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「仕事熱心なお前の後輩なら、仕事熱心に決まってるか。
…確かに最近、沙月に頼ることが多かったですね。今後はもう少し気を付けます。忠告ありがとう。
では、ご注文が決まったら呼んでください」
「お水ご用意します」と言って安室が離れていく。これ以上のことが起こらずに場が終息し、ひとまず安堵した。
もし安室が応戦していた場合、カフェという公の場で厄介なことになっていただろう。
伝えたかったことを伝えられて満足したのか、言い分が通って満足したのか。ずっと眉間に皺を寄せていた後輩くんの表情も少しだけ和らいだ。
「…なんだ、思ったより潔いんですね。先輩を連れ回すくらいだから、もっと怖い人なのかと思ってました。
誰にどう聞いても“安室さんはイケメン”っていう情報しか出てこなかったんですけど……確かにモテそうな人ですね」
『そうね、それはもう大変に…』
「だからって先輩は大丈夫ですよね?先輩がそんな人じゃないことは知ってますけど。
あの人、男の僕から見たらチャラそうにしか見えないですよ。金髪だし、雰囲気がホストみたいっていうか……絶対、優しいフリしながら平気で嘘つくタイプですよ」
『(鋭い…)』
言いながらメニューを広げる後輩くんの言葉に心の中で同意する。そもそもあの人、「安室さん」ですらないしね。…とは言えないのでノーコメントで流した。
水を持ってきた安室に入れ替わりで注文を伝え、今度こそ営業スマイルを携えた彼が準備のためにカウンターへと戻っていく。
安室のことを気にしているのか気にしていないのか、はたまたわざとそうしているのか。大して声のボリュームを落とすことなく、後輩くんは喋り続けた。
「聞いた話ですけど、夜中でも休日でもお構いなしみたいじゃないですか。仕事だとしても非常識ですよね?先輩は女性なんだし、余計有り得ないですよ。
あの人背は高いけど強そうではないし、良いようにこき使われてたりしないですか?なんで先輩が副業を続けてるのかは知らないけど、もし弱みを握られてるとかなら僕が……」
『あーはいはい、一旦ストップ』
スイッチが入ったのか、続けさせると延々とあることないことを言い出しそうなので言葉を遮る。誰に対しても強気に出れるところは場面によっては役に立つし、仕事の邪魔になりそうな存在にわざわざ釘を刺しに来てくれるその熱量は評価するが、だからといって何を言ってもいいわけではない。
安室がこの程度の暴言を気にしないことは分かっているが、ここは私が、私の意志でちゃんと訂正しておきたいと思った。
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