「うーん、三人とも遅いなぁ」
学園の門の前で出門表を片手に、事務員である小松田秀作は呟いた。
今日は七日に一度の休日。朝早くからバイトに出かけた一年は組の仲良し三人組がまだ戻ってきていないのだ。
見上げれば空は赤く染まり、カラスが鳴く酉の刻半ば過ぎ。
「まだあの子達は戻りませんか?」
その後ろから黒い忍装束の歳若い男が声を掛ける。小松田はパラパラとバインダーの紙を捲りながら頷いた。
「そうなんですよぅ。土井先生は何か聞いてますかぁ?」
もう他のみんなは帰ってきてるんですけどぉ、と続けられた言葉に『土井先生』と呼ばれた男の脳裏に一抹の不安が過る。
何かまた、とんでもない事件に巻き込まれたんじゃないだろうか、と。
何せ今帰ってきていない三人、猪名乱太郎、摂津のきり丸、福富しんべヱは学園きってのトラブルメーカー。何を起こすか予想できたものじゃない。
しかしそんな子どもとて、忍者のたまご。そのくらいの危機、乗り越え……られるか?あの三人に?
いいやしかし、けれど、いやでも、と考えれば考える程土井の胃はキリキリとストレスで痛んだ。
「土井先生ぇ、随分とお顔の色が良くないですけど大丈夫ですかぁ?」
「いえ、いつもの事なので……」
額に脂汗を滲ませながら、土井は胃の腑の辺りを押えた。
「ちょっと着替えて様子を見に行きます……」
そう言って、土井は三人の居そうな場所を頭の中に、ピックアップする。事前に三人が何処にバイトするのか、彼は分かっているので。
教員用長屋に向かう土井の足取りは重かった。
しかしこれも教師の務めで、保護者の務め。致し方あるまい。きっとどこかで、また「助けて土井先生ぇー!」なんて叫んでるかもしれないし。
しかし三人は、どれだけ探しても見つからなかった。
「結局見つからなかったのか……」
学園長室で土井は難しい顔で頷いた。
時刻はまだ夜明け前。教員達は皆顔を見合わせ溜め息を吐いた。
「ドクタケに何か動きはあったか?」
ドクタケ城の稗田八方斎に、彼等は何度か捕まっている。もしかすると今回も、と土井と同じは組担任の山田伝蔵が問い掛ける。
土井は首を横に振った。
「内部に侵入してみましたが、何も企んでいなければ誰も捕まってませんでした」
「と、なるとドクタケに連れ去られた線は消えたかのぅ」
ふむ、と学園長である大川平次渦正は腕を組んだ。
「あの三人のことじゃから、何か良からぬ事件に巻き込まれていなければよいが……」
その瞬間だった。
音も立てずに庵の前に人影が現れた。
「学園長先生、お話中失礼します!」
「うむ、入りなさい」
す、と半分程障子が開き顔を覗かせたのは六年生ろ組の七松小平太だった。
「どうじゃ、見つかったか?」
土井から三人の行方が掴めない、と連絡を受け学園長は六年生にも行方を探させていた。
七松は拳を床に着けるととハキハキとした口調で言った。
「はっ!一年は組の三人全員、無事です!」
「っどこで見付けたんだ!?」
「それは……」
小平太はそこで一度口を閉じた後、一拍置いてから努めて平坦な声で言葉を紡いだ。
「『天女さん』が還った祠の前です……」
※※※
忍術学園には少し前まで『天女(てんにょ)』或いは『天女(あまめ)』と名乗る女性事務員がいた。本当の名は誰も知らない。
大層な名前とは無縁な程に破天荒な人だった。天女ってもっとこうさぁ……と思わせるような行動や言動がある人で、明るく優しい人だった。
けれど不思議な程多くのことを知っていた雲の読み方、星の事、地の理。時折、教師達よりも遥かに多くの知識を覗かせる。けれど、その全てを詳らかにすることはないし、教えてくれないこともある。
そんな不思議な人だった。
碁が強くて、よく笑う人だった。
忍者じゃないと言う割に、五車の術が上手いし、情報収集が得意だった。
時折、とても怖い顔をしているけれど生徒たちには何時だって笑い返してくれる人だった。
小松田さんのおっちょこちょいに巻き込まれても、不運委員に巻き込まれても、カラカラと笑い飛ばす人だった。
けれど、ある日彼女は名乗っていた呼び名通り、天へと還った。
山間の祠の前で。煙の様にその姿が消えたのを、とある生徒が見ていた。
※※※
山田と土井が保健室に入ると、保健委員の六年は組の善法寺伊作が三人の様子を見ていた。
「伊作、三人は……」
山田が問い掛けると、伊作は眉尻を下げた。
「よく寝てるだけですよ」
小さく手招く伊作に近付くと、それは三人は幸せそうな顔で眠っている。しんべヱは夢の中でも何かを食べているのか、口をむにゃむにゃと動かしているし、きり丸の手は何かを空の状態で抱き締めているようだ。乱太郎は「そんなに褒められると……えへへ」と寝言を言っている。
土井はその光景に呆れつつ、安堵の息を漏らした。
それから肺いっぱい息を吸い込む。
あっ、と何をするか察した伊作と山田は耳を塞いだ。
「いつまで寝てるんだぁっ!!!早く起きろーっ!!!!」
「「「わぁああっ!?!!?今起きまーすっ!!!!?!」」」
きーん、と耳を貫く土井の大声に、三人は文字通りぴょんと跳ね起きた。そしてパチパチとまだ眠気眼ながら揃って「おはようございまーす」と土井達に言った。
あまりにも普通に寝過ごしただけのような乱太郎たちの様子に、土井と山田は頭を押えた。
「おはよう、乱太郎、きり丸、しんべヱ」
伊作が苦笑しながら返すと、そこで漸く何かに気付いたらしく、揃って小首を傾げる。
「あれれ?先輩……?」
「ぼく達……」
「なんで医務室に……?」
上から乱太郎、しんべヱ、きり丸の発言だ。
まだ半分寝ぼけた様子で、顔を見合わせる。
「何でじゃないだろ、まったく……一体朝まで何をしていたんだ」
山田が訪ねると、乱太郎達は二度三度と目を瞬かせた。
「ええと、私たち朝からきりちゃんのアルバイトを手伝ってたんです」
「帰りにみんなで疲れたねぇ〜って話してて」
「タダで休憩できる場所探しててぇ〜」
「それで……あの祠の前に、行ったのかい?」
伊作の問い掛けに、三人は頷いた。
だってだってなんだもん、と。
土井はグリグリと眉間の皺を解しながら口を開く。
「で、そのまま乱太郎達は朝まで眠ってしまった、と……」
どんな寝過ごし方だ、と余計に頭も胃も痛くなる。
すると、ムッとしたようにしんべヱが言った。
「違いますよぉ!僕達!天女さんのところに行ってたんですから!」
ふん、鼻息を荒くする姿に土井は半目を向ける。白々しい嘘にしても、もう少しあるだろうと。
山田は片眉を器用に上げた。
「ほぉ、そう言うなら何か証拠はあるのかね?」
「ありますよ!だって僕たちと一緒に天女さん、居たでしょう!」
後ろに控えていた小平太に視線が向く。
三人を見付けたのは彼だった。小平太は顎に手を当て、うーんと唸る。
が。
「私は見てないぞ」
すまないな、と謝る小平太に三人は「そんな」と落胆の言葉を漏らした。
その頭上で上級生二人は矢羽根を交わす。
──幻惑の香を嗅いだ可能性は?
──三人の衣服からは何も臭わなかったよ
──では何かそういった薬の可能性はあるか?
──それも今の様子を見る限りはないんじゃないかな。強い影響のある薬なら、抜けるまで時間がかかるからね
それを聞きながら教師二人も考える。
果たして、それが真なのかと。慕っていた気持ちが見せた夢か幻か。
「おっかしいなぁ……オレ、天女さん連れて行こうと思って、一回目が覚めた時に天女さんの着物の袖、掴んだんだよな……ほら」
きり丸の手には確かに着物の袖があった。その断面は無理やり引き千切られたように見える。
何処かで拾っただけじゃないかと思いつつ土井はそれを受け取ると、静かに唾を飲み込んだ。
生地が明らかに異質だった。随分軽く表面がツルリ滑らかで毛羽立ちを感じさせない。オマケに少しひんやりと涼を感じさせる。光沢は絹とも違う、ツヤを持っていた。
──その生地は遥か先の未来では、冷感生地と呼ばれるものだった。
『天女のところに居た』
彼等の言葉の真実味が、質量を伴って落ちてくる。
そんなまさか、と言ったのはどちらの上級生だったのか。
「あ!」
ぐるぐると考えが回る最中、しんべヱが声を上げた。
「ボクも天女さんの袖掴んでたんだ〜」
ほら、としんべヱが掌を拡げると、そこにあるのはきり丸が持っていたものと同じ。
合わせてみるとピタリと形は左右反転。恐らく一対なのは違いない。
ふと山田は思った。この良い子の話が本当ならば、きり丸としんべヱは天女の着物の袖を引き千切りワイルドにイメチェンさせて帰ってきていたことにならない?と。記憶の中のイメージ天女は半分泣きながら『ワイルドだろォ……!!』と勇ましいポーズをキメているが、流石にちゃんと泣いていい。ワシが許す。
山田はあちゃーと目を覆った。
※※※
この話は、結局一度学園長預かりとなった。
どうやって行ったのか、どんな場所に行ったのか、三人の話は当然秘密。教師等や上級生の調査が終わるまで、多用無言、接触禁止と厳禁された。
「良いかお前たち!今後はあの祠に近付くんじゃないぞ!」
と、土井に怖い顔で言われても、それを聞かないのが良い子達。はーいと言った舌の根も乾かぬその日の午後、太陽がまだ高い時間にコソコソ一年は組の全員で祠の前に集まっていた。要するに乱太郎、きり丸、しんべヱの三人は、うっかりしっかり同組の面子にお話していたのだった。
ちなみに、彼等はしっかり六年生と土井に後を付けられている。隠れている六年生は何してるんだろうな〜と緩い視線を向け、土井はソっと胃を抑えていた。こうなるだろうと予想できていたけれど、あまりにも予想通りすぎた。
そんな様子には全く気付かない良い子達はお互いにバレなかったー!と話し合っている。
少しは気付け……!と、土井の胃痛が3割増した。
「よーし、それじゃあ乱太郎、もう一度説明頼めるか?」
「うん、任せて庄ちゃん!」
あ、言っちゃうんだ。それ。
六年生はソっと乱太郎の話に聞き耳を立てた。
土井は胃痛が0.5割増した。言ったはずだぁ、と心が叫びたがっている。それでも言わないのはプロだから。プロじゃなかったら耐えられなかった。
「まずは祠の前で適当に踊って……」
「はい!質問!」
上がった手は一つ。1年は組の良い子、加藤団蔵だ。
「踊るのって、なんでも良いの?」
確かに……と他の良い子も考えだす。
「俺たち適当だったから、多分なんでも良いんじゃないかな」
きり丸の答えに良い子達は「そっかぁ!」と笑顔になる。
その一方で六年生と土井は思った。
──適当でいいのかソコ。仮にも祠の前でやるのにそれで良いのか。
「はーい!」
「はい!三治郎!」
今度手を挙げたのは、同じく良い子の夢前三治郎。
「踊るってことは何か音がないといけないんじゃない?」
例えばこれが舞の奉納、という定義に当てはめるとなると音は重要になるだろう。まさかその事に気付いたのか……!?なるほど、三治郎考えたなと六年生と土井は頷く。
ところが。
「だって、そのままだとなんか変だもん!あとつまらないし!」
と、三治郎。
六年生と土井は静かにコケた。もっとこうさぁ……!?と。
そんな彼等の思いなど1mmも知らず、ニコニコと乱太郎が答える。
「私たちは適当に三人で歌って踊ったよー!」
いや前回。それで良いのか。そこの神様ホントにそれで良いのか。奇跡起こすのそれでいいのか。
何故か六年生と土井の脳裏に、還った天女が両手でピースしている姿が浮かぶ。シナジーがありすぎる、この神と天女。
けれど流石に適当は学級委員である黒木庄左衛門は引っ掛かりを覚えたらしい。腕を組み「うーん……」と考え込むとひとつ頷いた。
「うん、じゃあそこはコッチでどうにかするにして……」
どうにかするにして……??え??というか、何かおかしい方向に向かってないか?まさか全員で踊る気か??
そう思ったのはまず間違ってない。安心しろ、自分を信じろ。そしてツッコめ。
そんな彼等の困惑を知らず、1年は組は会議を進める。
「ねぇ、乱太郎!踊ったらどうするのぉ?」
と山村喜三太。今日も元気にナメクジさんの入った壺を持っている。
今度はニコニコ笑顔のしんべヱが答える。
「えっと、そしたら『カチコミカチコミもうしまーす!』ってお願いするんだよ!」
『カチこむな!』
六年生と土井の心はその瞬間一致した。多分何処かの天女も後方腕組みツッコミ面して頷くだろう。
「しんべヱ、それはもしかして『かしこみかしこみ申します』じゃないか?」
「え、そうだっけ?」
庄左衛門のツッコミにナイスと思いつつ、しんべヱに「そうだっけ、じゃない……!」と土井の胃は更に0.5倍痛んだ。胃だけでなく、頭も痛かった。
そんな間には組の良い子達は『完全に理解した』顔で頷いた。つまり、まぁ大体良くわからないけどどうにかなるやろという顔である。六年生は静かに何かを察した。一年生ってそういうものだよな、と。
まとめ役の庄左衛門が拳を上げた。
「みんな、やることは分かったな!」
おー!と十人の大変元気の良い返事に庄左衛門はニッと笑った。
「よぉし!みんな始め!」
と、庄左衛門の言葉を合図に各々勝手に踊りだす。サンバにワルツ、チャチャチャ、盆踊り、ドジョウ掬い、フラメンコ、マツケンサンバIIにジュリアナ東京も混ざってる。
尚、マツケンサンバIIとジュリアナ東京は天女直伝。そんなもの教えるな。
テンポもバラバラ、種類もバラバラなカオスディスコ空間爆誕。何故か音楽は『きよ〇のズンドコ節』(メインボーカル:庄左衛門・合いの手:喜三太)。誰もリズムに合っていない。ツッコミ不在の恐怖とはまさにこのこと。
隠れて見守っていた6年生も土井も突然のカオスディスコ開幕にひっくり返っていた。
四半刻もしない内に「そこまで!」と庄左衛門のストップがかかる。
けれどそれは時間が、というより全体に疲れが見えたからだ。喜三太としんべヱ等は地面に座り込んでいる。歌って踊ってズンドコするのはかなりの体力勝負。は組内でも特に体力がない二人には過酷だった。
「どう?そろそろいいかな?」
庄左衛門に尋ねられると、乱太郎ときり丸はへへと頬を掻いた。
「多分良いんじゃないかなぁ?」
「まぁ、多分なんとかなるだろ!」
──だってカミサマの考えることなんて、誰も分からないだから!
きっとあの人ならそういうだろうと二人は笑った。
その様子が、テキトー思い付き、それらが君等のいいとこだ、と言っていたあの人みたいで、庄左衛門は小さく笑って息を吐いた。
少し休憩してから、庄左衛門は声を張り上げた。
「かしこみかしこみ申す!」
ぱん、と柏手を一つ。
「どうか天さんに会わせてください!」
後に続いて言ったのは佐武虎若。
それに合わせ、一斉に彼等は顔の前でで手を合わせて奇跡を願う。
ちなみ天さん、というのは天女のあだ名だ。彼女が自分の名前を忘れてしまったというのと、名乗っておきながら天女呼びはちょっと……と嫌がるので、安易に付いたものだった。天さんと呼べば彼女はいつだって『お黙りチャオズ達!』と笑ってくれる。そんな彼女が彼らは大好きだった。
もう一度、どうか合わせてください!
彼らは心から願った。
あと普通に先の世とか見てみたかった。割合は後者のがちょっと多いかもしれない。
頬をふわり、と風が撫でる。
もしかして、と胸を高鳴らせゆっくりと彼等は目を開けると、そこには。
「おーまーえーたーちーィ……!!!!」
と地を這うような怒りの声を響かせて、ワナワナと身体を震わせる彼等が担任の土井。
あっという間にキラキラ輝く星が11個飛ぶと、全員の頭に見事なたんこぶが出来上がった。
「危ないから近付くなと言っただろう!!」
至極当然の言葉だが子どもたちには関係無い。むっすり頰を膨らませ、ブーブー不満を口にする。
「だって乱太郎たちだけズルいじゃないですか!」
「僕たちも天さんに会いたいです!」
「先の世ってどんなところか見てみたーい!」
「町並みも違うのかな?」
「どんな絡繰りがあるんだろうね」
「やっぱりみんな霞を食べてるのかな?」
「天女さんに向こうで食べさせてもらったお菓子、すっごく美味しかったなぁ!」
「ええい!五月蝿い!良いから学園に戻るぞ!!」
そう言って土井は腰に手を当てると、深々と息を吐き出した。どうせ聞かないだろうなと。全員の背を押し学園に戻る彼の足取りは、やや重かった。
※※※
当然のことながら、は組の良い子達はこってりお説教をくらったし、しっかり宿題も出された。
みんな、奇跡が起きなかったことに落胆しきっていたのか元気もない。珍しいくらいしょんぼりしたまま夜を迎えた。
「天さん、元気かな」
「……会いたいね」
庄左衛門とその同室の二郭伊助は長屋の天井を見ながら呟いた。
『分かんないところがあったら、部分的には教えてあげよう!私は年上だからね!』
そう言って、カラカラ笑っていたあの笑顔がもう一度見たかった。
「天さんにナメクジさん達を会わせてあげたら、きっと思い出してくれるよね!」
「それは……どうだろう?でも、天女さんならきっと、笑ってくれるよ!」
喜三太とその同室の皆本金吾はクスリと笑った。
『そうかそうか、なるほど完璧に理解した』
辺りに散らばったナメクジを見て、二人の肩を叩くあの手にもう一度触れたかった。
「もっと真面目にやったら良かったのかなぁ……」
「うーん……もしかして、時間も関係してるかも!明日、乱太郎たちに確かめてみよう!」
三治郎とその同室の笹山兵太夫は考える。
『君たち、やるならもうちょい上手くやりなさいよ』
上手く仕掛けたはずの絡繰りをヒョイと避け、仕方ないなぁ、と一緒に新しい図面を見てくれる。その時間をもう一度。
「明日、どうやって先生たちの目を誤魔化す?」
「難しいな……だって多分学園長や先生たち、上級生だけで秘密にするつもりでしょ」
若虎とその同室の団蔵は明日のことを考える。
『ゆっくり大人になればいいんだよ』
学園への帰り道、そう話してくれた優しい眼差しをまだ覚えている。
──『いってきます』
「サヨウナラ」なら良かったのに、あの人はそう言って勝手に帰っていった。帰るなら、言ってくれれば盛大に送り出したのに。
乱太郎、きり丸、しんべヱは布団を被りヒソヒソと話し合う。
「1回があったなら……!」
「2回目もきっとある……!!」
「がんばろうー!」
夢みたいな現実があるなら、嘘みたいな奇跡があってもいいじゃないか。
今度こそ。もう一度。
願いを込めて全員で口を揃えて。
「せーの!今度こそお願いしまーす!」
茜色の空の下、彼等は望む。
ふわり、と一陣の風が彼らの頬を撫でた。
ふと、辺りをを包む空気が変わった気がする。
生温い風から、涼しい冷風へと。
彼らは固くと閉じていた目を恐る恐る開く。
真っ先に目に入ったのはキラキラと輝く人影。
「……え"」
そこには金ピカの着物を纏った、天女が両手に同じく金色のフサフサしたものがついた筒を掲げ、『オレッ!』のポーズで固まっていた。