浜辺/SideC - 4
『__彼女は、僕の光なんです』
淀みなく、真っすぐにこちらを見据えてくるこの男が、兎角気持ちが悪かった。執着を隠すつもりもないこの発言も、態度も、とにかく恐ろしく思えて仕方がなかった。その場を「ふーん」だのなんだの、適当に煙に巻いて誤魔化した覚えがある。
「ぷはー……」
『八百万は問題起こしてばっかじゃないですか!俺の方が指示通りに投げられます!』『絹川の野球歴、聞きました。なんであいつなんかがスタメンなんですか』等々……二人に対する文句が山のように届いているのは事実。しかしその文句言いが全員あの二人より実力で劣っているのも事実。スタメンを変えるつもりはない。××高校野球部は実力主義。私が監督になった八年前からずっとそうだ。
「いやー、あのやんちゃには手を焼くなぁ」
天才というよりは秀才の二人だ。才能やセンスは持っているが、それを伸ばすのが異常に上手い。とびぬけて努力の仕方が上手い八百万と、努力の量が異常な絹川。二人を見て天才と思ってしまうのは仕方がない。ただ、本当に努力をしているのだ。努力をする悪魔とはなかなか健気だとは思う。
「あの時悪魔に魂を売ったと思っていたけど、まさか悪魔が二人いたとは……」
二人目の悪魔、絹川優吾。入部後に化け物のような成長を見せ、甲子園も八百万を御しながら時に他の投手ともバッテリーを組んでいた柔軟性に富んだ男。八百万に異常な執着を見せ、この合宿でさらに成長の兆しを見せている、努力の怪物。
ほんの少し先、秋の大会。すでに花開いた怪物が、さらに大きく化ける時。悪魔が過去を振り返り、さらに成長を遂げる時。酒を大きく煽り、熱さに窓を開ける。一人の平凡な人間の頬を、潮風が撫でた。
秋は、近い。
(了)