5.知らない話
窓から差し込む光はカーテンを通りベッドにかかる。外では鳥が囀り、開けた窓から綺麗な声が響いていた。俺の目の前に座った彼女はにこにことしたまま嬉しそうにこちらを見ていた。
「リトの友達の話聞きたいな」
「俺の?」
彼女と過ごす日々はとても幸せだった。初めは緊張していたが、彼女の持ち前の明るさは俺の心をすぐに溶かしてしまったのだった。事務所にこもって永遠に書類仕事を片付けていた頃とは天と地の差だった。これだったら俺じゃなくてもよかった気がする。
「俺の友達かぁ~…。友達なのかわからないけど、ロシアさんの家にも俺と同じ国はいるよ」
「そうなの?会ったことないなぁ…、ね、聞かせて!」
「面白くないかもしれないけど…」
ラトビアは小さいのに不用意な発言でよくロシアさんに楯突くこと。エストニアはそんなラトビアを振り回されていること。俺が知っている彼らについての話をすると彼女は楽しそうに笑った。こんなのでいいのかな、と思いつつ彼女が笑いながら聞いてくれるものだから俺は心地よかった。
「名前は何か覚えてないの?友達とか…」
「そう、だね……。あ、でも誰かがいつも側にいてくれた気がするよ」
「…誰だろう…。」
「ロシアかな、って私は思ってるんだけど、何も思い出せないんだ。ただいつも私の手を引いてくれてた。その手があったかくて好きだった、気がする…」
彼女は何か思い出そうとその後もぽつりぽつりと話してくれた。けれどそれが誰なのかは分からなかった。ただ俺はどことなく幸せそうな彼女の表情に、その隣にいるのが俺であったなら、と夢想した。彼女のを手を引き、守っていた人は誰なのだろう。
「これ、今日の分です」
「ありがとう」
ロシアさんにいつも通りに書類を手渡す。彼はいつもその場でそれをチェックし、質問があれば投げかけてくる。彼を見ているとあるところで眉間に皺がよった。それが自然と時間的に彼女が話した過去の記憶の話の箇所だと俺は自然にわかってしまった。そして、過去のその人がロシアさんでないということもどことなく気がついていた。
彼女は朝と夜に薬を一粒飲む。身体のどこかが悪いのかもしれない、と思いながら聞くのはどこか気が引けていた。ロシアさんが処方しているに違いないので書類に書く必要もないと思っていた。何の疑問もない薬。その薬は書類を提出した翌朝から量が増えた。一粒だったものは二粒になっていた。それがおかしいことだと思っていながら俺はただそれを彼女に渡した。不安そうに薬を見た彼女に俺は薄っぺらい笑顔でこう答えた。
「製造元の一粒の薬の量が減ったんだって。だから量的には変わらないよ。」
俺の言葉を聞いて安堵の表情を見せた彼女に俺は密かに拳を強く握った。手のひらに爪を立てた。その薬が何の効果があるのか、知っている気がした。けれど理解したくなかったから俺は考えるのをやめたんだ。
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徒野
「リトの友達の話聞きたいな」
「俺の?」
彼女と過ごす日々はとても幸せだった。初めは緊張していたが、彼女の持ち前の明るさは俺の心をすぐに溶かしてしまったのだった。事務所にこもって永遠に書類仕事を片付けていた頃とは天と地の差だった。これだったら俺じゃなくてもよかった気がする。
「俺の友達かぁ~…。友達なのかわからないけど、ロシアさんの家にも俺と同じ国はいるよ」
「そうなの?会ったことないなぁ…、ね、聞かせて!」
「面白くないかもしれないけど…」
ラトビアは小さいのに不用意な発言でよくロシアさんに楯突くこと。エストニアはそんなラトビアを振り回されていること。俺が知っている彼らについての話をすると彼女は楽しそうに笑った。こんなのでいいのかな、と思いつつ彼女が笑いながら聞いてくれるものだから俺は心地よかった。
「名前は何か覚えてないの?友達とか…」
「そう、だね……。あ、でも誰かがいつも側にいてくれた気がするよ」
「…誰だろう…。」
「ロシアかな、って私は思ってるんだけど、何も思い出せないんだ。ただいつも私の手を引いてくれてた。その手があったかくて好きだった、気がする…」
彼女は何か思い出そうとその後もぽつりぽつりと話してくれた。けれどそれが誰なのかは分からなかった。ただ俺はどことなく幸せそうな彼女の表情に、その隣にいるのが俺であったなら、と夢想した。彼女のを手を引き、守っていた人は誰なのだろう。
「これ、今日の分です」
「ありがとう」
ロシアさんにいつも通りに書類を手渡す。彼はいつもその場でそれをチェックし、質問があれば投げかけてくる。彼を見ているとあるところで眉間に皺がよった。それが自然と時間的に彼女が話した過去の記憶の話の箇所だと俺は自然にわかってしまった。そして、過去のその人がロシアさんでないということもどことなく気がついていた。
彼女は朝と夜に薬を一粒飲む。身体のどこかが悪いのかもしれない、と思いながら聞くのはどこか気が引けていた。ロシアさんが処方しているに違いないので書類に書く必要もないと思っていた。何の疑問もない薬。その薬は書類を提出した翌朝から量が増えた。一粒だったものは二粒になっていた。それがおかしいことだと思っていながら俺はただそれを彼女に渡した。不安そうに薬を見た彼女に俺は薄っぺらい笑顔でこう答えた。
「製造元の一粒の薬の量が減ったんだって。だから量的には変わらないよ。」
俺の言葉を聞いて安堵の表情を見せた彼女に俺は密かに拳を強く握った。手のひらに爪を立てた。その薬が何の効果があるのか、知っている気がした。けれど理解したくなかったから俺は考えるのをやめたんだ。
徒野