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『深い意味はないんだけど、貴方が花火を見たがるなんて意外だったわ』


「そうだろうな。興味がないことはないけど……どっちかというと、縁がなかったかな」


『呑気に花火を見られるような人生を送ってないからね…』


「沙月は見に行ったことある?」


『ええ、友達と数回。できればもっと近くで見た方が、迫力があって良いと思うわ』


「うーん、やっぱりそういうものなのかな……」




自分から「見たい」と言い出したのにいまいちピンときてなさそうな彼。今日のように遠目に見掛けたことはあるものの、ちゃんと見に行ったことはないらしい。そうだろうと思ってはいたが。
打ち上げ花火の迫力は口で説明できるものではない。実際に自分の目で見て音を聞いて、体験してみないことには意味がない。

せっかく今日ここで花火が上がるのならもっと近くまで連れて行ってやれば良かったかと、そんなことを思いながら彼の横顔を眺めていたとき。
「じゃあ次は目の前で見たいな」と、強請るように目を細めて笑った安室がこちらを振り返った。




『……花火より綺麗、なんてベタなセリフが思い浮かんだわ』


「えっ!? …っおま、急にそういうこと言うのやめろ……!!」


『あら、真っ赤。試しに言ってみた甲斐があるわね』


「お前…人をストレートに褒めるのは良いけど、タイミングってものが……」




ガシャンと音を立てたティーカップを慌てて置き直す安室。この人が動揺するのは珍しいので見ていて面白い。
さっきのがあからさまに色を含んだセリフだったので仕掛けてきたんだろうなとは思ったが、思ったのと違った返され方をしたらしく慌てたのは安室の方だった。
次の機会を求められたことに照れておけば良かったのだろうか。一応こちら、普段「王子」役をやっているもので。

その整った顔を褒められるなんて日常茶飯事だろうに、私の言葉にはちゃんと反応してくれるのだから可愛いものだ。




「……あーあ、“二人で浴衣着て見に行きたい”って続けるつもりだったのに…」


『良いと思うけど、そんなことができる状況を作れるかしらね』


「夢見るくらいは良いだろ?……あー、やっと冷めてきた…」


『ふふ、お疲れ様』


「まったく、お前もちょっとくらい靡けよ…」


『最初から靡いてるじゃない。ここにいる時点で』


「それは……そう、…か?…そうか……」




チラチラと私に視線を寄越した後、彼が俯いて手元のティーカップを見やる。また照れているのか。
そのまましばらく二人して黙り込んで、ドン、ドンという外の花火の音だけが部屋に響いた。

やがて顔を上げた安室と目が合って、自然と微笑み合ってから再び花火に目を移す。少し遠いけど、美しく彩られた夏の夜空。
何か彼の胸に残るものがあれば良いなと、揶揄いでも何でもなく本当に花火より綺麗なその横顔を見て思う。


二人きりの花火大会の夜が、静かに更けていった。






がきこえる


(いつか、きっと)





END.







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