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『いらっしゃいませ』
普段よくやっている営業スマイルはそのままに、言葉遣いはやや丁寧さを意識。
ベルの音を確認するとともに今日何度目かの客を出迎えた。
「えっ……!」
『二名様でしょうか?どうぞ、奥の席へ』
「は、はい!」
何度目かの客の驚いた顔を特に気にすることなく、空いている席へと案内する。
予想はしていたが、本当に若い女性客が多い。たまにそれ以外も入るが半分以上は若い女の子だ。
今日が休日というのも相まっているだろうけど、偶然にしては偏り過ぎている。偶然ではないのだろう。
例外なく安室を目当てに来たであろうその子たちに「お決まりになったらお声掛けください」と慣れた笑顔を貼り付けて、水とメニューを置いてからカウンターに戻る。
「沙月、これ3番」
『了解』
料理を受け取って指定のテーブルへ。今日初めてにしては上手く立ち回れているような気がした。
客商売には変わりないから、そういう意味だとやる前から手慣れていたのかもしれないけれど。
「ご注文の品はお揃いですか?」とやはり若い女の子が座っているそのテーブルの前で確認を済ますと、女の子の片方が「あの…」と話し掛けてきた。
「えっと……女性の方、ですよね…?」
『ええ、一応』
「す、すみません!すごくかっこよかったので、つい気になって…!最近入られたんですか?」
『ふふ、ありがとう。今日だけ梓ちゃんの代わりに入ってるのよ』
「あ、そうだったんですね…!」
やはり今日何度目かの同じ質問を受け、同じ答えを笑顔で返す。まだ開店して2時間ほどだが、既にテンプレートになってきているような。今の職場で働き始めた最初の頃を思い出した。
こんな見た目でも声だけはしっかり女なので、喋るとよく二度見をされる。
そのまま軽く世間話をした後で、タイミングを見計らってポケットから小さな紙を取り出した。
『普段はここで働いてるの。動物が好きだったら、是非遊びに来てね』
チラシを兼ねた名刺。今日、安室から「バイト代」として受け取っていた権利は「客に職場の宣伝をしても良い」だった。
休みを返上してまで来たのだから、ここへ来た人全員に持って帰ってもらうくらいのつもりで配ろうと思っている。
名刺を受け取った女の子が「安室さんと仲が良いんですか」と尋ねてきたので、チャンスだとばかりに少し声を張って答えた。
『あの人の探偵業の、会社で言うところの上司と部下の関係よ。簡単に言えば仕事仲間ね』
「あ、そういう……」
『今日は急遽こき使われてるけど、可愛い子にたくさん会えるから探偵業より楽しいわ』
「こらー、宣伝は許してるけどナンパは許してないぞ〜」
「仕事しろー」とカウンターから安室の声が飛んできて、それを聞いた女の子たちがくすくす笑う。「またね」とウインクをしてその場を離れ、自然な流れで洗い物の手伝いに加わった。
いつもの安室との簡単な小芝居だけど、バイト中に余計な噂話を生まないようにするのには抜群な効果を発揮している。
和やかな空気のまま、目立ったトラブルもなく「一日限定アルバイト」は無事に終了したのだった。
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