やっと合流

「あークソッ!!何処の部室に持ってくのか聞いてない!!」

凪は苛立ちながら校内を走っていた。担任に押し付けられたノートの置き先が伝えられていないことに、今更ながら気付いたのだ。
遠くからホイッスルの音がしたことから試合が始まっているのは間違いない。けれどこれをどうにかしない限り、グラウンドに向かうことはできないのだ。このノートを適当に何処かに置くことも考えとして頭をよぎるが、仕事を放り出すのは彼女のポリシーに反する。よって、どうしようもなく苛立っていた。
その時だった。

「あれ、鳴海?なんでこんなところにいるんだ?」
「せんせー!!!?」

声を駆けてきたのは水泳部の顧問だった。天からの助け!と言わんばかりに駆け寄るとノートを見せ付けた。

「担任に部室棟にノート持ってけって仕事押し付けられたんです!!早くどうにかしたいんですが、何処の部室持っていけば良いのか……」

すると顧問は一つ頷き凪からノートを預かるとその肩を軽く叩いた。そして茶目っ気たっぷりに片目を瞑る。

「分かった!これは俺がやっとくから鳴海は試合に行ってこい!水泳部の底力!見せ付けてやれ!」
「先生……!はいっ!」

大きく頷くと凪は顧問へと背を向け全力で走る。人の間を縫うように駆け抜けると、静まり返るグラウンドへと到着する。
そこで凪は目を見開いた。

「……なんだこれ」

圧倒的な点数差に加え息を切らす雷門サッカー部員。それとは対称に少しも疲れた様子の無い帝国学年。どうゆうことなんだ、と言葉を漏らし掛けたところで前半終了のホイッスルが鳴った。
身体を引き摺りながらベンチに戻るサッカー部。その場所へと凪が爪先を向けると「待て」と声が掛けられた。
先程無理やり仕事を押し付けられたことを思い出し、警戒しながら声のした方へと振り向く。そこにいたのは教師ではなく、白髪を逆立てた生徒だった。

「お前、試合に出るつもりか」

何処か苦しそうに彼は言う。彼がどんな気持ちかは今の凪には分からない。けれど焦っていることもあり、凪は言葉を強めて返す。

「そうだよ。助っ人なんだし」
「やめておけ……怪我をするぞ」
「知るか、そんなこと。私はやりたいから、手伝いたいから、約束したからやるんだ!!」
「約束……?」
「それじゃあ急いでるから!逃げるなんてカッコ悪いことしないから!見てろよ!!」

何とも言えない態度に、苛立ち吐き捨てるように言葉を出すと、ベンチへと走り出す。その途中、ふと先程の男子生徒を知っているような気がしたが、まぁいいか、と頭の片隅に追いやった。

「ごめん、担任に捕まってた!」

顔の前で手を合わせると、力無さげな返事が部員達から返ってくる。真っ先に怒り、拳を振るってきそうな染岡ですらその反応だ。凪は困惑した顔のまま、秋と円堂に目を向ける。

「一体、前半に何があったの?」
「それが……」

円堂と秋の両者から、前半の帝国の圧倒的な強さを見せつけられたことを語られる。少しも試合は観れていないが、一週間、みっちりと特訓をやりこんだだけでは到底届かなかったことが、余計に部員達を落ち込ませているのだろう。そう凪は結論を出した。

「とりあえず、後半は誰か交代して貰えるかな。少しでも休めれば戦えるかもしれないし」

言葉には出さなかったが、そこには「FWとGK以外のポジションで」と付いていた。しかし、此処には事情を知らないメンバーが何人かいたのだ。凪の申し出があるなり、真っ先に手を上げたのは急遽助っ人として入った目金だった。

「では僕と交代で!」
「良いけど……ポジションは?」
「FWですよ! なんたってエース何ですから!」

途端に凪が気まずそうに目を反らす。テクニックには自信があっても、シュートだけは無理、と分かっているからだ。FWは特に攻撃の要となるポジションだからこそ、シュートが100%外れる彼女には絶対にできない。

「いや、FWはちょっと……」

渋る彼女の背をマックスが叩く。

「凪、運動神経良いんだし、彼よりマシでしょ」
「いや……あのだね、マックス」
「ボクは賛成。凪、後半はヨロシクー」
「え、や、あの……」

マックスは決定事項として認識したらしく、ドリンクに口をつける。一方、凪は顔を青くしていた。

「半田がFW上がって、私がMF入るんじゃダメかな……あとはDFの誰かと交換……」
「まぁ……どうせ負けは変わらないんだし、良いんじゃないか?」
「イヤだぞ半田!あんなカッコ悪いところ見せるのは……」

円堂と風丸に助けを求めるが、二人は頼んだぞ、と肩を叩くだけだった。深々と溜め息を吐くと、凪は首から下がるゴーグルを握りしめる。
不安材料しか無い。そんな彼女の気持ちなど関係無く、後半戦開始のホイッスルが鳴り響いた。