浜辺/SideC - 1

 俺がマズいと気づいたのは、部屋のベッドの上に乱暴に投げ捨てられたスマホを見つけた瞬間だった。

「はぁ!? 八百万がいない!?」
「そろそろ夕食の時間なので部屋に呼びに行ったらスマホだけが置いてあって、部員の方々に話を聞いたら散歩に行く、と言っていたそうで……」
「あ〜……まぁ去年もそうだったから地形は頭の中に入ってるだろうが……悪いが絹川、探してきてもらっていいか? 私も出る。見つかったら連絡をくれ」
「わかりました」
「時間が経っても見つからないようなら飯食い終わった部員出すから。悪いね」



 ……というのが、今までの流れ。俺は命ちゃんが行きそうな場所を手当たり次第に見て回っていた。特徴的な容姿をしているから、隠れでもしていない限りすぐに見つかるだろうとは思っていた。実際、監督の言う”去年”もそうだった。そろそろ帰ろうと思っていた、と少し残念そうにしていたのを覚えている。

「命ちゃん?」

 しかし、捜索は思ったよりも難航していた。人手が俺と先生だけというのもあるだろうが、それよりもおそらく近くに命ちゃんがいなさそうな感じがする。ホテルの休憩室、裏手にある林の小道、近くの売店街……色々見て回ってもどこにもいない。命ちゃんのいそうなところを脳内の周辺地図と見比べて、残った最後の一つである人のいない海辺にやってきた。
 命ちゃんは人が嫌いなわけじゃないけど、煩いのは好きじゃない。いつもそう言って俺の部屋にやってくるし、図書室にいるのもそういった理由からだったはずだ。確信と祈りがない交ぜになったまま、彼女の名前を呼びながら浜辺を小走りしている。

「……あれ」

 人の気配がしてそちらへと近づくと、思った姿ではなく。

「絹川君……だっけ? 夏甲ぶりだね」

 命ちゃんが度々名前を出す彼、火呑鼓柄の姿がそこにはあった。


 思った人の姿ではなかったことに脳は通常通りの回転を始める。命ちゃんがここにもいないということは、今一体どこにいるんだろうか。探した場所を監督に報告をした方が良いだろう。そもそも、昔から何かと連絡手段を捨てる癖は何とかならないものか。それが彼女らしいところでもあるのだが。

「あぁ、久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「本当にね。あ、甲子園優勝おめでとう。テレビで見たよ。自分に勝ったチームが優勝するって言うのは中々清々しいね」
「ありがとう。命ちゃんが君のこと評価してたよ。最後のホームランはやられた、次戦う時はよろしく」
「それはこっちのセリフだよ、あのホームランはしてやられたな。次戦う時はもっと強くなってるから。宜しくね、絹川君!」

 目の前の彼はそういって快活に手を振った。あぁそうだ、彼がいつからここにいるのかは知らないが、とりあえず命ちゃんの行方を聞くのは悪くはない。立ち去ろうとした足の軸を少しだけ戻して、火吞君の方へと目線を向けた。

「そうだ、火呑君。命ちゃんを見なかったかな?」
「八百万? いや、見てないけど……何かあったのか?」
「スマホを置いて出て行ったみたいなんだよね。見てないならここら辺にもいないのかな……ありがとう。じゃあ僕はこれで失礼するよ」
「あぁ、俺の方でもちょっと見てみるよ」

 なぜここにいるのか気になるところではあったが、それよりも今は命ちゃんを探す方が先だ。そう思って彼にありがとうとだけ一言告げて、また小走りでこの場を去った。