米倉隊1 - 3
流石の足袋も空気を読むのかとか、必要最低限の礼儀とかそこら辺は弁えているのだなとか、彼を知る人物は思ったことだろう。少しばかりやつれた様子の絹川は、いつもより少しだけ表情を硬くした白塔は、真っ白な肌を更に白くした足袋でさえ……その日は、真っ黒な喪服を身につけていた。
『本日はご多用中のところ、息子……翔真の葬儀に多数ご参列いただきまして、ありがとうございました』
『おかげさまをもちまして、式をつつがなく執り行うことができました。心よりお礼申し上げます。息子の翔真は一昨日病院で、17歳の生涯を終えました。事故死、でした……』
震える声で息子の死を読み上げる父の姿を見て、一部の参列者は涙を流した。溢れる声を無理やりに押し殺し、殺しきれない声は葬儀場に溢れていた。
真面目な顔をして眼鏡をそっと押し上げる絹川を横目に、白塔は今後についてを思案していた。この後、隊室に集まることになっている。そのように白塔が連絡を入れたからだ。白塔と絹川の二人隊というのもやれなくは無いが、当の絹川がブレていて、かつボーダーに向いていないのでは仕方がない。足袋の動向次第ではあるが、辞めるニュアンスを含めた言葉を発して察せないほどの鈍感では無いことは知っている。どう切り出すか。それを思って、心の中でため息をついていた。
米倉隊は、米倉の隊だ。彼なしでは形を保つのは難しい。それは、皆がよく知っていた。
帰り道はそれぞれが予想していた通り、基本的に静かなものだった。白いものを見ると飛びかかって写真を撮りまくる足袋も今日はその奇行をぐっと堪え、堪えた様子を見た白塔が軽く意地悪のように白いものを報告する程度。いつもの四人に比べれば、これは静寂に寄っている。
ボーダー内で気を使われないようにと、連絡用通路の段階でトリガーを起動して隊服へと着替えた。隊服の状態でボーダーに戻ると違和感を持たれるかもしれなかったが、世の中の人間はそう大して他人を見ていないよ、と言う足袋の言葉に二人が納得した形だった。
「それで」
それぞれが荷物を置いて一息つき、飲み物を用意して椅子に座ってすぐ、白塔は話を切り出した。
「これからどうします? 今年度も残り四分の一ですけど」
米倉が死んでから今に至るまで、どう話すべきか考えた結果を切り出した。米倉隊を解散させますよね、というニュアンスを含めた言葉を、それぞれが理解している。
絹川は、一度隊としての形を保留しておく必要があるな、ぐらいの気持ちでいた。一応医大を目指す身で、本腰を入れるにはあまりに遅い時期。落ちればボーダーに所属したまま、受かれば辞める、ぐらいの心持ち。今まで他者に選択を委ねて生きてきた絹川は、初めて選んだ復讐と自己嫌悪を、今更簡単に切り捨てられるほど強くはなかった。
絹川が口を開く。喉元まででかかった妥協と甘えを吐き出そうとする。
「はい!はいはい!報告があります!」
「……どうしました?」
それを、立ち上がった白い塊が遮った。人の言葉を遮ってまで発言をする気力も意思も、絹川には無い。容赦も遠慮もなく、白塔に発言権を貰った足袋はどのように話を進めるべきかお伺いを立て出した。
「簡潔に言った方がいい?」
「任せますよ」
「うーん……えーっとね、俺、大学では情報工学とか物理学とか、趣味でプログラミング系も取ってるんだよね」
「ボーダー忙しいのによくやりますね。いいですか絹川さん、かなり無茶ですからね」
「あ、あはは……」
簡潔に言うべきかも、という遠慮は何処へやら。任せると言われたのなら好きに喋るかと、意気揚々と自己アピールを始めた。
足袋は指揮能力は低いが、オペレーターとして欲しい能力はしっかり持っている技能派オペレーターだ。その能力は企業でも十分やって行けるレベルで、大学出たらボーダー辞めるもんね、と進路の話になると必ず言っていた。
「それでさぁ、去年から大学によくしてもらってる教授……ボーダーの人だったんだけど、その人に進路相談ついでに作ったプログラムとか見せてドヤってたんだよね。二年から就活始めるとかモラトリアムもクソもないよ〜」
「やっぱり結論から話して貰えますか?」
「あぁごめん。まぁ、去年ボーダーのエンジニア室にスカウト貰ってたんだ。でも隊のことあるからって一年考えてて……今決めた。俺、オペやるの普通に好きだけど、泣きながらコード打ってる瞬間はもっと好き。だから今期でオペやめて、来期からはエンジニア室に入る」
いつにも増して真面目な顔をした足袋は、その顔を崩していつものおちゃらけた表情へ戻る。ビシッと人差し指を二人へ向け、米倉とは違う明るさを振りまいた。
「みんな、各々進むべき道を進む時が来たのだ!」
白塔は呆れながらも踏ん切りが着いたな、と目線を軽く絹川へ向けた。当の絹川は逃げ場がなくなったな、と言う表情をし「僕も、来年からは大学だから」と自らの進路へ踏ん切りをつけた。
三月末の頃、米倉隊は解散した。隊長の事故死、オペレーターのエンジニアへの転向、メインアタッカーのあまりに多忙な進路先。その全てが、解散を宿命づけているかのようだった。