2





『そうだ榎本さん、良かったら下の名前で呼ばせてもらってもいい?
安室が名前で呼んでるのにわたしは違ったから、前から引っ掛かってたの』


「はい、大丈夫ですよ!」


『ありがとう。できれば“梓ちゃん”が良いんだけど…どうかしら?』


「はい!」




ぜひ!と笑ってくれた榎本さんもとい梓ちゃんに微笑む。
うちのお客さんもよく来てくれる子は下の名前で呼ぶことが多いから、今後も話す機会があるであろう榎本さんもそうしておきたかった。経験上、名前で呼ぶことでお近付きになれることが多い。

同じようにその手法を取っているこの男がここにいたから、余計に早いうちに持ち掛けないとと前から思っていた。




「なるほど、急に蘭さんと園子さんを名前で呼ぶようになったと思ってたら…」


『その通りよ。貴方が名前呼びでわたしがそうじゃないのが気に食わなかったから』


「“すぐ下の名前で呼ぶ男は信用ない”って前に言ってなかったか?」


『残念ながら、わたしは男じゃないのでノーカウントね』


「そのナリで言われてもな……」




安室がじとっとした視線をこちらに寄越す。これでも一応女なので言ってることに間違いはない。
安室と違って、異性を名前で呼ぶ趣味はないし。


軽い言い合いをしていたらしばらく黙ってこちらを見ていた梓ちゃんが不意に笑ったので、二人して彼女の方に視線を投げた。




「ふふ、安室さんと階川さんはライバルなんですね」


「『ライバル?』」


「お互いにモテモテで、お互いそれが気に食わないって感じ?なんだか似た者同士のライバルみたいだなって。
最初は恋人なのかなと思ってたけど、ほんとに仲の良いお友達なんですね」


「…まあ、仲は良いと思いますよ」


「ただあんまり、“上司と部下”って感じはしないですけど」


「ああ…こいつの態度、でかいですしね」


『アンタに言われちゃお終いね…』


「おい、どういう意味だ」


「ふふ」




パスタを作りながら、いがみ合う私達を見て梓ちゃんは楽しそうに笑っていた。


園子ちゃん、蘭ちゃん、コナン君。そして梓ちゃん。
このポアロという店で知り合った安室の友達からの誤解はこれでだいぶ解けたと思う。“王子”を使う予定は当初はなかったけど、使えるのであれば使わない手はない。
「男みたいな女と仲が良い」ことを「安室透」が気にせずに許してくれるのであれば、今後もこっちの格好をメインにしていきたいと思う。見た目が男っぽいというだけで安室との恋仲は噂されづらいだろうから。


ただ少しだけ、「女として」この人の隣に立てる機会が減るというのが――少しだけ、寂しい気がするけれど。




『(…それは、わたしが“恋”をしているから?)』




視線の先、洗い物を再開した安室の姿が目に映る。


この気持ちが恋だから、女として隣に立ってみたいと思うのだろうか。それとも、女としてこの人の隣に並ぶことがあまりないから何となくそう思うのだろうか。

分からない。ゼロのことは特別仲の良い友達だと思ってるし、大事な人だとも思ってるし、人間としてとても尊敬しているけれど。
これが恋なのかどうかは、まだはっきりとは分からない。


ふと目が合ったカウンターの先で、ゼロが営業スマイルではない笑顔でにこりとこちらに笑って見せた。






唯一無二の存在


(そうであるのは、間違いないけれど)




END.








<<prev  next>>
back