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「たまたま時間が空いたから寄ったんだ。と言っても、あんまりゆっくりはしてられないんだけど…」
『忙しい中来るようなものでもなかったでしょうに…。仕事の話?』
「いや、別にそういうわけじゃ……」
沙月の怪訝そうな顔が崩れない。僕が撮影NGなのはもちろん知られてるから、余計に疑問なのだろう。今日は沙月との撮影がメインのイベントだろうし。
動物の紹介をされたところで、数年前からここを知っている僕からすれば今更だ。
そもそも僕だって、今日ここへ来るつもりはあんまりなくて。
ただ沙月が――今日ここでたくさんの人にサービスをしているのに、僕がそれを受けないというのは気に食わないというか、おかしいというか。仕事で来れないなら諦めもついたけど、今日はそうじゃなかったから。
何となく見過ごすのはむかついたので、つい出向いてしまったのだ。
「(まさか沙月のサービスを受ける子に妬く日が来るとは……)」
「沙月さん、こちらの方は?まさか彼氏さん…!?」
『違うわよ、客先の人。…ごめんなさいね、中断して。戻りましょうか。
アンタも参加するのはいいけど、終わったらさっさと帰るのよ』
「はいはい。また後で」
手に持っていた整理券が見えたのか、諦めた顔をして沙月が仕事に戻る。
一応は客だと見なされたらしい。態度は周りの女の子に対するそれと真逆なままだったけれど。
この職場で間違っても彼氏疑惑なんて浮上させたくないだろうから、今日は徹底的に冷たいと思う。これも予想通りだ。
でもまあ、順番が来たら相手が僕でもそれなりにサービスしてくれるだろう。あいつもプロだから。
「王子」として知らない女の子の手を取り跪いている沙月を遠巻きに眺めながら、自分の番号が呼ばれるのを待った。
――
『…お待たせ』
「ああ。人気者は大変だな」
『貴方に人のことが言えるのかしら?』
あれから待つこと30分。
どんな感じで回してるのかと思ったけど、ある程度まとめて撮影会をしたら沙月が施設を軽く案内、その後は客は自由見学らしい。
前の回の客を見送ったところで次の客の列を捌く。沙月も他のスタッフも手慣れていた。
圧倒的に女の子が多いけど中には家族連れもいて、列で一人だけ背が飛び出ているなんてことにはならずにほっとした。…いや、男一人で来てるのは僕くらいだと思うけど。
タキシードでびしっと決めた沙月の前で立ち止まる。整った顔に長い脚、女性にしては随分鍛えられた身体と、僕とそんなに変わらない背丈。
見れば見るほど悔しいくらいに美青年だった。世の中の男が泣く見た目してるな、相変わらず。
せっかく来たけど僕は仕事柄写真が撮れないので、沙月の“ファンサービス”を多少受けたらさっさとお暇しようとしていた。
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