図書室の夢


ナマエの日常にドラコとの"宿題の共有"が加わった。
基本的に一人で過ごし、特別な噂話にも対して興味がないナマエは、誰にも怯えなくていい一日、そして誰かと会って話せる約束をした一日がたまにあるだけで、十分だった。

そのため、ドラコに宿題の件を言われたときは、ドラコの反感を買って、学生生活でいじめめいたことが起きることを恐れたし、例え使われてるだけだったとしても、何よりドラコと仲良くできることが嬉しかった。
性格には多少難があるが、ホグワーツに来て、ドラコほどナマエと関わりを持とうとしてくれた人はいなかった。ナマエはそれがどんな形であれ、どんな思いであれ、嬉しかった。

今日はそのドラコと宿題をする日だった。
特に曜日や時間が決まってるわけではなく、廊下や大広間ですれ違ったときに、予定を一方的に伝えられる形式だ。

「おい間抜け、明日の16時」
「そこのハッフルパフ、今日の16時」
「おい!何度も呼ばせるなアホ面!」

まあ、こんな感じで予定が急遽決まる。一週間に一回だったり、かと思えば3日連続だったり頻度はまちまちで、それから共有される宿題は魔法薬学だったはずが、呪文学やら薬草学やらなんやら増えていった。
そのためナマエは一年生にも関わらず、彼の要望に応えるためにはまだ見ぬ二年生の授業の予習をしなければならなくなった。

今日は図書室で調べ物をしながら宿題をすることになっていたため、ナマエは時間より1時間早く図書室を訪れ、先に自分の宿題を進めていた。

そうして自分の宿題が終わった頃に、ドラコが図書室を訪れた。

「おいもう終わったか」

「自分のは今終わったよ」

「違う僕のはまだか?」

「ええ?!今きたばっかりじゃない!」

「そこの1年生、静かにしなさい!」

理不尽なドラコの要求にナマエは思わず大きな声を出しすぎてしまった。マダムピンスに怒られ、バツの悪そうな顔でナマエは頭を下げた。

「お前がうるさいからだ」

「う、ごめん…それでドラコの宿題は何?」

「眠り薬の復習だ。馬鹿らしい。君はまだ習ってないだろうが簡単すぎて反吐が出るよ。もっと有意義な課題にしてほしいね」

怒られたばかりなのにも関わらず、ドラコが苛立ったように話したからナマエはまたマダムピンスが見ていないかヒヤヒヤした。

ドラコは、1年で習った眠り薬についての復習だなんて馬鹿らしい。だとかなんだとかまだ不満をぶつぶつ話していたが、結局それをまとめるのは私なのだから静かにしてほしいなと心の中でナマエは愚痴った。

「お前の予習になるからちょうどいいだろう」

「…確かに」

ドラコはナマエの従順な反応に気をよくしたのか得意気に笑った。

そうしてナマエは羊皮紙に羽ペンを走らせた。必要な本はドラコが持ってきてくれたので、すぐ終わりそうだ。
そしてナマエが宿題をしている間、ドラコは退屈そうにその辺の本を読んだり、落書きしたり、たまにうたた寝をしたりして時間を潰していた。ナマエに任せて帰ってしまう日もあるが今日は一緒にいるみたいだ。

そうしてドラコは寝てしまっていたが、ふと目を覚ましたとき外は夕陽が落ちて、夕食の時間になっていた。きっと1時間は経っている。
こんな時間になるまでかかったのか?といつものナマエの宿題のスピードとの違いに違和感を感じ隣を見ると、ナマエも腕を枕にして眠っているようだった。

「おい……おい!」

二人して眠ってしまっていたが、幸いなことにマダムピンズにはバレていないようでドラコは安心した。

ナマエに声をかけるも起きないからドラコは少し呆れてしまった。いつもなら彼女が寝ることはないが、今日はよく寝ている。

黒く艶やかな髪の毛が目元にかかって、顔はよく見えない。
ナマエはあまり見た目に頓着はしないほうに見えるが、髪の毛は艶のある漆黒の髪の毛で手入れが行き届いている。ドラコは無意識にナマエの髪の毛に手を伸ばした。

見た目の割に柔らかな髪の毛だった。ただ柔らかいだけではなく芯もある。自分にはない手触りや色に、ドラコは感心し、指に巻きつけたりして、触れる必要はないのに、手が止まらなかった。

ふと、ナマエの顔にかかった髪の毛が邪魔そうに見えて、耳にかけるようにしてどけてやる。
そうして見えるようになった、長めのまつ毛が伏せられた目元を見つめていた。

「…ん、…」

「…っ!」

ドラコが触っていたからか、ナマエが身じろぎしながら目を少し開いた。そうして眠そうな目でドラコの顔を見つめて数秒、その瞳が大きく見開いて、ドラコの瞳と焦点があった。一瞬、手を引くのが遅れた。

「あ!…ごめん!寝ちゃってた!」

「おいお前静かにっ」

ナマエがあまりにもあわてて大きな声を出すものだからドラコまでその勢いに体を一瞬震わせた。
そして急いでナマエの口を手で塞ぐ。

「お前のせいでまた追い出されるだろ」

「…!」

ナマエがドラコを見つめ、何度も静かに頷いた。そうして二人で息を潜め、マダムピンスの動向を伺った。
図書室で怒られるのなんて慣れていたが、なぜか悪いことが見つかった子どものように心臓がうるさかった。

数十秒後、片手で首の後ろを抑え、もう片方の手で彼女の口を覆っていることに気づき、あわててドラコは距離を取った。こんなに近づいたことはなかったが、近いと気づいたのは触れてからだった。

「…っ悪い!」

そうして二人は目を見合わせて笑いを堪えた。ドラコも珍しく楽しそうに見えた。

「ごめん、寝ちゃってた…待たせたかな?」

「…待ってない」

「よかった…終わってたんだけど、ドラコが寝てたから私も眠くてつい…」

「終わったならいい」

いつもはヘラヘラと表現するのがぴったりな、何も考えていないような笑い方をするナマエが、安心したように頬を緩めた。

起こさないようにしてくれたんだろう、そう思うもののそれに礼を言えるほどドラコはまだ素直になれない。

「ドラコ、夕食食べにいく?」

ナマエが伺うようにドラコを見つめる。宿題の件で顔を合わせることは増えたが、彼女がそうやって聞いてくることは少ない。遠慮なしているのか、一緒に食べる時間がないのか…。

よくみたらナマエの顔は少し疲れているように見え、目の下には青いクマもあった。

毎日ではないにしろ、ここ最近はナマエに宿題を手伝わせることが多かったなとドラコは気づいた。
今日もそうだが、いつも彼女は待ち合わせ時間より先に来ているし、夕食は一緒に食べないことが多いから彼女はそのまま残って自分の勉強をしていることがある。

「終わったなら行くぞ」

「うん、ちょっと待ってね片付けるから!」

「誰もお前と行くとは言っていない」

「え?!うそ、勘違いしちゃった恥ずかしい…」

ドラコはナマエには嫌なことをいつも言ってしまっている自覚がある。でもそれが二人の普通だと思っていた。

ドラコにとっては何気ないいつもの一言だったが、ナマエは眉を下げて困ったように笑い、そうして目を伏せた。
夕陽に照らされたまつ毛が光って、まるで泣いているような姿にドラコは心臓が握られたように少しだけ苦しくなった。