6.

今日はとてもいい天気だった。リヒテンが買い物に行くというのでついて行こうとしたら留守番をしてほしいと頼まれてしまい、一人家にいた。そうしているうちに警備からスイスが帰ってきて明らかに不機嫌そうに無視される。私はめげずに声をかける。

「おかえり」
「……ああ」

不服そうにしながらもそれに対してきちんと返事をしてくれるのがスイスだった。私は部屋に向かうスイスに意を決して声をかけた。


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天気がいいから庭のお花に水をあげたい、なんてそんな申し出にスイスは生真面目についてきてくれた。嫌そうにしながらも貴様がきちんとやるか不安だからな、なんて言う。昔から変わらないスイスについ口が緩んでしまいそれを必死に隠した。

スイスのことが好きだ。小さい頃に出会って、過ごしていくうちに言葉と裏腹に誠実な態度を取る彼が、世話焼きな彼が好きだと思った。それに気づいたのはいつだっただろう。そして、彼が私のことを好きではないと気づいたのはいつだっただろうか。スイスの優しさは私に向けられたものでない。彼はつっけんどんに見えて人に優しい。彼が私を好きになる要素はそもそもなかった。スイスが髪の長い女の子が好きだと知って伸ばした髪は一度も好意的に見られなかっただろう。私があげたプレゼントも嬉しくなかったろう。どこで間違えてしまったのか、スイスとは疎遠になっていってこんなことになってしまった。オーストリアの計らいでこうして一緒に過ごしているのになんの行動も取れない自分はなんなんだろうと思ってしまう。初日からつい昔のように一緒に寝ようなんて、言った後になんではしたないと思われたに違いなく、まともに夜寝れなかったのだ。ぼんやり彼の隣で言われた通りに水をあげているとスイスからあげすぎである!と声が飛んできた。
こうして隣で作業していても、気にしているのは私だけだ。スイスに怒られるのも久しぶりでそれさえ嬉しくなってしまう。きっと、スイスとこうしていられるのももう長くない。そう思いながらジョウロを戻そうと倉庫に向かった時だった。足元を見ていなかった私は何かにつまづきこける!と思った時だった。後ろに引かれ、何が起きたかわからないまま、誰かに抱き止められる。そんなことをするのはこの場には一人しかいない。

「す、すいす…」
「貴様……歩くくらいできないのか!?」

怒っているように見えて焦った表情のスイスにこんなところまで優しいと改めて思う。好きじゃないなら優しくしないで欲しいのに。私のことなんか放って、転ばせておけばいいのに。つい小さい頃に転けて泣いていた私に差し伸べられた手を思い出した。あの日々にはもう戻れないことに泣きそうになってきて、そしていつもより近い距離のスイスに、何か変になっていたのだろう。つい言うはずのなかった感情を口に出してしまった。

「…すき」

スイスが驚いた顔で静止する。私は自分の発した言葉がスイスに届くとは何故か思えなかった。だから彼の顔がもう見たくなくて私は俯いた。

「な…」

明らかに動揺しているスイスにしでかしたことの大きさを理解させられる。そう、昔から知っていた。スイスは私のことを好きじゃないことを。実らない恋であることを。最期くらい一緒にいたかっただけで、決してそれ以上を望んだわけじゃない。告白なんてしたらスイスがただ困ることを私は知っていた。ただ穏やかに過ごしたかっただけ。なのに、どうして私は。

居た堪れなくなって私は震える足をなんとか動かしスイスから離れるとそのまま駆けた。消えたかった。何もないことにしたかった。スイスの動揺した顔が頭から離れない。どこにいくあてもなく走った。スイスの家の近くは詳しくない。それでも、今はスイスにもう会いたくなかった。

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徒野