ってきた安室はどう見ても明らかに怒っている。
その言い分に、私も彼と同じように眉を顰めた。
『…はあ?ビキニより全然マシでしょ?』
「そりゃマシだけど…もうちょっと胸元どうにかならなかったのか?
……ほら、これ着てろ!」
まくし立ててきた安室が荷物の中からパーカーを取り出して投げ付けてくる。どうやらこの水着がお気に召さなかったらしい。
胸元が腹の少し上までざっくり開いていたのが気に入らなかったのだろうか。編み上げてあってデザインとして可愛いと思ったし、蘭ちゃんや園子ちゃんにも好評だったのだけど。
水着の上に男物の上着を羽織るなんて気が引けるが、ここで突き返すのもそれはそれでめんどくさいことになりそうだ。
数秒迷った結果、渋々袖に腕を通した。
「お前見た目だけは良いんだから、ちゃんと気を付けないとすぐ変なのに絡まれるだろ」
『(すでに絡まれたことは黙っておくべきかしら…)』
「お二人も可愛らしいですから、僕らが帰ってくるまで沙月といてくださいね?
最悪変な男が寄ってきたらこいつが力ずくでどうにかするので」
「なるべく急いで戻ってきますね」と言い残し、コナン君を連れた安室が荷物を持って足早に更衣室へと向かう。
その背中を、後ろにいた女子高生二人がぽかんとした顔で見ていた。
「うーん……思ってた以上に分かりづらい反応してくるわね…」
「でしょ?安室さん、沙月さんにはあんな感じみたいで……」
『…あら、まだ何か疑ってたの?』
「だって気になるんですもんー…」
こそこそ話す二人の方を振り返る。二人には私から直接否定しておいたつもりだったけど。
彼女達はよくポアロに来ているみたいだし、多少なり事情を話しておいた方が良いのかもしれない。そこは安室と要相談か。
燦燦と太陽の光が降り注ぐ中、立てられたパラソルの下でレジャーシートに腰を下ろす。
白い砂浜、深い青の海、両隣には水着姿の若い女の子。
夏休みはまだ、始まったばかり。
サマーバケーション 1
(わたしは貴方達の方に興味があるけどね)
(沙月さんも沙月さんで分かりづらいんですよ!)
END.
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