宣言ホームラン - 5

 ────バケモンか? そう口に出さなかったことを褒めて欲しい。すぐさま振り返り白球を目で追えば、遠く彼方、センターのさらに奥。……つまるところ、観客席へと落ちていった。ツーランホームラン。内角低めの球を無理やり打ち上げた、化け物の所業。今の点差は四対十で六点。点差や実力などを鑑みても迫られることはない点差だが、一番の問題は今ホームランを打たれてしまったことにある。
 絹川が監督に合図を出し、監督がベンチの選手へ指示を出す。腕も肩も、足の方も正直限界だ。これ以上投げたら絶対壊れる。交代の指示は妥当。何よりそういう約束だ。受け入れはする。

「命ちゃん、大丈夫?」

 喋る元気もあまりない。ホームランを打たれたことにより張り続けていた糸が急に切れた。早くベンチに戻って座りたい。そのことを態度で示すように「大丈夫」とだけ告げてその場を去った。絹川なら大丈夫だ。ちゃんとラスト一アウトを取ってくれる。
 背中に絹川の視線を受けながら足早にベンチへと戻る。暑い。喉がカラカラだ。疲労で体から悲鳴が聞こえてくる。

「お疲れ八百万。最後のあれは相手が凄かったな」
「あぁ……」

 軽く返事をしながらベンチの階段を駆け降りる。それと同時に、体が鉛のように重くなった。足に力が入らない。そのまま床に崩れ落ちる。かろうじて上半身は起こせているが、正直奇跡だと思う。

「八百万!? 神田、スポドリと氷!」
「は、はい!」
「そんなに焦らなくてもいい……今日が最高気温四十度とか言うイカれ気温なだけだ……」

 自力で立ち上がれないのをなんとか支えてもらい、ベンチへやっと座る。帽子を外して背もたれに全体重を預け、神田から渡されたスポドリを啜った。

「過去一美味い……」
「冷えピタいりますか?」
「…………いい。遠慮しておく」

 試合はそのまま順調に進み、次のバッターは打たせて取った。スリーアウト、試合終了。初戦は大差で突破だ。
 マスクを取って心配の感情を隠すことなく駆け込んできた絹川を視界で捉え、笑いながらも手を振る。

「命ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。どうせ軽い熱中症だよ」
「軽い熱中症で倒れるんですか!?」
「立ちくらみだろ……」

 心配をやめないマネージャーを適当にあしらいながら、ついさっき下した高校に思いを馳せる。はっきり言って弱かった。人数が少ないし、足りない場所を補うために無理やりポジションについているような感じがした。
 しかし、九回裏。ホームランを打たれるまでの一連の流れ。粘り打たれた末のツーランホームラン。火呑はヤバい。一人じゃ野球はできないが、あいつは一人で流れを良くできる男だ。あいつが一番打者でホームランを打っていたら、そのまま相手に流れが行っていたら。喜んでいるのは相手校かもしれなかった。それにあのピッチャー、ビビリでピンチに弱くてチャンスを活かし切れていない節はあるが、筋は良かった。……バントしづらかったし。

「秋は無理だろうな。夏だな」
「なんの話ですか!?」
「海開き」

(了)