風呂から出て、黒のTシャツと下はパンツ一枚。アキがいる時はズボンはどうせ脱ぐから履かない主義だ。髪の毛は濡れたままだと怒られるので、ガシガシと何度かタオルで拭き、そのまま肩にタオルをかける。櫛とヘアオイルとドライヤーを持ってからアキがいるであろうキッチンへ向かって顔を覗かせれば、俺と同じ格好にエプロンを付けたアキがいた。
「あれ、ズボン履かなかったの。いつもの棚に入ってたのに」
「あぁ」
「なんかその姿にエプロン付けてるとえろい」
「馬鹿かよ」
いやいや真面目に言ってるんだけど。
俺は普段全然自炊なんてしないし、キッチンにある即席で食べれる料理以外はほぼほぼアキが使うから買ったものばかりだ。アキが付けてるエプロンもそう。これもアキ専用で、俺は一回も使ったことは無い。
アキがまだキッチンで夕飯の準備している間、俺は爪を切って時間を潰してた。いつもは少し長くなったら切るが、出張中蜥蜴の悪魔の力を使う事が多くたまに爪を欲しがるから少し伸ばしていた。
爪が長いと中を傷つけてしまったりして、危ないのでアキに触るのだから気をつけなきゃいけない。
「…飯炊いたからまだ結構時間かかる。また寝るか?」
丁度俺が切り終わった爪にヤスリをかけ終えた頃、キッチンからアキに声を掛けられる。
「ん、平気。アキ、髪の毛濡れたままだろ。俺が乾かしてやる」
「そうか」
エプロンをとったりこちらへ来る準備しているアキに今度は俺が先にやるんだと気合い十分な俺。先に自分の髪にヘアオイルをして櫛で解かしていると、俺の足の間にアキが座ってくる。「オイルつけていい?」というとこくりと動くアキ。まぁアキの髪は何にも付けなくても綺麗なんだけど。本当サラサラで羨ましいぐらいだ。
「え、なに」
オイルをつけてアキの髪を触っていたら、突然顔を上に向けて俺のTシャツを腹あたりまで捲られる。
「…一週間ぐらい飯作りに来てやる」
「まじで」
「まじで」
「嬉しい」
アキの手料理なら頑張って食べれそう。なんなら結構もう腹減ってきたかもしれない。というかアキにこんな言われるほど俺、そんな痩せたのかな。自分の身体の変化って気づく様で気づきにくいのかもしれないと、腹の肉を摘もうとするも確かに摘むほどはなかった。「いっぱい食わせる」と妙にやる気に満ちたアキが結局俺は可愛いと思ってしまい、後ろからぎゅっとアキの顔を抱きしめて両方のぽっぺにちゅーしてやった。
「いい加減普通の下着買えよ」
「えー無地より柄あった方が可愛いじゃん。俺、今日は犬」
「…見ればわかる」
「そう言えば俺のパンツ履いてる事件あったよな」
「よく覚えてるな、まじで忘れろ」
アキがようやく前を向き始めたのでドライヤーの電源を入れて髪を乾かしはじめた。オイルのホワイトティーの爽やかなシトラス調の中に深みあるティーが香って落ち着いた。
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ー俺のパンツ履いてる事件。
それはいつぞやの新人歓迎会の二次会で俺の家で起きた。あの日の姫野には悪いことしたなと思うが、今となってはいい思い出、と俺は思うことにしている。
x年xx月xx日。
あの日の飲み会はすごく盛り上がり、飲み会だけでお開きするはずが、姫野とアキと俺とそれに数名が二次会に参加することになった。「店に行くより宅飲み!」とか騒ぎ始めた姫野のせいで比較的店から近い俺の家で行うことになった。
俺んちの冷蔵庫の酒が空っぽになるぐらい飲み明かした頃にはほぼほぼのメンバーが出来上がって寝ていて、俺もその中の一人で気持ちよくソファを背にして寝ていた。
姫野と俺は好きな物が似てた。買い物に行っても欲しいものが一緒だったり、同じ映画を面白がっていたりとか、好物も似てた。それに歳も近ければ、入社したのも近いので飲みの酔ったついでにヤったこともある。ヤったのは二人で宅飲みした引っ越す前の俺の家。朝起きると俺たちは裸でベットで寝ていた。姫野が「酔ってて覚えてない」と言い、俺も強めの酒をお互いの口で流し込みあったところぐらいから記憶が曖昧だった。
それからたわいもない話をして「またえっちしよっか」なんて笑う姫野を見て(姫野には幸せになってほしいな)なんて無責任なことを考えていた。
床に落ちていたパンツを拾い上げると姫野に取り上げられ「もう二度目はない」と言い放たれた。
どうにもこの日履いていたヒヨコのパンツが悪かったらしい。
後日、たまたま柄が入っていたのかと聞かれたので全部柄だと答えれば「趣味悪」と言われパンツの趣味だけは姫野と合わなかった。
それからアキが公安に入って、姫野とアキがバディを組む様になった。姫野の口から「アキ君が」と何度も聞く様になった。やっぱり姫野とは趣味があってしまう。俺がすでにアキを気に入ってた頃、姫野もアキを気に入ってることに気づいた。
いつか姫野にアキは食べられるのかな、とまた無責任な事を考えてた。
俺は姫野にも幸せになってほしい、と思ってたから流石にアキとそういう関係になったことは姫野には伝えていなかった。この飲みの日の前の日もアキを抱いていたのに。
そして、事件の起きた二次会に戻る。
みんながリビングで眠る中、アキが起きた後、勝手に俺の寝室に向かい、その姿をたまたまトイレに行った姫野が見かけて、無抵抗のアキを押し倒して襲った。そして無抵抗のアキのズボンを姫野が下ろしたら見覚えのあるパンツとご対面して一気に冷めてしまったらしい。
「ねぇ、なんでアキくんが佑月のパンツ穿いてるわけ」
そして俺は叩き起こされ、この日すごく姫野に追い詰められた。これが俺のパンツ履いてる事件の全貌である。
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「あの日から姫野、アキのこと襲わなくなったよね」
「まだあの時のこと思い出してるのか、姫野先輩に怒られるぞ」
「最初は俺の事も佑月先輩って呼んでたのに」
「……忘れた。ほら、乾かすのかわる」
アキと姫野がバディを組む前。
岸辺さんに鍛えてもらっていたアキの面倒を見てほしいとマキマさんに言われたのが俺とアキの出会いだった。その頃の俺はデビルハンターをやるよりアキの面倒を見てる方が安全で楽だったから引き受けた。
初めて会った時のアキの印象はわりと無口で周りとあまり関わりたくないのかと思った。訓練が終わって、家まで送るついでに帰り道の牛丼屋のチェーン店で「今日どうだった?」と聞けば「別に」というアキ。たまに店を変えてまた同じ会話をして…これが俺とアキのルーティン。無駄な会話も無くて楽だった。
訓練中は岸辺さんは相変わらず誰に対しても岸辺さんだしまだ未成年のアキには辛い事も沢山あっただろう。それでも彼は文句も言わず訓練を受け続けて俺と晩飯を食べて「今日どうだった?」と聞けば「別に」というのだ。
そんな関係から少しずつ変化したのは岸辺さんが「手本を見せろ」と俺が戦う姿をアキに見せた時だった。少しずつ口数も増えた。「佑月先輩」と声をかけてくるアキはまだ俺より身長が低くて弟みたいで可愛かった。悩みの多い年頃だろうから「いつでも頼っていいから、お兄ちゃんだと思って」とアキに伝えるとその日から「佑月」と呼ばれるようになった。
それからどうしてか、アキは俺の隣にいる当たり前の存在になっていた。
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「佑月、」
「…、アキ…っ、ごめん…また寝てた…」
「疲れてるんだろ。それ、治してる間は体力使うから仕方ない…夕飯、食べれるか」
「食べる!……うわ、久しぶりにお腹鳴った」
「じゃあ食べよう」
アキにドライヤーをされながらどうやら何秒も経たずに俺は寝てしまっていたらしい。再生にはかなり体力が必要なのか、すぐ眠くなってしまう。
部屋にはいい匂いがして、食卓机にはオムライスとスープとサラダが出来上がっていた。
「アキ、いいお嫁さんになるよ」
「勝手に嫁つくって帰ってきたやつがそれ言うか」
「未遂だろうが。まだ怒ってんの?」
「…その話は飯食った後だ。食べるぞ」
「はーい」
いただきます、の合図と一緒にまずはスープを一口。「うまいか?」とすかさず聞いてくるアキに「美味しい」と伝えると嬉しそうな顔をしてアキも食事を始めた。うん、美味しい。本当に。こうやってアキと笑い合いながら食べるご飯が一番美味しい。それから最近の仕事状況とか面白かった話とかしながらご飯を食べ終えて、俺がやると言ったものの頑なに嫌がるアキと一緒に食器を洗った後、ソファに座って350mlのビールをわけっこして飲んだ。
「アキに一週間もご飯作ってもらえるならなんかお礼しないとね」
「礼なら身体で払ってもらうから大丈夫だ」
「…ふぅん。じゃあ、アキはこれからいっぱい俺に鳴かされるんだ。俺のでいっぱい突かれて、気持ちよくて、やめてって言っても絶対やめない、」
「っ、」
「…アキ、俺にどうされたい?」
そう言ってアキを見る。アキはだらしない顔して俺の下半身に擦り寄って下着の上からちゅっと音を立てて顔を離した。「佑月のこれで、ここめちゃくちゃにされたい…」と四つん這いになって俺に尻を見せてくるアキのパンツは俺のお気に入りの猫のパンツだった。