12._
「名前…!?」
「リト!」
びっくりしている俺に彼女は一目散に駆け寄りぎゅっと抱きついた。彼女の匂い、温度、俺は震える手で彼女の腰に手を回した。全て夢かと思った。彼女は暖かくて柔らかくて目の奥がツンとした。感動を再開している傍ら不機嫌そうな咳払いが聞こえる。閉じていた目を開けてそちらを見やればイライラしたオーラをみにまとったロシアさんが立っていた。俺はびくりとはね、名前から手を離し頭を下げた。
「ろ、ろしあさん…」
「…ま、いいけどね」
ロシアさんに何を言われるか怯える俺に彼はふっと笑った。それが皮肉とかじゃなく、なんとも言えないもので俺は内心動揺した。名前は俺の隣にいてにこにこと笑う。
「久しぶりだね!本当に嬉しい!」
「再会を喜んでるみたいで嬉しいけどそろそろ時間だよ」
「時間?」
ロシアさんが合図すると大きなリムジンが近くに来て止まった。名前は俺の腕をぎゅっと握ったまま不安そうにロシアさんを見た。それから俺の方を見る。
「時間…?」
「俺にも…」
ロシアさんはいつのまに近づいたのだろう。名前の視線に合うように屈むと寂しそうに笑った。
「あのね、名前。君は遠くにいかなくちゃいけないんだ」
「遠く?なんで…」
「…いかなくちゃ、行けないから」
ロシアさんは口下手だ。彼はそれだけ言うと立ち上がって名前の手を引いた。名前は俺の手をパッと離すと彼についていく。それが無性に寂しくてロシアさんとの違いを見せつけられた気がした。残る暖かさを握りながら俺が2人を見ているとロシアさんはちらりとこちらを見た。
「ちょっと、君も乗るんだよ」
「え?」
-
そう言って俺は今どこに向かっているかもわからないリムジンに乗っていた。ロシアさんと名前と俺。なんでこんな組み合わせなんだろうと冷や汗をかきつつかしこまった姿勢で彼女とロシアさんを見た。2人はとても仲睦まじく、名前がにこにこと話す話にロシアさんが聞き入っていた。いつもの怖いロシアさんなんてまるでいなかったみたいに。温かい気持ちになりながらそれを見ていると彼女はこちらに気がついたらしい。俺は目を逸らすのも変かと思い焦りながらもにこ、と笑うと彼女はこちらに寄ってきた。
「ね、リト。こうして3人でいるのって珍しいね!嬉しいな。…リトは初めて話した時のこと覚えてる?」
「うん。名前が迷ってた時のことでしょ?」
酷く懐かしい。あの頃の彼女に向けていた視線はただの憐憫だった。何も知らない、かわいそうな子。俺には関係ない。そう、思っていた。あの日も今日のように温かい陽に包まれていたなぁと懐古した。あれから色々あった。俺は何も知らなければよかったのだろうか。何も知らず、かかわらず、名前のことなんて知らなければ。
「あのね、実はリトが途中から部屋に来てくれるようになったでしょ?あれロシアに頼んだんだ」
「…え?」
驚いてロシアさんの方を見れば顔を背けられた。なおも名前はにこにこと語る。
「リトとお話ししたかったから。だから来てくれてすごく楽しかったんだよ」
-
それから名前と今までのことを話した。名前はロシアさんにも物怖じしないで話しかけるものだから俺はたまに震えたけれど彼女を介して見るロシアさんは普通の人だった。優しくて、笑い、ときたま酷く名前に対して慈しむような目を向ける、普通の恋人だった。けれどそんな時間は長くは続かない。いつのまにか日は傾いていてかなり長い時間話していたことに気づく。不意にゆっくりと車が停まって、ロシアさんは表情が見えなくなった。
「…いかなくちゃ」
彼はぼそりとひとりごちるとここで待っててと車を降りた。俺に変なことするなと目で言っているのがわかった。名前は少し不安そうに彼を見たけれど、ロシアさんが優しい顔で頭を撫でてやると待ってるねと笑った。
「ねぇ…私、どこにいくのかな。こわいとこ、かな」
2人きりの室内は酷く静かだ。ロシアさんの前では元気でいた彼女は震える瞳でこちらを見た。今まで強がっていたんだと俺はようやく気づいた。それから彼女の頬に手を触れ、出来るだけ優しくつぶやいた。
「ちがいますよ。怖いくらいに…幸せなところ、ですよ」
「リ…」
コンコン。扉がノックされ、案内人らしき人がドアを開ける。外はロシアとは全く違う。暖かい風がそよそよと肌を掠めた。名前は俺の腕を握ったまま離さない。俺はじんわりと別れを察知して胸が苦しかった。もう会えないかもしれない。そう思った。でも彼女にこれだけは言わなくてはいけない。
「自分のことを思い出して。絶対に。それでも俺に会ってくれるなら、また…」
泣きそうだった。声は震えて情けない顔をしていると思った。俺はぎゅっと握っていた彼女の手を離すと、ロシアさんに会釈し、彼女を渡す。名前はこちらを見て何かを言いかけ、それからこくんと頷いた。ロシアさんはそれだけ見て彼女の手を引き、建物の中に入っていった。残された俺はただ空を見上げて風に吹かれていた。彼女のいく末がどうか幸せでありますように、と。
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徒野
「リト!」
びっくりしている俺に彼女は一目散に駆け寄りぎゅっと抱きついた。彼女の匂い、温度、俺は震える手で彼女の腰に手を回した。全て夢かと思った。彼女は暖かくて柔らかくて目の奥がツンとした。感動を再開している傍ら不機嫌そうな咳払いが聞こえる。閉じていた目を開けてそちらを見やればイライラしたオーラをみにまとったロシアさんが立っていた。俺はびくりとはね、名前から手を離し頭を下げた。
「ろ、ろしあさん…」
「…ま、いいけどね」
ロシアさんに何を言われるか怯える俺に彼はふっと笑った。それが皮肉とかじゃなく、なんとも言えないもので俺は内心動揺した。名前は俺の隣にいてにこにこと笑う。
「久しぶりだね!本当に嬉しい!」
「再会を喜んでるみたいで嬉しいけどそろそろ時間だよ」
「時間?」
ロシアさんが合図すると大きなリムジンが近くに来て止まった。名前は俺の腕をぎゅっと握ったまま不安そうにロシアさんを見た。それから俺の方を見る。
「時間…?」
「俺にも…」
ロシアさんはいつのまに近づいたのだろう。名前の視線に合うように屈むと寂しそうに笑った。
「あのね、名前。君は遠くにいかなくちゃいけないんだ」
「遠く?なんで…」
「…いかなくちゃ、行けないから」
ロシアさんは口下手だ。彼はそれだけ言うと立ち上がって名前の手を引いた。名前は俺の手をパッと離すと彼についていく。それが無性に寂しくてロシアさんとの違いを見せつけられた気がした。残る暖かさを握りながら俺が2人を見ているとロシアさんはちらりとこちらを見た。
「ちょっと、君も乗るんだよ」
「え?」
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そう言って俺は今どこに向かっているかもわからないリムジンに乗っていた。ロシアさんと名前と俺。なんでこんな組み合わせなんだろうと冷や汗をかきつつかしこまった姿勢で彼女とロシアさんを見た。2人はとても仲睦まじく、名前がにこにこと話す話にロシアさんが聞き入っていた。いつもの怖いロシアさんなんてまるでいなかったみたいに。温かい気持ちになりながらそれを見ていると彼女はこちらに気がついたらしい。俺は目を逸らすのも変かと思い焦りながらもにこ、と笑うと彼女はこちらに寄ってきた。
「ね、リト。こうして3人でいるのって珍しいね!嬉しいな。…リトは初めて話した時のこと覚えてる?」
「うん。名前が迷ってた時のことでしょ?」
酷く懐かしい。あの頃の彼女に向けていた視線はただの憐憫だった。何も知らない、かわいそうな子。俺には関係ない。そう、思っていた。あの日も今日のように温かい陽に包まれていたなぁと懐古した。あれから色々あった。俺は何も知らなければよかったのだろうか。何も知らず、かかわらず、名前のことなんて知らなければ。
「あのね、実はリトが途中から部屋に来てくれるようになったでしょ?あれロシアに頼んだんだ」
「…え?」
驚いてロシアさんの方を見れば顔を背けられた。なおも名前はにこにこと語る。
「リトとお話ししたかったから。だから来てくれてすごく楽しかったんだよ」
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それから名前と今までのことを話した。名前はロシアさんにも物怖じしないで話しかけるものだから俺はたまに震えたけれど彼女を介して見るロシアさんは普通の人だった。優しくて、笑い、ときたま酷く名前に対して慈しむような目を向ける、普通の恋人だった。けれどそんな時間は長くは続かない。いつのまにか日は傾いていてかなり長い時間話していたことに気づく。不意にゆっくりと車が停まって、ロシアさんは表情が見えなくなった。
「…いかなくちゃ」
彼はぼそりとひとりごちるとここで待っててと車を降りた。俺に変なことするなと目で言っているのがわかった。名前は少し不安そうに彼を見たけれど、ロシアさんが優しい顔で頭を撫でてやると待ってるねと笑った。
「ねぇ…私、どこにいくのかな。こわいとこ、かな」
2人きりの室内は酷く静かだ。ロシアさんの前では元気でいた彼女は震える瞳でこちらを見た。今まで強がっていたんだと俺はようやく気づいた。それから彼女の頬に手を触れ、出来るだけ優しくつぶやいた。
「ちがいますよ。怖いくらいに…幸せなところ、ですよ」
「リ…」
コンコン。扉がノックされ、案内人らしき人がドアを開ける。外はロシアとは全く違う。暖かい風がそよそよと肌を掠めた。名前は俺の腕を握ったまま離さない。俺はじんわりと別れを察知して胸が苦しかった。もう会えないかもしれない。そう思った。でも彼女にこれだけは言わなくてはいけない。
「自分のことを思い出して。絶対に。それでも俺に会ってくれるなら、また…」
泣きそうだった。声は震えて情けない顔をしていると思った。俺はぎゅっと握っていた彼女の手を離すと、ロシアさんに会釈し、彼女を渡す。名前はこちらを見て何かを言いかけ、それからこくんと頷いた。ロシアさんはそれだけ見て彼女の手を引き、建物の中に入っていった。残された俺はただ空を見上げて風に吹かれていた。彼女のいく末がどうか幸せでありますように、と。
徒野