銃撃事件後
×デンジ要素有
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東京で起こった特異課を狙った銃撃事件で殆どの奴らが死んだと、無線で連絡が入った。
(酷い火薬の臭いじゃ)俺が銃撃犯から免れたのはテロリスト達が女狐の悪魔の力を知らなかったからだ。
「生きているものは練馬西大ビル付近に集合し、援護」と無線が流れ、直ぐにその場所へ向かった。
現場は酷い有様だった。建物は崩壊、周りは血の海だった。
敵は撤退しているようで、コベニちゃんが抱き締めているチェンソー化したデンジは下半身が無かった。
これでもデンジは生きているのが、不思議でならない。
「コベニちゃん、お疲れ様。俺が変わる」
コベニちゃんからデンジを受け取って、自切唱える。
デンジの口を無理矢理こじ開けて、肘から切り落とした左腕を口の中に突っ込んだ。
「それ貸して」
コベニちゃんが持っていた包丁を借り、デンジの口の中に入れた切り落とした自分の左腕をズタズタに傷つけて、デンジに俺の血を飲ませた。
「おぇ……っ、」俺の行為を見たコベニちゃんが嗚咽し始めたので、あっちで無線連絡してほしいと伝えたが気が気じゃないコベニちゃんは俺の声は届いてないみたいだった。
「…やめなきゃ…可笑しくなる…」
「もう少し頑張ったらボーナスが出るよ」
ようやく俺の声が届いたのか、彼女はふらふら俺たちから離れて無線で連絡をし始めた。
「女狐、アキの音は聞こえる」
「小さいが聞こえる。が、女は聞こえない」
「…そっか」
女狐は立体聴覚が優れている。ただ生きてる人間に対してのみ有効だ。
女、と言ったのは姫野のことだろう。(私はアキくんに死んだ時泣いてもらいたい)なんてバディ泣かせな事よく言ってたな、姫野。
きっとアキのために死んだんだと、そう思った。
姫野はアキと一緒に民間に転職することを望んでいた。でもそれは叶わなくて、だからこそアキに死ぬなと言い続けてたんだと思う。
そのうち救急車やパトカーが数台やってきて、デンジとアキは病院へ連れられた。簡単な事情聴取を受けた後、アキがいた場所に向かうと瓦礫が散乱している中に公安の制服と見慣れた眼帯。遺品は回収できるは回収して、身内に返却するのがルールだ。
回収したそれの埃を払ってから畳んで、鑑識に渡した。
「気配消すのやめてもらえますか、岸辺さん」
「アイツは」
「俺も今来たところなので、はっきりとは」
「…どう思った」
「どうって…まぁ、アキ大丈夫かなって」
いつの間にか隣に立っていた岸辺さんが煙草に火をつける。差し出された一本を受け取るとそのまま火までつけてくれた。
「おい、佑月。腕どうした」
「あぁ、デンジに」
「…使えねぇ」
デンジにあげて短くなった俺の左腕を見て、心底嫌な顔をして眉間に皺を寄せてみせる。普通に手を切って血を飲ませる方が良かったか、いやでもナイフで皮膚を傷つけたりするのは痛いから嫌だ。自切した方が痛くないし。怖いから笑い返してごまかした。
「お前、マキマをどう思う?」
「さぁ。今の俺はアキのために公安に居るので」
そして煙草が一本吸い終わった頃に、俺はそのまま病院へ監禁された。
銃撃事件から、数日後。
新4課のお披露目式があるからどうにかそれまでに治せと岸辺さんに脅されたが、絶対に無理。
指一本だって治るのに三週間ほどかかるわけだから、数日ではい治りましたなんてことはない。
怒られるな、最悪間に合わない場合は俺は不参加も有りゆる。俺は楽だからそれでもいいけど。
ベットから立ち上がって、窓から外の景色を眺める。犬の散歩をしてる人や、ジョギングをしてる人、いろんな人が見えた。こんなに平和なのに。
つい先日、俺達は銃撃事件に巻き込まれていて、同僚が沢山亡くなったんだ。
ベットに戻りテレビをつければこの間の騒動がニュースで報道されていた。嫌気がさして、テレビを消した頃に病室の扉が開いた。
「体調どうだァ?」
「お、デンジだ」
「おうおう!ワシもおるぞ!」
「あ、パワーも来てくれたんだ」
「ワシはウヌの右手を食べにきた!」
「右手まで無くしたら岸辺さんに殺される。あ、そこにあるみかんなら食べていいぜ」
「やりぃ。いただきまーす」
「皮ごと食べてる奴初めてみた。パワーも食べるなら剥いてやるけど」
「食べる!食べるに決まっておる!!」
それからカゴに入ってたみかんをパワーに剥いて渡すと嬉しそうに食べてくれてた。可愛い。
剥いた皮はデンジに取られて食べられた。腹壊さないか少し心配だ。
みかんを食べさせながらアキの話を聞いた。「泣いてた」とデンジから言われてそりゃ泣くよなと思った。それからアキの寿命のこともパワーから聞かされた。
カースを使ったんだ。
まぁ使うよな、アイツは。自分より他の人のことを守ろうとする、そういう子だから。
デンジたちもそれ以来アキには暫く会ってなくて、二人は岸辺さんの指導を受けて始めたんだとか。
「アキに会いたいな」
「会いに行かねェの?」
「ん。そうだなぁ」
「付き合ってんだろォ、姫野が言ってた。アイツ、お前達のこと別れさそうとしてたぜ」
「付き合ってるというか、好き合ってる的な」
「まぁ俺にはよく分かんないけど。
なぁ、佑月は悲しかったりするのか?」
デンジが言うのは、姫野のことだろうか。
「悲しい」
「はぁ?なんか全然悲しそうじゃねェし」
「あんまり出さないようにしてんだ」
「へぇ。
あ、あとその腕!俺ンために食わせてくれたんだろ」
「あぁ、うん。まぁ、でも俺が好きにやったことだから」
「佑月もアイツも退院出来たらさ、俺の奢りで…メシ食いに行かねェか…」
「へ?」
「なぁんか、借り作ったままなの嫌だし…小遣いで1万貰ってるからそれで足りるとこなァ」
「ワシも行くが」
「お前は逃げたから駄目だ。行くなら自分で払え」
「嫌じゃ!!」
病院内で暴れ始めたデンジとパワーに、アキが居たら怒ってるだろうなと居ないアキのことを考えていた。
暫くしてパワーが飽きたらしく、二人が帰ることになった。
「パワ子もメシ連れってやるから、外で待ってろ」デンジがそういうと目を輝かせてぶつぶつ独り言を言いながら外に出ていったパワー。早川家はアキが長男、デンジが次男で、パワーは末っ子ってところだろうか。
「なァ、佑月」
「ん」
「こんなこと早パイに言ったら殺されそうだけどよォ。佑月の血、美味かった…また飲みたい」
「今は無理だけど、元気になったらね」
「それと俺考えたんだけどよ」
「なに?」
「その腕、俺の血ィ飲んだら回復するんじゃねって」
「どうだろ。岸辺さんに試されて人間と悪魔と魔人の血を飲んだことはあるけどどれも効果はなかったな」
「うげェ、結構試してんだな」
「デンジは特別だからね、治るかも」
「ん、」差し出された右腕に思い切り噛み付いてみるが再生に殆どの体力が使われているのか全然力が入らない。見かねたデンジが自分で腕を噛むと、ギザギザした歯が皮膚に貫通して歯形通りに血が出てきた。
「じゃあいただきます」せっかく自らを傷つけて俺に血を飲ませたいと思ってくれたのだからその気持ちを無下にはできない。
少し気は引けたが、ぺろっと舐めてみるとデンジの血は人間と変わらない血の味がした。
舐めた後、歯形に沿って甘噛みした。ちゅちゅ吸ってみたり噛んでみたりしてみると少しずつ口の中に血が入ってくる。
(チェンソーの悪魔の血じゃ。喜んでおるぞ)と女狐の悪魔の声が聞こえた。蜥蜴の悪魔には口がないから俺は意思疎通が出来なかった。女狐の悪魔は喋らずとも蜥蜴の悪魔と疎通ができるようだ。
段々、デンジの血が美味く感じてきた。
そろそろやばいと思うも、喉を通る血がどうにも辞められない。
鼻がツーンとした感じがして、鼻血が出て来たみたいだった。男に鼻血を垂らしながら、血吸われてどんな気持ちなんだろう。申し訳ないが何故か辞められない。
「…っちぅ、…っ」
「…ん、佑月っ、なんか俺ヤバい」
デンジを見ると眉毛をハの字にして頬を赤らめていた。目が合うと今度は目を逸らされる。
名残惜しさを残して、腕を離すとデンジが俺のベットへ倒れ込んできてへぇへぇしている。散歩終わりの犬みたいだ。
口についた血を舌で一周して舐めると「どういう状況なんだこれは」とアキの声がした。
「…アキ」
どうやら俺がデンジの血に夢中になっている間に病室に入って来たらしい。
あんまりアキには見られたくなかったな。「あぁ…これは…」と歯切れの悪い返事をしながら言葉を探す。
枕元にあったペーパーで血まみれになったデンジの腕を拭いてやると、こっちに近づいてきたアキも同じようにペーパーをとって俺の鼻を拭く。
「悪魔にでもなったのか、お前は」
「はは、どうだろう。その方がアキのためになるならそれでもいい」
自分の腕を見るも血を飲む前と変化は特に見られない。
やっぱり俺自身は人間だから、デンジやパワーと違って血を飲んで回復みたいな力はないようだった。
今だにへぇへぇしてるデンジの頭を撫でるとアキの無駄な咳払いが聞こえて、アキを手で招き寄せる。
差し出された頭に手をのせて、そのままアキの頭も撫でた。
「アキが生きててよかった」
バディを無くしたアキには皮肉っぽく聞こえただろうが、これが俺の本心だったから仕方ない。
「他の悪魔と契約した」未来の悪魔だという。一番に報告しに来てくれたと思うと嬉しかったし、それ以上は聞かなかった。
そのうち我慢できなくなったパワーが入って来て血の匂いがしたのか暴れ始めたのでアキが二人を連れ帰った。
静かになった病室。眠くなってきたのでそのまま目を瞑る。
起きた頃には、まだ再生し終えるはずのない腕が完治して次の日、俺は退院することになった。