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「なあ、沙月」


『何?』


「僕、迷惑だったりするか?」


『……、はあ?』




急に何を言い出すんだとでも言いたげな顔で沙月がこちらを見る。毎度のことながら酷い反応だ。ここが職場だったら絶対やってないだろうな。
態度の割にちゃんと手は止めてくれるから、その一見冷たい反応が親しさ故に向けられたものだということは分かるんだけど。




「前からちょくちょく会う仲ではあったけど、ここ最近は特に多いだろ?
呼んだら来てくれるからすぐ声掛けちゃうんだけど、実はウンザリしてたりとか…してないかな、って……」




歯切れの悪い言葉に、自分でもらしくないと思った。きっと沙月も同じことを思っているだろう。
視界に映る彼女は眉間に皺を寄せ、「この人は何を言っているんだ」みたいな目で僕を見ている。

現に今ここに沙月がいるのは僕が呼び出したからだし、今まで僕が彼女にしてきたことを考えれば真っ当な反応だから、その怪訝そうな顔に文句はないが。




『…貴方が他人の迷惑を考えられる人だとは思ってなかったわ。自覚あったのね』


「無茶ばっか言う上司で悪かったな……」


『まあ、一番無茶をするのは本人だけどね』




ずず、と沙月が続きの麺を啜る。返事を考えているらしい。


昔から無茶をやってきた自覚はあるし、沙月を含めた部下に無茶な要求をしてきた自覚もある。でもそれはその人ができると思ったから言ったことで、本当の意味での無理難題を押し付けたことはないつもりだ。
ただそれを「厳しすぎる」と形容する人も、離れていく人も、事実として存在した。沙月はたまたま今でも着いてきてくれているだけで。
人間には相性があるから去る者は追わない主義だしいちいち気に留めることもなかったけど、沙月にだけは気を遣いたくなった。今頃、なんて言われてもしょうがないくらいに時は経ってしまったけれど。

特定の人といつも一緒に居るイメージはない。群れるのもあんまり好きそうに見えない。職場での“王子様”は、こいつの単なるキャラ作りに過ぎないから。
今まで「仕事だから」と割り切って呼び出されてくれてたなら、いたずらに呼び出し続けるとそのうち嫌われる。僕の気持ちを知った後でも今のところそういう素振りはなかったけれど。
もし嫌だと感じているのなら、今後は控えるように気を付けたいと思う。


ずっと見つめていたら返事を急かしているように見えるかもしれないと、僕も一緒になって残りの麺を啜った。




『…本当に迷惑だったらはっきり言う性格だって、アンタも分かってるでしょ。
信頼があるからこそ振り回されてるんなら、別に悪いことだとは思わないわ』




――こうやって、ただ誰かとご飯を食べたいがために呼ばれるのもね。

沙月が頬杖をついてこちらに笑いかける。




『多少無理してそっちの都合に合わせるのも、足に使われるためだけに呼ばれるのも、普段貴方の世話になってるからに他ならないしね。
どうでもいい人間のためにあちこち行ってあげるほどお人好しじゃないわ。分かってると思うけど』


「…うん。分かってるつもりなんだけど、最近かなり頻度上げちゃってたから、ウザがられてるかなってちょっと心配になった」


『貴方がそうやって人の顔色窺うの、相当レアなんでしょうね……』




「珍しいものを見たわ」と沙月が笑う。確かにこういう心配をするのは沙月が初めてかもしれない。
現場で指揮を執る僕を見慣れている彼女からすれば尚更そう感じるだろう。他人の機嫌を毎回気にしていたら、こんな仕事は務まらない。

仮にそれを差し引いても、昔わざと怪我をして好きな人の気を引こうとしてたことを考えると、僕は元からこういう性分なのかもしれないな。







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