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「(…来てしまった)」
どうしてだろう。
こういうときに限って時間が空くんだよな、何故か。世の中ってそんなものだ。
丸一日フリーというわけではなかったが、偶然夕方に空きができたのでうっかり来てしまった。数年前、沙月をどうにかこちら側に引き入れようと仕事の合間を縫ってスカウトしに来ていた頃を思い出す。
絶対に行こうと思っていたわけじゃなかったので久しぶりのアポなし訪問だ。びっくりされるだろうか。
沙月のことだから、僕を見付けるなり「何でいるの?」みたいなことを言いそうな気がする。
施設の前まで来ると、だだっ広い敷地内で迷わないようにイベント用の看板が立っていた。「会場はこちら」と大きく手書きで書かれている。僕は慣れているので、部屋の名前だけ書いてもらえれば辿り着けるけども。
どのくらい人がいるのかなと案内に沿って進むと、やがてざわざわとする人の声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ、イベントご参加の方は……って、安室さんじゃないですか!様子を見にいらしたんですか?」
「あ、はい…。まあ……」
「この通り、王子のおかげで今のところ順調ですよ!安室さんも参加されますか?」
「じゃあお願いします」
部屋に入ってすぐに顔見知りのスタッフから声を掛けられる。
本当のことを知っているのは上の人だけだから警察だとは思われてないけど、「よく遊びに来る客先の人」くらいには思われているのだろう。気さくに話し掛けてもらえるのはありがたい。
手渡されたのは、小さな白い紙切れだった。
「番号順に案内してますので、こちらで少々お待ちくださいね!」
「(整理券……)」
本当にアイドルみたいだな、と思いながらスタッフを見送る。
紙に書かれていたのは「128」という番号。おそらく沙月は今日一日でこれだけの人を相手にしているのだと思う。
裏面には説明と注意事項が書いてあって、そこには沙月でなくてもいいなら先に施設の案内ができると書いてあったけど、多分大半が彼女目当てだからあんまり意味を成さないだろう。
「放っておいたら誰も来てくれない」と誰よりもイベントに積極的なのが沙月であって、そのおかげでここは辺鄙な場所にあるにもかかわらずこうして賑わっているから。
出会いは偶然だ。沙月との出会いが偶然中の偶然だったから、それは身に染みて分かっている。
だからここにいる保護動物と里親になる可能性のある人の“出会い”を作ろうと奮闘している沙月の気持ちは理解しているし、その志には尊敬もしている。
でもやっぱり、彼女が自分自身を“出会い”のネタにしてることにはちょっともやもやしてしまって。
沙月のことを好きにならなければ以前のように気にせず過ごせていたんだろうけど、もう後戻りはできないから。
『…どうしてアンタがここに?』
「(あ、気付かれた)」
不意に呼ばれて顔を上げる。沙月の周りにいた女の子たちが僕に気付いて、それに続けて気付いたようだ。
目が合って、予想通り思いっきり顔を顰められる。僕は慣れてるから良いけど、まだ「お客様」の前だぞ。
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