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「よし、後始末を頼む!」
「はい!」
部下と共に大きな問題もなく男を二人制圧した後、四人相手に二人で戦っているであろう降谷さんと階川さんの元へ走る。
いくらあの二人が強いとはいえ、相手が変なものを持っていたら危ない。そうでなくても加勢できるならした方がいい。
頭の中の地図だけで埃っぽい階段を駆け上り、ドアが開けっぱなしになっていた部屋へと雪崩れ込んだ。
「降谷さ……」
――バキィ!
足を踏み入れたと同時に物凄い音がして、思わず肩がびくりとした。
「ああ風見、そっちのは大丈夫だったか?」
「あ、はい!金庫の見張りだったようで、二人しかいなかったのですぐ片付きました。今処理をさせてます」
「そうか、ご苦労。見ての通り、こっちもちょうど終わったところだ」
『…お疲れ様です』
床に転がった男に一度目を向けてから、階川さんがこちらに振り返る。
先程の音は階川さんが男に思いっきり飛び蹴りを食らわせた音だったようだ。失神したのか、伸びたまま動かない見知らぬ男に少しばかり同情する。自業自得だから仕方ないが。
降谷さんが呼び寄せて駆け付けたのは階川さんだけだったらしく、ここに彼ら以外に立っている人間はいない。二人で四人の男をまとめて伸したようだ。
降谷さんが化け物並みの身体能力をしていることはよく知っているものの、それに追随する階川さんも相当だな…と。男相手に全く引けを取らない彼女を、ウチの人間が一体どれだけ男と間違えたことか。
一通り事が片付いて全員で諸々の作業をしていたら、不意に降谷さんが大きな声を出した。
「階川、血が出てるじゃないか!」
『え?……ああ』
「見せてみろ」
静かな夜の空間にやけに響いたせいで、周りで作業していた人間が一斉に降谷さんの方へと振り向く。自分も例外ではなかった。
目を向けると、階川さんのズボンのふくらはぎのあたりに大きな赤いシミができていてぎょっとする。よく見たら足元には黒い点々が道なりに続いていて、血が垂れたまましばらく歩いていたことが窺えた。見るからに痛々しい。
しかし当の本人はまるで他人事のように自分の足を目で見て確認しただけだったので、見兼ねたのか降谷さんがしゃがんで彼女のズボンの裾を捲り上げた。
『さっきの蹴りで傷が開いたみたいですね…』
「結構ざっくりいってるが、どうしたんだ?」
『この前、枝に引っ掛けて切りました』
「ったく……気を付けろよ」
暗がりで見えづらいが、太い線のような傷からはまだ血が出ていてそれなりに大きな怪我に見える。本当に大丈夫なのか。というか痛くはないのか。
近くでオロオロしていたら「救急箱ってあったか?」と降谷さんに尋ねられ、急いで車まで駆け戻る。
応急処置用の道具が入った白い箱を持って行くと、階川さんは降谷さんの指示なのか近くにあったコンテナに腰掛けていた。
「降谷さん、あとは自分が…」
「ああ、俺がやるから大丈夫だ。風見は後片付けの続きをしててくれ。
まったく、お前はどっか行く度に怪我して帰って来るんだから…」
『降谷さんも似たようなものでしょう?』
救急箱を奪われ、さっさとしゃがみこんで包帯を巻き始める降谷さんに唖然とする。
――あの降谷さんが、膝をついて他人の世話をしている。
なかなか見ることのない珍しい光景だった。普段なら絶対に周りの誰かが率先して引き受けているところで、だからこそ先程自分が申し出た。まさか断られるとは。つい後片付けも忘れて目を向けてしまう。
自分だったら降谷さんにこんなことはさせられないと恐縮で慌てふためきそうなところだが、大人しく足を差し出している彼女は随分と慣れた様子で。もしかしていつもこんな感じなのかなと、そう思わせるくらいに自然だった。
契約上、この二人とはたまに一緒に仕事をする。それぞれ片方ずつ会うことの方が多いが、たまに二人同時に一緒になることがある。
それは合計してもまだ両手で数えるくらいの数しかないが、毎回同じことを思う。上司と部下、先輩と後輩――そういう言葉よりもずっと、この二人には「友達」や「相棒」といった言葉の方が似合うな、と。
「よし、これでいいだろ。痛くないか?」
『おかげさまで』
「無理はするなよ。…あ、片付け終わったか?」
「はい!粗方……」
信頼し合っていることなど見れば分かる。降谷さんの右腕に相応しい男に、という自分の目標がこの二人を見ていると霞む。
これだけの人が既に傍にいる。お互いに頼って頼られて、まさに自分の思い描く理想の関係だ。これに追い付くことが可能なのか。
そう思うと同時に、無駄なことを考えるくらいならその分動けと自分の頬を両手で叩いた。
「(追い付かなくても追い続けます、降谷さん!階川さん!)」
一人握り拳を作る。
憧れの二人は、今日も涼しい顔をして互いの隣に並んで立っていた。
その背中を見据えて
(もっと精進します!)
END.
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