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ベルモットの言っていた「原因」。彼女はそれが具体的に何なのかまでは言わなかったがおそらくビンゴだ。
僕も自分で自分のことを「そんなことはない」と思っていた。まさか、こんな日が来るなんて。
――沙月のこと、前よりもずっとずっと好きになってきている。情のない他人との体の関係を、吐くほど精神的に受け付けなくなるくらいには。
いよいよ目に見えて仕事に支障をきたし始めたな、とその肩口に顔を埋める。でもきっと、変わってきているのは僕だけではない。
沙月だって、ちょっと前まではこんなサービスはしてくれなかったと思うから。この前のキスもそうだ。…そうだと、信じたい。
「今後は……やめる」
『…何をやめるんだか知らないけど。アンタがここまで具合悪くなることなら、仕事でもなるべく避けた方がいいわね』
「そうする。多少煩わしくても、別の方法を考える……」
きっと沙月は、「僕」が弱ってるからこそこうやって甘やかしてくれて。
「僕」だからこそ、男なのに特別にこういうことをしてくれるようになったって、信じたい。
色仕掛けに罪悪感や拒否感が芽生えるにしても、もっと先のことだと思っていた。こいつを「女」として意識し始めたのは最近のことだから。
そもそもまだ明確に両想いになったわけでも付き合っているわけでもない。僕だけが勝手に舞い上がって、勝手に申し訳なく思っている可能性もまだある。
でもたとえそうだったとしても、ビジネスでも、上辺だけでも。こいつ以外に「そういう」意味で触れることが、知らぬ間に酷く気持ち悪く感じるようになってしまったらしい。
色仕掛けで片付けるような案件が来たら、次からは怪しまれない範囲で別の方法を考えないといけなさそうだ。
沙月の傍にしばらく居たらうとうとするくらいにまでは体調が回復して、
緩く頭を撫でてくれる手に思わず目を瞑ったら、不意に強い力で体を持ち上げられた。
「うわっ…!?」
『さあ姫、そろそろ寝ましょう?あんまり夜更かしすると明日に響くわ』
横抱きにされて布団のある部屋に運ばれる。相変わらず軽々持ち上げてくれるな、こいつは。
体が密着して、顔が近くなってドキドキする。ああ、“恋”ってこういうことだよなあ、なんて運ばれながら考えていた。
これよりずっと深いことをした数時間前の出来事は吐くくらい嫌だったのに、こいつとはただ一緒にいるだけで満足する。会うだけでも、顔を見るだけでもいい。
ハグ程度のことが物凄く嬉しくて、手の甲へのキスくらいで眠れなくなって。今までしてきた“恋人ごっこ”では味わったことがない感覚だった。
男より男らしくてかっこいいところはやっぱり男としてはムカつくけど、そういうのもひっくるめて好きになってきている感じも正直否定できない。
『服、着替えられるなら着替えなさいね。無理はしなくていいけど。
また具合悪くなったら起こしてくれていいから、早めに言いなさいよ』
「うん、ありがとう…」
『…おやすみ、ゼロ』
ドアの向こうへ消えていく背中を見つめながら自分も「おやすみ」と呟く。十分甘やかされたから、今はこれ以上のことは望まないけれど。
いつかそのうち、寝るときも起きるときも、隣にあいつが居てくれる日が来たらいいなと。
訪れるのかどうかも分からない未来を描きながら、今度こそ落ち着いて眠りに就いた。
「好き」の弊害
(もう、ここまできたか)
END.
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