SEC〇Mしてますか!!参

さて、それはそれとして、どうしようかこの問題。
じゅう、と目の前のお好み焼きをひっくり返しながら考える。
いくら頭の中で答えが出ていても、証明ができないと公的機関は動かない。つまるとこ頼れない。
……やるか、プロジェクトHA(ホーム・アローン)。まだ内部に入られていないならやるしかない。彼らが寝静まった頃に仕掛けるか。

「天女さん、もうそろそろ……」

ガメラとギャオスの鳴き声を合わせたみたいなお腹の音で意識を引き戻す。生産元はしんべヱくんから。それがおかしくて、思わず笑った。

「よし、そろそろ良い大丈夫でしょ」

裏も表も綺麗に焼けたし、生焼けな感じもしない。
あって良かった鉄板と卓上コンロ。あって良かった安売りの時に買い込んでたお好み焼き粉。
問題があったけれども、今日の夕飯はお好み焼き粉パーティだ。
焼けたものからどうぞと皿に乗せれば、一年生たちは真っ先にかぶりついた。
色々遅くなってしまって悪いな、と言う気持ちと半分、疲労感半分。
それでもまだまだ足りないだろうからボウルの中の生地を追加で焼きながら、ふと思ったことを訊ねる。

「ちなみに、なんで君たちが選出されたわけ?」

興味深そうに卓上コンロを見ていた立花くんが言った。

「ああ、それはあみだくじで決まったからですね」
「あみだくじ」

え、大丈夫それ。一応結構危ないことだぞ、いまのアレソレって。
しょっぱい顔で訴えかけると、立花くんはまたもや頭痛が痛いみたいな顔で腕を組んだ。

「ええ、よぉく言いたいことは分かります。ですが、学園長にもきっと何か深いお考えがあってのことかと……」
「でも、学園長の思い付きっていつもですよね!」
「ねー!」
「しんべヱ、喜三太、黙ってなさい」
「えーでもでもぉ〜!ねぇ、しんべヱ?」
「ね、喜三太!ホントのことですもん!天女さんが思い出せていないだけで、よく学園長の思い付きに巻き込まれてましたよ!景品にされたり!」
「なんて?」

私が……景品……?ちょっとよく分からないですね??嬉しいものなのかそれ??
真横に座る伝七くんに話を振ると、彼はお好み焼きを口に入れたタイミングだったので、ワタワタと慌てた。喉に詰まらせては危ないので、首振り向きで分かるよーと言えば無言で何度も頷いた。
え、それ嬉しいのか?うれしい……嬉しいのか、そっか……。そんな良い子には新しく焼けたお好み焼きをあげよう。ソっと空いた伝七くんのお皿に一切れ入れる。
次は自分の分も、と思ったところで横から皿が出てきた。

「……なんか、図々しさがさっきより増してない?」
「ダメなんですか?」

口の端にソースを付けた綾部くんが言う。
いっぱい食べるのはいいことだけど、それはやめようね、とティッシュを引っ張り出して、押しつけようとしたが無言で拭ってくれという圧を感じた。仕方ないのでちょちょいと拭うと勝手に自分で取り分けたお好み焼きをまた食べ始める。

「お前たち、自重しないか……」
「あー……いいよいいよ、ほら立花くんも食べなさい。ほら焼きたてのあげるから」

冷めたやつはこっちのお皿入れていいから、と言えば仙蔵くんはぱちりと目を瞬かせた。

「冷めたのより、温かいやつの方が美味しいでしょ」

もしや猫舌だったのだろうか?
それとも毒の心配をしている?
いや、もしかするとそもそも小麦アレルギーの可能性がある?
手を止めてどうするか見ていると、立花くんのお皿に綾部くんがサッとお好み焼きを入れた。

「大丈夫ですよ、立花先輩。毒なんて入ってませんから」
「んゲホッ……!?」

やっぱ一般的なのか毒。
勢いよく咳き込んだ立花くんの背中を、しんべヱくんと喜三太くんが擦る。
落ち着くと、立花くんはなんとも言いづらそうにこちらを見てから、視線を入れた落とした。

「そういう訳ではありません……ただ少し」

その瞳の中に、卓上コンロの炎が揺れている。
ちらちらと、鉄板を舐める青い炎に何を思っているのか、私には分からない。
立花くんは一度目を閉じると、にっこりと笑った。

「いえ、やはり何でもありません。ありがたくもらいますね。天女さん」

はっきり仮面を被ったな、と分かりやすいくらい綺麗な笑みだった。

何が誰の琴線に触れるのか、何があったのか、全て全て闇の中。
まるで悪魔の証明だ。
……早くこの謎が解けるようにしないと。きっと、誰にとってもいい結果にはならないだろう。

「あ!そうだ!」

考え込んでいると、思い出した!とばかりに突然喜三太くんが声を上げた。

「忘れちゃう前に聞いとかないといけないこと、ありました!」
「え、何?」

喜三太くんは先程渡した牛乳パック(ナメクジ入り)を掲げた。

「あの!この子、連れて帰ってもいいですか!?」
「それは……駄目かな」
「ええー!!なんで駄目なんですか!?」

うるうると目を潤ませ、喜三太くんはナメクジの入った牛乳パックを大事そうに抱える。
私とて、理由なくNOを言っているわけではない。ただ、生物学的な観点というか、なんというか。この時代のナメクジが、室町に混ざるってちょっと不味くないか?と気になってしまうのだ。
この年頃でも分かる説明はなんだろうか。
なるべく難しい言葉は省いて、且つある程度時代が違っても通用するような……。
少しだけ、教員資格の勉強をしておけば良かった、と思った。けれど電気みたいに向こうに無いものではなく、概念として通用しそうならば説明しなければマズイだろう。

「……人にも方言ってあるでしょ?」

まず生物環境云々の細かいことを除いて、人間にも簡単に置き換えられるのは言語だ。
ありますねぇ、と喜三太くんは頷いた。

「虫や鳥にも方言ってあるんだよ。だから違う所に住んでいる子を、元住んでいた場所以外に連れて行って他の子と一緒にしてしまうと困っちゃうんだ。言葉が通じなくてさ。ほら、『友達になろう!』って言ったつもりでもその地域では『舐めんなこの野郎!オ"オ"ン???』になったら、大変でしょう?」

他にも食性やら遺伝子問題やら微生物の問題やら色々あるが、そこまでは難しいだろう。それでも話したいことは伝わったらしい。

「そっかぁ……それは良くないですねぇ」
「でしょ。だから、残念かもしれないけど、このナメクジさんたちには、ここでお別れしようね」
「はぁい……」
「大丈夫。あとでちゃんと逃がしておくから」

このナメクジがついていたキャベツは、地元産野菜だ。彼が帰ったあと、その辺に逃しておけばいいだろう。

「あ、でもでも、よく考えたらこっちにナメクジさんたちを連れてこられなかったってことは、連れて行くのもできないかも!」
「……ん?」

なんか今、変な言葉が喜三太くんから出なかったか?

「喜三太、言ってたもんね〜!『ナメクジさんたちに会ったら、きっと思い出してくれるー!』って!」

しんべヱくんと、喜三太くんが顔を見合わせ「ねー!」と言い合う。
しかし、私の頭の中はそれどころじゃなかった。ギリギリで回避されたと思われる事象に、冷や汗が止まらない。

「えっと、その……確認なんだけど、喜三太くんのお友だちのナメクジさんって何匹くらいいるの?」
「えっとぉ……ナメ蔵、ナメ千代、ナメ十、ナメ江ナメ松、ナメ菊、ナメエ門、ナメ左、ナメ介、ナメナメ太郎、ナメ……」
「多い多い多い!!!!数が!!!数が!!多い!!!」

来れなくって良かった!!そうなっていたら間違いなくやばかった。私のメンタルが。
ありがとう謎事象。今日は袖を持っていかれても何も文句は言わないです。ナメクジハザードを防いでくれたことへの感謝がそれで済むならお安い御用だ。
顔を引き攣らせながら、私は曖昧に微笑んだ。

「うん、気持ちは……気持ちだけは、ありがたくもらっとくね」