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視界いっぱいに無数の粒が煌めく。
吐き出した息は寒さで白く染まり、辺りの光に明るく照らされてから夜空へと消えた。
「やっぱり混んでるな…」
『まあ当然ね。平日とはいえ、この季節なら』
ざわざわしている人混みの中を並んで歩く。休みの日に比べればだいぶマシなんだろうけど、それでも結構な混雑具合だ。
歩いているうちに見付けた小さな露店の看板には、たくさんのハートマークで飾られた“ホットチョコレート”の文字。「せっかくだから買ってくか」と隣に居るそいつに聞いてみると、ふっと柔らかく笑ってから「そうしましょうか」と答える彼女。その整った横顔に、やっぱり美形だなあ、なんて。
これまでに何度も考えたことのある今更過ぎる感想を、今回もまた飽きずに抱いた。まあ、口に出しはしないけど。
店に並んでいたカップルの後ろで順番を待って、ハートのマシュマロ入りのホットチョコレートを2つ頼んで。
寒空の下、クリスマス仕様のイルミネーションが輝く中で男女二人。一見すると周りのカップル達と何ら変わらないのだが、ただひとつ、決定的に違うところがあるとすれば――僕らは決して手を繋がないこと、だ。
『アンタもこういうのに興味があるのね?』
「酷い言われようだなあ……」
受け取ったカップの片方を沙月に渡す。礼の代わりに貰ったトゲのある台詞に溜息をつきつつ、湯気の立つホットチョコレートに口を付けた。
こいつを誘ったのは一昨日の夜。
きっかけは、ポアロに来た蘭さん達にこの場所を教わったこと。沙月と一緒に行ってはどうか、と彼女に提案されたのだ。
僕らが恋人同士ではないことは今までも散々伝えてきているが、蘭さんを含め“安室透”の知人には未だに追及を諦めてもらえておらず。何かがあるたびにそういったことを言われる始末。
ただ結局こうして来ちゃってるくらいだから、今後も変わらず言われ続けるんだろうなと。他人事のようにそんなことを考える。
青春真っ盛りの現役高校生に教わったこの場所は噂に違わずカップルに大人気で、そんな場所に沙月と行くなんてことは“安室透”としては本来許されないことなのだけれど。
「沙月さん、放っておくとファンの女の子達と行っちゃいますよ!」と煽られた僕は、それは嫌だなと思ってあっさりそのチープな挑発に乗ってしまったのだ。
「(とはいえ、沙月がOK出してくれたからこそここに来られてるんだけどな…)」
ちらりと横を盗み見れば、僕と同じようにホットチョコレートを飲んでいるそいつ。カップを持つ右手の薬指には“ダミー”のペアリングが光る。
この誘いをOKされたのも予想外だったが、私服で来られたのはさらに予想外だった。
こんなの、傍から見たらただのクリスマスデートでしかない。全然僕が言えた立場ではないんだけど、このどこぞの王子サマは一体何を考えてるのかと。
一瞬「王子」として来た方が問題になるのか?とも思ったけど、いやいやそんなことはないよな、と。仮に知り合いにこの現場を見られた場合、「王子」の方が言い訳はしやすいはず。仕事帰りに偶然会ったんだ、とか言っておけばいいのだから。
そうなると100%僕への厚意でこの格好で来てくれたんだろうけど、それにしたって許容範囲が広すぎる気がする。普段だったら間違いなく断られているところだ。
手を繋がなければセーフ、みたいな感じなんだろうか。…ギリギリアウトな気がするけど。
もちろん僕個人としては嬉しい方の想定外だったので、こんなところをこの格好の沙月と歩けるのならそれはもうとても光栄だ。
てっきり仕事着のまま来ると思ってたから、妙に緊張してしまうのだけがネックかな。
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