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「何見てるんですか?」




仕事の合間、スマホ片手に突っ立っていたら後ろから声を掛けられた。




「あ、いえ、ちょっと沙月の写真が上がっていたのでつい…」


「あら、どんな写真ですか?」


「えーっと……これなんですけど」




客の居ない閉店後のポアロ。
話し掛けてきた梓さんから、スマホを見ていたことに対するお咎めは特にない。

変に隠しても良いことはなさそうだったので大人しく見ていた画面をそのまま見せる。“沙月”というワードに何となくにやにやされていることはあえてのスルーだ。
この写真を見せれば、決して僕が沙月に見惚れていたとかそういうわけじゃないことは分かってもらえるはず。




「…わあ!かっこいい!何かのイベントですか?」


「どうやら、ジューンブライドに関するイベントみたいですね…」


「なるほど、それでタキシードなんですね!イケメン〜!!」




打って変わってはしゃぎだした梓さんにほっとする。見ていたのが女性らしい格好をした沙月の写真じゃなくて良かった。
僕のスマホの画面に大きく表示されていたのは、SNSに投稿されたとある沙月の写真だった。

男物であろう濃いグレーのタキシードと似たような色のネクタイ、胸元には白いバラ。沙月のことを知っていなければどこからどう見てもただの美青年だ。
写真だけ見るとまるで結婚式の宣伝のようになっているが、ブライダル業界とはまったく関係のない彼女が属する動物保護団体のイベントである。


あの職場のイベントだからまた白馬にでも乗るのかと思ったが、今回はそうではないようで。
投稿されていた別の画像の説明によると、来週末に沙月と一緒に写真が撮れるイベントをやるらしい。…あいつはアイドルか何かか?
もちろんメインは保護動物の紹介だろうが、果たして何人がそれをメインだと思って集まるのか。




「安室さんも参加されるんですか?」


「えっ?いや、そういうわけでは……」


「まあ、どう見ても女の子向けのイベントですもんね〜」




「わたしも行ってみたかったなあ」と梓さんが残念そうに言う。日付を見ると確かに、彼女がポアロのバイトの日と被っていた。
僕は基本的にギリギリまでシフトを出さないのでバイトだけで言えば予定はない。が、問題は本業がどうなるか。
普通に考えれば期待薄だ。まともな休みすら取れない職だから。仮に参加できたとしても、梓さんの言うように僕だけその場で浮くだろうし。
というか沙月がタキシードを着ていたところで、僕は仕事で彼女のスーツ姿を見たことがあるから多分新鮮味はない。タキシードもスーツも似たようなものだろう。
だから僕が行く意味は特にない、と思う。写真なら後で上がるだろうからそれだけチェックしようかな。


スマホの電源ボタンを押して、中断していた後片付けの続きに取り掛かった。







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