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「悪いけど、今年もよろしく」
ドサッと食卓に大きめの紙袋が置かれる。袋の端からはリボンがはみ出ており、中にはぎっしりと色とりどりのプレゼントボックスが詰められていた。
夕飯の支度をしつつ、視線だけを先程帰宅したばかりの安室へと向ける。
『去年より増えてるわね…』
「個別にお返しはできないよって、宣言はしてあるんだけどなぁ……」
一度洗面所へと消えたもののすぐリビングに戻ってきた彼は、私の言葉に苦笑いしてから席に着いた。預かった紙袋は、汚れないように一旦部屋の隅へと移動させておく。
今年もやってきたバレンタイン。就職して「王子」を始めてからは恒例と化してきたが、この時期は決まって私の家にお菓子が溢れる。そしてそれはここ数年でさらに勢いを増していた。
私が貰ってくる分のお菓子と、安室が貰ってくる分のお菓子。元はお互い自分のだけだったものを持ち寄って合流させるようになった結果、以前と比べて部屋に置かれるお菓子が1.5倍ほど増えた。あまり広くはないこの家に対して明らかに異質な量である。
もちろんご厚意でいただいているものなのでありがたい限りなのだが。
皿に盛ったパスタをフォークに巻きつけながら、安室がちらりと部屋の隅に目をやった。
「なんかお前のも増えてないか?紙袋が去年より大きいような……」
『…そうかもね。個々のサイズが大きいだけかもしれないけど』
「個々のサイズが大きいってことは、つまり量が増えてるってことだろ?
あんまり無理して消費しなくていいからな…」
『大丈夫よ、ちゃんと全部食べるわ。貴方の分までね』
「乙女の恋心を無駄にはしたくないもの」と笑い掛けると、真向かいの彼が申し訳なさそうに肩を竦める。とは言え、今年は結構頑張らないと厳しいかもしれないけれど。ぱっと見だが過去最高の量かもしれない。
バレンタインには手作りのお菓子がつきものだ。特に若い女の子はこぞって手作りで用意する。もちろん市販のお菓子を買ってくる子もいるが、体感は手作りの方が多い。
私の場合はくれる人の大抵がファンの子だし、安室も同じくファンであろうお客さんから貰った物が多い。そうなると自然と手作り率が上がる。
私は甘いものが好きなこともあり毎回どれも美味しくいただくのだが、安室は職務上そうはいかず。手作りどころか市販のものすら「人から貰った物を安易に食べられない」と言って口にしないことがほとんど。したがって、彼はバレンタインのお菓子を受け取りはしても食べはしないのだ。
事情を知っていればそもそもあげないという選択肢を取れるが、ポアロのお客さんともなると難しい。おいそれと説明するわけにもいかないし。
だから代打で私が消費役を買って出ている、というのがここ数年の話。安室に食べてほしくて用意してくれた女の子たちには悪いけども、そのままゴミ箱行きよりはマシということで許してほしい。
『仕方がないとはいえ、貴方にあげたチョコがわたしに流れてると知ったらさぞかし悲しむでしょうね。罪な人…』
「いやいや、恋愛する気がないのに“王子”で売ってるお前も大概だからな?」
『あら、さすがにみんな営業用のキャラ作りだって分かってるわよ』
「さあ、どーだかね……」
早速本日のデザートとしていくつかいただこうと思い、紙袋の中身を漁る。手作りのものを優先して食べなければ。
まずは自分が貰った分にしようかと、明らかに手作りのチョコレートマフィンが入った袋をひとつ取り出した。…おや、メッセージカード入りのようだ。
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