追崎優雨1 - 1
「だからねのっちゃん、私はスナイパー一人は絶対欲しいの。残り一人は……アタッカーかガンナーね。二人目の点取り屋。んで私がサポート。これが一番効率いいよ」
「四人隊ですか? オペレーターの負担が大きいから厳しいって聞きましたけど」
「そりゃそれを何とか出来るオペを探すんだよ。私が三人指示できるんだから三人いたほうが隊として強いに決まってるでしょ」
「はぁ……」
喧噪の中、一人の少女と一人の女性が向かい合って座っている。双方、料理を口に運びながら。水を飲みながら。といっても、一方的に女性が話しているのに少女が相槌を打っているだけなので、遠目から見れば会話というよりも女性が一方的に畳みかけているだけのように見えるかもしれない。
「そりゃあね、私が四人いればスナイパーの私とアタッカーの私とサポーターの私とオペレーターの私、あとのっちゃんで隊組めばいいけど、私が四人もいたら普通にウザイでしょ?」
「あぁ、自覚あったんですね」
「お喋理詰しゃべりづめ女。中学二年後期のあだ名」
「でしたっけ? よく覚えてますね」
事実陳列。あだ名として悪くはなかった。女性がそういうと“のっちゃん”と呼ばれた少女は何かを思い出すような仕草をし、一呼吸おいて諦めの表情と共に白米に箸を埋めた。それを見た女性は少しだけ楽しそうに笑った後、うどんを啜る。咀嚼を終わらせた女性がフリーになった箸を空で踊らせながら、変わらない会話の物量を少女へとぶつけていく。
結局何のトリガー使いたい? どんな戦い方したら動きやすい? どんな戦い方をしたい? どんな敵に対して有効的な動きができる? 逆にどんな敵は苦手? 明日の天気を聞くような軽さで少女の戦いの情報を掘り出していく。まるで少女が世界の中心だと、自分はその通りに世界を動かすのが仕事だと言わんばかりの態度。見る人間が見れば主従契約でも結んでいるのかと勘違いをする可能性すらあるが、常より女性の態度があまりにも“あけすけ”なのでそんな勘違いは起きないことになっている。
そんな平穏な__あるいは喧噪を上塗りしたような__会話をする二人の席に、一つの影が差した。その影を見た二人の表情が欠片も明るくならず、何かを思い出すような素振りもないことから知り合いでないことは明白だろう。
「追崎さんと藤野さんで合ってる?」
女性と少女……追崎と藤野は二人顔を見合わせ、読み合った。お先にどうぞ。そういうのはそっちの仕事でしょう。でもどうせいつものだよ。だからですよ。
六秒後、圧に負けた__あるいは自分が対処した方が早いと思った__追崎が一つため息をついて影へと声を投げかけた。
「はいはい、間違いないよ。私が追崎、こっちが藤野」
「あぁよかった。その、食事中だけどいいかな」
「手早くよろしく」
箸を机の上に優しく置いた追崎は、声のトーンを二つほど下げて肘をつく。影は藤野の隣の空き席に「ちょっと失礼」と言って座ると、身振り手振りを交えて話を始めた。
「二人ってちょっとした有名人なんだよね。ほら、C級の時に戦闘訓練で小型バムスターを五分以内に倒すってやつあるだろ? あれ二十秒切ってたとか」
「知ってるよ。あと私が十二秒なだけでのっちゃんは十秒切ってる」
「今そこじゃなくないですか?」
「勘違いしてるみたいだから言ってあげてるんだよ。優しいじゃん」
「あ、あぁ、そうだったんだ。話に聞いてただけだから……じゃあもっとすごいんだね」
影は遠慮容赦なしに言葉と視線のナイフで切り付けられ、内心半泣きになりながらもこの爆発物をなるべく刺激しないように言葉を選んで会話を続けようと口を必死に回す。いかにこの二人が期待の新人か、早々にB急に上がったことが喜ばしい。組織としても、一個人としても。
長々と話す隣で無関心に鮭をつつく藤野をチラ見した追崎は、二つめのため息をついてグラスを指ではじいた。プラスチック特有の高くも低くもなく響かないはずの音はこの三者の中ではよく響いたようで、少しの言葉の間が訪れる。面食らったような顔をした影をみて三つめのため息をつき、頭をかいた。
「もーまだるっこしいなぁ!どうせ勧誘でしょ!? 私達、自分で隊組むんで。これでいい!?」
「え」
「食事中なの。うどんなの!」
男の長話に付き合ったことにより大分冷めきってしまったうどんを指さし、追崎は怒気を隠すことなく影に目線をやった。その対面で藤野がプラスチックのレトログラスを大きく傾け、丁寧に両の手を合わせる。それを食事終了の合図と受け取った追崎は、今までのため息を濃縮したような四つ目のため息をつき「あのね」と。
「そもそも手早く頼むって言ったのに媚から始めないで。話しかけるときは相手が何をしてるのか、食事中なら何を食べているのか、態度からわかる機嫌はどうか、見て確認して機を伺うものでしょ? 悪いけど、そこらへん気が合わない人間とは隊を組めない。今度こそ、昼食にありつかせてくれるよね?」
「ごちそう様でした」
追崎の圧に負け、藤野の態度に負け、影は小さく「失礼しました……」とつぶやいてその場を去った。また藤野も食事が終われば膳を戻す必要があり、席を立つ。追崎だけが椅子に根を張り、温くなったうどんを少しだけ嫌そうに啜っていた。
膳を戻して荷物を取りに来た藤野が、空になったどんぶりを前に両手を合わせる追崎へと声をかける。
「まぁ、追崎が集めたい人を集めればいいんじゃないんですか」
「そうなるかなぁ。のっちゃんにこだわりがあれば聞くよ」
「一応考えてはおきますけど……期待はしないでくださいね? ランク戦に行ってきます。追崎はどうします?」
「んー……いや、今日は銃手の方に顔出してくる。ありがと、また誘ってね」
肩に荷物をかけ、どんぶりを乗せた膳を持って追崎は立ちあがる。別れ文句を受け取った藤野は軽く頷いて「また」と言ってその場を立ち去った。