天竺鹿撫1 - 3

 診断の結果、私は隊をやめてオペレーターに転向した。それなりに引き留められたけど、これで『やっぱりやめません』って言ったら過去の私の決意を無駄にしてしまう。自分の決意を裏切りたくない。そう思ってはっきり『やめます』と言った。
 後悔がないと言えば嘘になる。離隊後三日は虚脱感で家から出られなかったし、未練ばかりで今でもダラダラとランク戦の映像を見てしまうし、気を抜けば足は訓練場の方に向く。トリガーは返却したんだってば。そう言い聞かせては正しい道へと足を戻す。

「業務終了まであと二時間……その後は家戻ってシャワー浴びてバイト先行って……」
「天竺さぁん。前言ってた希望届、ここに置いとくねぇ」
「あ、はーい。ありがとうございまーす」

 戦闘員を辞める辞めないとうじうじ悩んでいる間にボーダーは人が増えて、射手だの狙撃手だのポジションが増えて、ランク戦には実況なんかついて、私も何度か解説席に付いちゃったりして。私もすっかり古株と呼ばれる側になった。
 古株というと、今ランク戦の昼の部では東さんが解説に入っていると自販機の近くで耳にした。古株から新入りまで、多くの人がお世話になっている東さん。例に漏れず私もお世話になりまくっており、銃手から狙撃手への転向は東さんの助言によるものが大きい。前線を張らずに後方から援護をするとか、警戒をしながらオペレーターの手助けをするとか、待って構えて打ち抜くとか。割と私向き……だと思っている。勝手に。
 トリオンが許せば出水隊員のように大量の弾の弾道をリアルタイムで引いたり、他の狙撃手のように鉛弾を入れてみたりしたかった。他隊員のサポートをするために新しいトリガーを入れるのすら悩ましいレベルの貧弱トリオン器官だったので、泣く泣く少ない手札で長く戦うことを選んだのだが。

「部隊付きオペレーターへの転向の希望届……」

 何となしに要求したこれを形式だけペラペラと眺め、記名欄に天竺鹿撫、と。自分の名前を書き記した。オペレーターに転向するとは言ったが、元の隊に戻りたいわけではない。トリオン量が少なくて戦略に悩む私を立派にサポートしてくれたあの子がいるし、何より、次ランク戦で相見える時は敵同士だと笑いあったのだから。だからこれは、形式上のものだ。古株として、指揮官として、約束をした身として。中央オペセンターで宙ぶらりんというのは気が引けたし、この知識を腐らせるのは勿体ないと思ってしまったのだ。

「提出提出……」

 ほんの十数歩歩いて、上司のいないデスクに希望届けを提出する。まぁ物好きがいたら呼ばれるでしょう。そんなことを思いながら。