助っ人勧誘

「なぁ!頼む!試合の時だけで構わないからさ!」

染岡の背中を押した次の日の昼休み、凪は廊下のど真ん中で手を合わせる円堂に頬を引きつらせた。
確かに凪は何かしら力になりたいとは思っていたが、やはり部を率いるものとしての責任がある。それを分かっていたから、円堂と会わないようにしながら然り気無い手助けを、と思っていたのだ。顔を合わせれば間違いなく誘われると分かっていたのだから。
ちら、と凪が円堂の後ろへと視線をやれば染岡に半田、風丸が柱に半身を隠しながら此方を見ている。その染岡と凪の目が合うと、彼は「分かっている」とでも言うように頷いた。思わず凪は半目になると、そっと視線を円堂へと向けた。

「いや、あのさ、円堂……私は水泳部が……」
「凪、すっげーシュートは下手だけどそれ以外はスッゲー上手いだろ!頼む!」

裏表の無い笑顔だった。だが、それ故にその言葉は暴力として降り掛かる。

「オイコラ、下手ってなんだよ!下手なのは事実だけど!!」

円堂の言葉に凪は強烈なチョップを繰り出す。それをまともに食らった円堂は頭を押さえ込み唸るが、再び頼む!と頭を下げた。

「染岡にも言われたんだよ!凪なら頼めばやってくれるんじゃないか、って」
「オイコラ!!染さん!!!そこにいるのは見えてるからな!!ちょっと出てこいや!!」

凪が染岡をびしりと指差し大声を上げると、円堂は眼を瞬かせ振り向く。後ろにいた同輩達に首を傾げるのを横目に凪は円堂の隣を通りすぎ、染岡の元まで向かった。

「なんで!!そんなこと言ってるのさ!!」
「いや、だってよ、お前何となくサッカー部のこと気にしてくれてただろ?」
「そりゃあそうだ!!でも!!何故そうなる!!」
「お、おい落ち着けよ鳴海……」
「そ、そうだぞ……凪、どうどう」

半田と風丸が宥めれば、多少上がっていた凪の肩が下がる。不貞腐れながら腕を組む凪に二人は安堵の息を吐いた。対して染岡はというと、カラカラと笑いながら凪の肩を叩いている。

「そう怒るなって!第一よぉ、お前と円堂、風丸は小学校から一緒なんだろ?昔からの馴染みの頼みだぜ?」
「まぁ……それはそうなんだけ、どさ……私にだって部活あるし」

困ったような凪の肩に、内心を知っている風丸が手を置いた。その生暖かい視線に考えていた計画が丸潰れになったことを改めて実感する。
そんな様子は一切気にせず、高らかにサッカーボールを持った円堂が口を開く。

「昔から凪はパス回しとか上手かったぞ!シュートだけは変な方向飛ばすんだけどな!」
「円堂、お前は黙っといた方が……」
「半田、円堂のことは、ある程度無視することに決めたから気にするな。OK?」

ひどく流暢な発音で半田の言葉を遮る。そこで一つ溜め息を吐くと、凪の胸元の黒いゴーグルが、小さく音を立てて揺れた。

「いや、あのさ、女子だぞ。試合には出れないって」

すると染岡や円堂等は顔を見合わせ頷き合う。その様子に疑問符を浮かべながら凪は眉を潜めた。
最初に口を開いたのは風丸だった。

「あのな、凪。昨日色々あって言い忘れたんだが、練習試合は女子も出れるぞ」
「は……?」

次に半田が口を開く。

「公式試合は出れないけどな。別にその辺りは問題無いんだよ。他校には男女混合サッカー部とかあるし」
「……へ」

うんうん、と二人の言葉に頷いた染岡が口を開いた。

「ってワケだ。何も問題ねぇだろ?」

そして、トドメのように円堂がサッカーボールを持ったまま詰め寄る。

「助っ人ってことでも良いんだ!だから!頼む!」

こうなる運命だと最初から決まっていたのだろう。凪は何度か唸ったあと、大きく溜め息を吐いた。

「その試合だけだよ。それと、水泳部の練習出た後、サッカー部の練習には参加する。一時的に水泳部との兼部ってことで入部はするけど、練習試合が終わったら抜ける、それでもOK?」

円堂が目を輝かせ大きく頷く。

「あぁ!!ありがとうな!!」

凪の両手を掴むとブンブンと力強く振る円堂に、風丸は微笑んだ。