3.指名される話
「リトアニアくん」

ロシアさんに呼び出されたのはあの子がいなくなってから1ヶ月ほど経った後だった。お昼後に来て、と伝言を託され憂鬱な気持ちで彼の待つ部屋へと向かった。

「あの~…どういった仕事でしょうか…」
「察しがいいじゃない。君にお願いしたいのはね、名前の観察だよ。1日そばにいて彼女の仕草、言ったこと、全部メモして欲しいんだ。ここの用紙に…」
「まっ、待ってくださいよ!!名前って…」
「あぁ、そう、名前は僕の恋人。言ってなかったっけ」
「そこじゃなくて…」
「なにか聞きたいことでもあるのかな?」

ロシアさんは有無を言わせない顔でにこりと笑った。その顔が純粋そうに見えてどこか切羽詰まった顔をしているように見えたのは気のせいだろうか。息を呑んで、慎重に聞くことを考える。失敗は許されない気がした。

「どうして、俺なんですか?」



装飾の凝った扉を丁寧に閉める。重いぎい、という音が響いてから先程の部屋との間に境界ができた。彼は、それは‥と言いかけてからはぐらかして何も答えてはくれなかった。ただ俺に許されたのは、はいかyesだけで実質無理矢理だった。彼女のそばにいるために他の仕事はほぼなくなった。いや、ラトビアとエストニアに渡されたというべきか。3人で回していた仕事を2人になんてできるはずが、そう言いかけたが、それを見通してかロシアさんは平気だよ、それだけ言って話を終わらせた。彼が平気と言うなら平気なんだろう。それが事実になる。俺は卓上ランプに照らされた手元の紙を見る。明日から共に過ごす彼女のためのチェックシートに目を通し、少しの憂鬱と、彼女の笑顔を思い出した。眠気がやってきて、やってみる他ない、そう思い固いベッドに身を沈ませた。



「おはようございます」
「わあ、!」

扉にノックして声をかけてから入ると彼女はこちらにかけてきて笑顔を振りまいた。俺は監視のために来たのに。胸がちくりと痛みつつ彼女に目をやる。いつもとたいして変わらない、はずだ。

「おはよう。あなたは…リトアニア、だよね?前に庭まで送ってくれてありがとう!」
「!覚えてたんですか?」
「うん!ね、敬語じゃなくていいよ。ロシアからリトアニアのことも聞いてるし」

座って、と椅子をすすめられる。その時にじゃら、と音がした方を反射的に見た。そこにあったのは鉄の鎖、そしてそれは彼女の足についていた。

「あ、これはロシアがつけたの。逃げないのに、何かを怖がってるみたいで。可愛いとこあるよね、ロシア」

にこ、と笑った彼女に他意はなかったように見えた。本当に心の底からそう思っているのだと思った。ロシアさんはこんな純白な子を捕らえて何がしたいんだろうか。恐ろしいほどにあどけなく、何も知らない子を。

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徒野