並んで立って

「じゃあ、全体の確認するよ!雪野、お願い」
「うん。それじゃあ……」

プールサイドで円状になり水泳部は内容確認をしていた。マネージャーの雪野が手にしている用紙にはトレーニング内容が書かれており、それを読み上げている。
基礎的なものがメインのメニューだが、帝国学園が恒常で行っている、彼女等からしてみれば新たなトレーニングも追加である。そのため、少し珍しい組み合わせになっている。
凪達のメニューは水泳雑誌に掲載されているものを、部長である凪が独自に改造し、それぞれに合うように調整している。そこに叔父からのアドバイスが多少入ったりはしているが、専門家が作っているわけではない。それに対して帝国のメニューは専門のコーチがいる中で作られているため、より高度なものになっている。そのうち幾つかはいつものトレーニングメニューに取り入れられそうだと凪が頭の中で部員のデータと組み合わせ思案していると、雪野が「ここからが重要よ」と部員達に言い聞かせるように言葉を、表情を変えた。

「今回、交流として男女混合リレーを行います。メンバーはこないだ発表した通り、三木さん、三野君、畠山君、凪くんの5名」

名を呼ばれたメンバーがそれぞれ顔を見合わせ頷き合う。元より三馬鹿はリレーをメインにしていたが、前日にが怪我をしたため、急遽嶋田が入ることとなった。練習できた回数はそう多くないが、負けるつもりは更々無い。

「皆!リレーに出ないヤツも気合いで負けるなよ!いいな!!」

凪の呼び掛けに部員達は声を揃えて答える。自信に満ちた彼らの声に満足そうに彼女は唇の端を引き上げる。柔らかな眼差しからギラつく眼差しへと変化する凪に、それを見ていた雪野は息を飲んだ。
何度見ていても、誰かと競って泳ぐ時にのみ見せる凪のこの変化は慣れないのだ。惚けたり、騒いだりする時の穏やかさは成りを潜め、獣のような荒々しさが全面に現れる。本人に自覚は無いようだが、他者を圧倒するその姿に近付きづらさを覚えるものも一定数いた。部内ではそれに付いてこれるものしか残らないせいか、問題無いようだが。
凪達の話し合いが終わったのを見計らったように河俣が飛び込み台のに足を掛け、声を張り上げた。

「鳴海凪!さぁ!勝負の時だ!」
「いいよ!やろうじゃないか!」

プールサイドでは走らない、その原則は守りながらやや早足で凪はその隣に並ぶ。身長差が無いため、同じ目線で互いに睨み合う。火花が二人の間に走るのが幻覚ではあるが見えた。
後は合図があれば二人は飛び込み泳ぎ出すだろう。けれど、それぞれの肩に後ろから手が置かれる。

「凪くん、準備体操やろうね?」
「部長、まずは準備体操ですよ?」

凪の肩には雪野が。河俣の肩には帝国のマネージャーが。それぞれ有無を言わさぬ顔で肩に手を置いていた。
この時ばかりは凪も河俣も静かに頷いた。
マネージャーの指示に従い準備体操をしっかりとした後、 アップ、それから練習、と事を粛々と進めていく。混乱は一つも起きずに合同練習は進み、そうして漸く彼らの待ち望んでいたリレーの時間が訪れた。

「漸くだな!!どれほどこの時を待ち望んだか!!」
「これに私が勝ったら絡むのは止めてろよ!絶対だからな!!」
「はっはっは!もう勝った気になるとは愚かなり!」
「煩いな!取り敢えず記録とる準備を……雪野、お願い」

グリップボードを手にした雪野は頷くと、タイム記録用の用紙とストップウォッチを手に取る。すると、河俣が雪野に待ったをかけた。

「今用意するから待て」
「……は?」

するとがらがらと何かを転がすような音が聞こえてきた。そちらへと視線をやると、凪達は目を丸くした。

「マジかー」

存在をこれほどかと主張しているそれは、移動式スコアボードだった。タッチ板からの信号を受け、タイムを自動で表示してくれるというものだ。けれどただの水泳部が購入するには高価すぎる。雷門も私立だが、流石にそれほどの設備は無かった。

「これくらい、雷門も欲しい……」
「今は全部人力だもんね……」

これが資金力の差か、とひしひしと感じたところで機械の準備が終わった。スタートとターンの監視を部員に頼み、凪と参加する三木、三野、畠山が並んだ。