火呑鼓柄1 - 2

「火呑さ〜ん!防衛任務交代の時間ですよ〜!」
「お、お疲れ。なんか今日少なかったよ」
「マジですか? まぁ来ないに越したことはないですからねぇ」

 任務交代のためにやってきた隊員に軽く手を振り、周囲に問題がないことを確認して本部へと戻る。任務を終えてトリガーをオフにすれば、体がずしりと重くなった気がする。ここ最近レポートに追われてあまり眠れていないから、疲労を訴えかけてきているのだろう。
 今回臨時で隊を組んだメンバーに「お疲れ、気をつけて帰れよ」と声をかけて、大学の講義へ向かおうと鞄を肩へかける。防衛任務のお陰で出なければならない講義は減ったものの、レポートが減るわけではない。今度タメの三門大組を捕まえてレポート合宿(誰かの家で一泊二日)をするのも悪くはないだろう。俺がヤバいってことはみんなもヤバいはずだからな。

「くぁ……」

 大きなあくびを一つ。生理現象の涙を擦って落とし、流れで腕時計の時間を確認した。ひび割れた時計が指し示すのは十一時半。三限が始まるまでまだ時間があるから、昼飯を何処かで食っていくのもいいだろう。
 そう思案しているとどうやら電話が来たらしく、ポケットに入れたスマホが音を立てて震え出した。眠気三割の中にいる俺は特に発信先を確認もせずに応答を押し、画面を耳に当てた。

「ぁい」
「あ、もしもし火呑くん?」
「うぉ……彼岸さん、お疲れ様です……」

 俺に電話を入れたのは葉場隊オペで元エンジニアの彼岸橙瑚さん。殴れるトリガー作ってください、みたいな感じの要望を出しに行った時に話を聞いてくれた人だ。
 今もたまに話をしているが、それはあくまで俺が技術開発室に顔を出しているから。LINEがくるのは忘れ物をした時で、電話をしてくるのは人に自慢できるぐらいレアだ。

「お疲れ〜、すんごい眠そうだけど大丈夫? 今時間ある?」
「あー、三限あるんでそれでもよければ……」
「用があるの俺じゃなくてね」
「はぁ」
「本部なんだ。偉い人が呼んでて」
「……えぇ?」

 本部の偉い人が俺を呼んでる。文字通りなら本部の偉い人が俺を呼んでいるんだろうが、眠気五割の脳には負荷の大きい話じゃないか? ちょっと時間が欲しい。そんな態度を隠さないままでいると、スマホから缶を開ける音とともに快活な笑い声が聞こえてくる。この人は何徹目なんだろう。

「通りすがりの俺が火呑くんの連絡先を知っていたからよろしく、って感じ。スマホの引き継ぎ失敗してメモしてない連絡先無くなったんでしょ?」
「まぁ、そうですね。この機にちゃんとします」
「そーして。電話とかいう内容がちゃんと伝わってるかわかんないアナログ連絡方法得意じゃないから」
「デジタルですよ、電話は」

 程々にツッコミを入れて少し眠気の覚めた頭は聞くべきことを思い出したようで、それを思いついた俺はその内容が口をついた。

「あ、んでいつ行ったらいいですか? 今?」
「行ける時間帯言ってくれたら俺が擦り合わせとくよ、学生」
「おー……向こう一週間の防衛任務と時間割出しときます」

 「おっけー、んじゃ後で時間送るね」という言葉はだんだん眠気を纏うようになって、最後はあくび混じりの「お疲れ」になった。忘れないうちに送るべきものを送り、既読を確認してからスマホをしまう。素行不良な己ではあるが、流石に規定には触れていない。咎められるようなことはないはずだと脳を落ち着かせ、要件を想像する。
 そろそろ新しい支部を作る、みたいな噂を聞いたからそこへの転属指示だろうか。だとすれば俺だけを呼ぶ理由がないか。転属させる人間を全員呼んで説明すればいい。あとは……そろそろ隊を組め、とか? いや別に防衛任務にちゃんと入ってるからわざわざ上の人間が言ってくる理由がない。

「うーん……」

 悩んでもわからないことは考えても仕方がない。大きく伸びをして青い空を見上げた。