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「……。沙月ってさ、僕が女の子からチョコ貰ったら妬いたりする?」


『んー?…いいえ。貴方なら、バレンタインにチョコを貰うなんて当たり前のことでしょう?』


「いや、当たり前とかじゃなくってー…。…目の前で人からの手紙を読み出すような奴に言っても無駄か……」




ハートマークと共に「王子、大好きです」というメッセージが書かれた可愛らしいカードに目を通していると、向かいで「はぁー…」と大袈裟に溜息をつかれて顔を上げる。この男は私に妬いてほしいとでも言うのだろうか。
バレンタインなんてなくとも常日頃からモテまくっているくせに、何を今更。こんなのを相手に妬いていたらとてもじゃないが身が持たない。




『ポアロのイケメン看板店員がバレンタインにチョコを貰った程度で動揺してたら、貴方の恋人なんて務まらないわよ』


「はぁー?女の子にモテる女が女の子からチョコ貰ってるだけでモヤッとする僕に、お前の恋人は務まらないってこと?」


『あら、じゃあ貴方はこのチョコの数だけモヤッとしてたの?』


「……どーせ僕は心が狭いですよーだ」




ふん、とそっぽを向いた安室は私が貰ったファンからのチョコを快く思っていないらしい。日頃の態度からして察してはいたが。
いくつチョコを貰ったとてこの中から恋愛に発展する例はひとつもないというのに、一体どこに妬いているんだか。貰った分とは別にしてあった小さな紙袋を手に取り、ご機嫌斜めな彼の目の前に差し出した。




『そう拗ねないの。わたしの本命が貰えるのは貴方だけなんだから、ファンの女の子からのチョコくらい見逃しなさい』


「……! 食べて良い?」


『ええ、勿論』


「いただきます!」




さっさと袋から中身を取り出して食べ始める彼に思わず笑みが零れる。普段は年齢の割に随分と大人びているように見えるけど、時々こうやって幼い面が垣間見えるというか。取り繕わなくてもいい空間があるのは良いことだ。

「来年はもうちょっと貰う量減らせよ」と冗談交じりに言いながらブラウニーを貪る彼を眺めていたら、ふと安室は知り合った当初から私の作ったものは警戒せずに食べていたことを思い出した。




『(…思ってたよりもずっと前から、わたしは貴方の信頼を勝ち取っていたのね)』




あまり意識したことはなかったけれど。今ならそれが特別なことであったと分かる。
――いつから私は、この人の特別だった?

そんなことを考えてるとは知らずに、私の視線に気付いた安室が「美味しいよ」と笑う。特に訂正せずに「そう、良かった」と返した。
いつでも出動できるよう常に体調を万全にしている彼の信頼を、私はいつどこで得たのだろう。いつか機会があれば聞いてみようか。
今はただ、私の作ったものを笑顔で食す彼を眺めていたい。


二人で暮らすには少々狭い部屋の中、チョコレートの甘ったるい香りがしばらく漂っていた。






別なチョコレートを




END.





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