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『(ウチでは驚くほど気遣ってないのよね……)』




仕事から帰宅し、部屋のドアを開ける。

先に家に居ると言っていたのに出迎えがなかったことから察していたが、電気の点いた静かな部屋で安室がカーペットの上で仰向けに転がって目を閉じていた。慣れてない人が見たら何事かと思うだろう。




『そんなところで行き倒れてないで、寝るならちゃんと寝なさい』


「んん……」


『脱ぎ散らかしてるこれは洗っとくの?明日使うの?』


「あらう…」


『じゃあまとめて洗濯しとくわよ』


「うん…ありがとう……」




ポアロでは一切そんな素振りは見せなかったが、おそらく徹夜が続いていたのだと思う。糸の切れた人形のように動こうとしない彼の周りには、畳まれていないシャツやらズボンやらが無造作に置かれていた。

どうにか頑張ってパジャマには着替えたんだな。この分だと風呂は無理か。朝にシャワーでも浴びるのだろう。
このレベルの疲れを涼しい顔して隠せるところはさすがにプロだなと思う。

こんなところで倒れてて風邪を引かれても困るので、ほぼ意識が飛んでいる彼を横抱きにして持ち上げて、別の部屋に敷いてあった布団へと運んだ。




『(わたしからするとこっちが普通だから、あそこまで細かく気を遣うゼロはレアなのよね……)』




布団を被せて電気を消す。とりあえず「おやすみ」とは言ってみたものの、分かってるのか分かっていないのか「うん…」という曖昧な返事が返ってきた。

“降谷零”は仕事は完璧にこなすから、安室のああいった気遣いそのものが意外というわけではないのだけれど。あくまであれは“安室透”の仕事だから気を遣ってるだけで、そうじゃなければ全く気にしないことなんだろうなと思う。そもそも降谷さん本人は結構な傍若無人なので。

そう思うと今ここにいる人間は紛れもなく“降谷零”で、ここでは取り繕う気がないってことで。それはまあ、友達としては喜ばしいことなのかなと。




『(この気遣いのなさが、“男友達”として成功した証なのかしら)』




投げ出されていたシャツとズボンを拾い上げて洗濯機に突っ込む。安室透の仕事ぶりを見て改めて、ゼロがゼロでいられるこの場所を作れたことを良かったと思った。

いつか「安室透」が消えるその時に、「ゼロ」の居場所がなかったら悲しいと思うから。




『(この先もし、あの人と添い遂げるようなことがあるのなら……)』




――それこそ、私が「ゼロ」の居場所にならなければ。


彼から依頼されて始まった関係だけど、今となっては私にとっても特別な関係であることは間違いなくて。
もう「仮」でも「仕事」でもないその人との仲を世間ではどういった名前で呼ぶのかは分からない。分からないけど、大事にしたいと思った。
少なくとも、ゼロが私を頼ってくれているうちは。


冷蔵庫を開けたら一番に目に飛び込んできた「良かったら食べて」と張り紙がしてあるタッパーに、今頃夢の中であろうあの人へ心の中でお礼を言って一人微笑んだ。






この関係に名前を付けるなら


(貴方は、何と呼ぶ?)




END.






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