5.
あの日はとても夕焼けが綺麗な日だったことを覚えています。名前にこっそりと呼び出され、いつも3人でいた私は何だろうととても不思議に思いました。待ち合わせ場所にいるとそわそわした名前は既にいて、私を見つけると

「スイスにはバレてない?」

と小声で言いました。それに頷くとえこはほっと身体を緩ませ安心したように笑いました。私は名前がコロコロ表情を変えるのが好きでした。名前の顔が緊張したような、緩んだような困った顔になって、こっそりと私に耳打ちをします。

「あの、ね、スイスのこと…好きなの」

オーストリアには言っておきたくて…、とつづいたその言葉に強い衝撃を受けました。いつまでも3人でい続けるものだと思っていた私はそんなことを考えたこともなかったからです。私は名前を実の妹のように思っていましたから妹が取られたような、そんな蟠りをすこし感じました。けれど、目の前の名前が頬を赤らめ、恥ずかしそうにしていて、その秘密を相談してくれたことが嬉しかった。

「二人だけの秘密にしてくれる…?」
「はい!」



そう返事をしたはいいものの二人の中は上手くいきませんでした。最近名前が変に私に寄ってくると思った理由に合点がいった私には名前の行動が至極わかりやすいものでしたが、きっとスイスからしたら避けられているように感じたでしょう。こけたえこに手を差し伸べても名前は私の手を取りましたし、プレゼントを渡すときでさえ、スイスに渡したかと思うと私にとても嬉しそうに報告をしました。そのわかりやすさに上手くいくだろうと静観していたのがよくなかったと今では思います。スイスは名前にきらわれていると思ったのか名前に構うことをやめました。私がスイスに何かを言おうにもえことの約束があるものですから上手く伝えられませんでした。

そうしてスイスと疎遠になっても、名前は私についてきました。私の家でのんびり過ごしながらスイスの話題が耳に入るとわかりやすく顔を赤くして頬を緩ませる彼女を見てきました。スイスの目の色!といってアクセサリーを買ってくることもありましたし、スイスに似合いそう、なんて街中のウィンドーを見てつぶやくこともありました。私はそんな名前を見てため息をつきつつ、いつかは幸せになるだろうと思っていました。

____幸せは続かないものですね。

名前の様子がおかしくなったのは突然でした。いえ、名前が今まで隠していたのかもしれません。私が見つけたとき名前はリビングで蹲っていました。頭を痛そうに抱えてそこにいました。私は駆け寄って彼女に声をかけました。けれど、彼女は…。

「どうして辛いことを思い出してしまうのでしょうね」

つぶやいた言葉は静かに部屋に落ちた。今まで返事をしてくれていた名前はもういない。誰も言葉を返さない。今頃彼女はスイスと何をしているでしょう。最期くらい一緒にいたいだなんて、もう好きだと言ってしまったらいいのに。

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徒野