天竺鹿撫1 - 2
奨学金という名の借金ををしこたま借りて、医師になることを決めた。私ならなれる自信も、死ぬまで続けられる自信もあった。リターンが大きい良い職業だと思う。葬儀屋とナントカは食に困らないとは言うが、医師も大概だ。
「鹿撫ちゃん、今日はもう上がっていいよ。キッチンの上にまかない置いてるから持って帰ってね」
「ありがとうございます。じゃあ、今日は失礼しますね」
幼少期からお世話になっていた近所のカフェ。ボーダーに所属してから忙しくなったけど、防衛任務に入れない合間を縫って、自分の時間を換金している。私の家庭の事情を知っているからよくまかないをくれるし、緊急で任務が入っても『ボーダーだものね。頑張って』と言ってくれるいい人だ。
「今日は……サンドイッチ。そんなに食べられないから軽食は助かるな」
幼少期、両親に先立たれた。ありがちな交通事故で、後部座席にいた私と弟だけが生き残った。私たちの手元に遺されたのは古い木造二階建てと、少額で積み立てられていた死亡保険の千五百万。そのうち百五十万は墓代に消えて、まぁ、それぐらい。人間関係もないから葬式すらしなかった。物言わぬ骨になって石の下に腰を落ち着ける両親を見て、隣にいる幼い子供を死んでも守ると誓った。
「お先に失礼します。サンドイッチ、美味しくいただきますね」
「はぁい。ちゃんと食べて寝てね〜」
軽い鈴の音を背に、曇天を見上げる。鞄の底で寝転がっている折り畳み傘を上まで引っ張って、帰宅路を一人で歩き出した。二十歳、冷え込む冬のこと。私の夢は、昨日終わった。