部屋にて
「おかしいよ〜!!春草もそう思うよね〜!?」
「夜春はまたそうやって暴れまわって……そうじゃの。そう思うぞ」
暴れまわっているとは心外な。借りているアパートの一室で暴れ回れば隣または下の住人に大きなブーイングを頂戴することは必至オブ必至というもので、暴れ回りたい、世界に叫びたいという感情を必死に抑えて私は私のイマジナリーフレンドである春草──この間いい加減名前を決めろ!と迫られて咄嗟に『春草』と名付けたが正直もう少し考えたかった──に問いかけていた。
私は物心ついた時からこの黒髪猫耳のじゃロリにつきまとわれている……と言うかもはや生活の一部だ。イマジナリーフレンドを“そう言うもの”として認識できていなかった頃から春草は私の近くにいてお世話をしてくれている。実態がないため料理を作る等の物理的な世話はできないし、今の所私以外の誰にも見えていないのであくまでメンタル的なお世話ではあるが。本当に幼い頃は「し〜〜っ、じゃ!し〜〜〜!!」みたいな感じでほかの人がいるときは私の世間体を守ってくれていた。おかげさまで不思議ちゃんのレッテルを貼られることなくナイ美に通えている。
「うぇぁ〜〜〜〜もう無理だよ〜〜〜〜」
「無理ではない。夜春ならできる。ほら、どこがおかしいか見ればわかるであろう?」
「わかんない!」
「やれやれ……」
いやちょっとはわかる。ここがおかしい。あとここも変。ふわっとした違和感を明確に形にしていくのは苦しいが楽しい。紛れもなくこの私の絵には二箇所おかしい部分がある。ただ春草は私以上に芸術のセンスに恵まれているようで、三箇所、四箇所目を指摘してくるのだ。私とて芸術のセンスに恵まれている……というか努力を重ねてきた自覚はあるのだが、春草には勝てない。可愛いね春草。今日も好きだよ。なんか猫とめっちゃ喋ってたら私日本語より猫語の方が上手く喋れるようになったんだ。おかしいね。
「ここー……と……ここ…………」
「そうじゃな。あとは?」
「ほら〜〜〜〜わかんないよ〜〜〜〜!!どうせあと二箇所ぐらいあるんでしょ〜〜〜〜!?」
「わかっているではないか。あと二箇所変なところがあるぞ。まぁこれだけで済んでいるのだから昔から努力を重ねてきた甲斐があると言うものじゃな!」
「わはは!」と、そんなことを言いながら指でおかしい場所を指摘してくる。くぅ、はい、そうです、おかしいです……。春草のアドバイスは割としっかり正しい。そうだと言われればハイそうですとしか言えない。掴みきれていなかった違和感をしっかりと掴ませてくれる、実体を持たせてくれるのだ。最近はそれに甘えてしまっている節はある。いつまでも春草に頼っていたままでは独り立ちができないし何よりいなくなった後のことが大変だ。だから頑張ろう、とはしている、の、だが…………。
「ねぇ春草、呼んでいい?」
「んー? 好きにすれば良いのではないか? まぁ毛だらけにならぬように片付けと準備を怠るでないぞ」
「はーい」
部屋のありとあらゆる絵やら荷物やらをクローゼットに一息に押し込める。こうして部屋にはクローゼットと机と棚とテレビしか残らなくなった。窓と扉を開けて、精神を統一してこう、なんか、いい感じに気合を入れる。
ふっ、と肩が重くなり、体が倦怠感を訴える。若干の疲労と遠くから聞こえてくる沢山の声。あれ、なんか、呼び過ぎたかも。
「うなぁ〜ん」「な〜ん」「にゃんにゃー」
「夜春、呼びすぎじゃ」
「わ、私とてこんなに呼ぼうと思って呼んでいるわけでは……」
猫、八十七匹。私の疲労感を対価に呼ぶことのできた猫の数。家中を、そしてなんなら庭を埋め尽くさんと言わんばかりの猫がこのアパートに集ってきた。気分転換に軽く呼ぼう!ぐらいの気持ちだったのに。
私の部屋は物が少ないのはクローゼットに収められるだけに抑えておきたいからだ。猫を呼ぶと、たまに、こうなる。全てが猫の毛まみれになるのは些か忍びない。猫アレルギーじゃなくてよかったと心から思う。
「やだよねー、クソ課題」
「うなぁ〜お」
「ね!猫類もそう思うよねー!……じゃないや。にゃ!なーごにゃーんにゃにゃ、うなんにゃー!」
「うな!」「にゃーん」「んにゃ……」
「なんじゃ猫類とは」
「人類ならぬ猫類」
そういえば春草は猫なのかな。猫類さんなのかな。それともそういう枠に収まらないオンリーワンゴッドなのかな? 尻尾を触ろうとして触れられないことを思い出す。春草は昔から触れない。なぜなら私のイマジナリーフレンドだから。
「んね、春草」
「なんじゃ?」
「私が『そう思うよねー春草』って言ったら今まで通りの返事でいいんだけどさ」
「うむ」
「『そう思うよねー、人類』とか『猫類』って言ったら『そう思う類〜!』を基準とした形で返事してくれない?」
「大丈夫か?」
「正気だよ!」
疲れているけど正気ではある。この大量の猫をどう返そうかとかそんなことを考えるのはめんどくさい。扉を閉めて防犯だけはしっかりしてベッドに寝転がる。猫が私の身体中をふみふみしてなんか幸せがすごい。
「そう思う類……まぁ任せろなのじゃ!しょうがないの〜〜!!」
「えへ、春草大好き!」
なんだかんだで私にゲロ甘い春草はよくわからないことでも受け入れてくれるので、私は甘えてしまうというわけだ。
「夜春は昔から甘えたじゃの〜。幼い頃は『一人で寝るの寂しいから一緒に寝て〜』じゃとか『怖いの見たから一人でトイレ行け、「春草!」うはは!」
(了)