超ご都合で姫野佑月野茂は同期設定。
全員2課。
アキくんが岸辺を先生呼び。
×姫野要素有。



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21×18
(--孤独の悪魔編の後)



 初めてバディとの初任務を終え、本部へ報告に行く最中、車の中でジリジリと無線の音が流れる。


ー2課の佑月と野茂です。悪魔駆除終わりました。本部に戻ります。
無線から佑月先輩の声が聞こえる。
バディになった彼女もその声を聞いて、安心したのか吸ってた煙草の火を消した。


「そういえば、佑月とアキ君って元々知り合いだったの?仲良さそうだし」
「少し面倒見てもらってた」
「そうなんだ。アキくんの大事な人じゃなくてよかったね」

ハンドルを握っている彼女は悪気無く笑う。


佑月先輩は面倒をみてくれてる先輩だ。
あの日見た手合わせから一転して、俺が先輩に興味を持ち始めたことは事実。先輩は実力もあって、ルックスも良い。そんな彼が同じ部署内で、後輩の俺のことを気にかけてくれているのは、嫌な気分にはならなかった。
ただ佑月先輩は俺の大事な人ではないし、それにもう俺の大事な人はこの世には居ない。

「あの人は、そういうのじゃない」

この時の俺はそうハッキリ言えた。



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本部へ戻って、今回の事件の報告を終える。
部屋から出ると先に歩いていたバディが「あっ」と声をあげて立ち止まる。手を振っている方をみると、野茂さんと佑月先輩がこちらへ歩いてきて二人ともそれなりに血まみれだった。
それに俺の顔を見るなり、野茂さんの後ろに隠れてる始めた佑月先輩。なにやら少し様子がおかしい。



「随分やられたねぇ、お二人さん」
「全部悪魔の返り血だ」


野茂さんに指差される佑月先輩は居心地の悪そうな顔をして「さっさと報告行こう」と急かしている様子が、少し気になってしまう。

(俺のこと、避けてんのか)俺から見えないように野茂さんを盾にして歩いているように思えた。
興味が無さそうな顔をして、二人の隣を通り過ぎるフリをする。先輩の方は見ずに、左腕を掴もうと手を伸ばした……が、あるべき感触がなかった。
掴んだ制服の左袖を見てさすがの俺も血の気が引いた。


「先輩、腕は」俺の言葉に、佑月先輩は間の悪い顔をして見せた。
「腕切り落として、悪魔に食わせてこれだよ」…腕切り落として、食べさせる?野茂さんの言葉に全くついていけていない。
佑月先輩は溜息をついてから「生えてくるから大丈夫」と右手で俺の頭を撫でて、野茂さんと部屋に入っていった。


「佑月、靴の踵部分に毒が仕込んであるんだって」
「毒?」
「だから良くやるんだよねぇ。悪魔を怖がったフリして、捕食されて仕込んでた毒を食べさせるの。爆弾仕込ませてたこともあったな」


さっきから野茂さんもこの人も、説明不足で俺の頭じゃやはり理解できない。
「アキ君さ、この後4人で飲みに行かない?」誰とも馴れ合うつもりもないのだが、先輩のことが気になったので誘われるまま飲み会に参加した。



 飲みは近くの居酒屋だった。
佑月先輩の契約している蜥蜴の悪魔の話を聞いて、それから俺たちの今日の事件現場の話もした。


「アキ君も、いずれは悪魔と契約するんだよね」
「…」
「狐の悪魔は人間に友好的だぞ、割と。俺も契約してるし」
「野茂は手しか使えないもんねぇ。アキ君は、頭が使えそう」
「俺は使いやすさを選んで手を借りてるんだよ」
「あはは、なんか言ってるぅ。佑月は京都の狐の悪魔とは契約出来ないんだよね」
「あぁ、俺は実家が福岡の方にある稲荷神社だからな。なんか色々あって契約を拒否られた」
「佑月なら頭使わせてもらえそうなのにねぇ」


それから数時間すれば、酔い始めたバディの彼女は野茂さんに引っ付いて楽しそうにしていた。
そんな中「アキ、先に送ってくる」と佑月先輩が席を立つ。わざわざ飲みの場で先輩に送ってもらうのも、と思った俺は一度は断った。


「別に一人で帰れる」
「初任務の後で、上司の酒飲みに付き合って疲れただろ?…それに俺が送りたい、アキのこと」


先輩に右手を差し出され、俺はそれに頷くように手を握った。大事にされてる感じがして少しむず痒い気持ちだ。



 帰りの車の中。赤信号で止まった時に「火つけてくんね」と口に加えていた煙草を差し出される。ドリンクホルダーに入っていたライターを取り出して火をつけると器用に片腕しかない右手で摘んで煙草を吸い始めた。
片手でどう運転するんだろと、思っていたが、佑月先輩の車は特殊な車で、随分多額をかけて片腕でも運転できるようにしたらしい。日常茶飯事で片腕を生えるからといって悪魔の力で切り落としている先輩は先生が言っていたようにネジが外れているんだろう。


「あぁ、ビール飲みたい」
「…飲みたいなら飲めばよかったじゃないですか」
「飲んだら飲酒運転になるだろ」
「いつもはどうしてるんですか」
「代行呼んだり、電車で帰ったり」
「そういえば先輩、遅れてきましたよね」
「車とりに家戻ってた」
「歩いて電車で帰ればよかったのに」


そのうち煙草の煙が車内に充満してきたので、少し窓を開ける。冷たい風が入ってきてひんやりして少し気持ちがいい。


「アキのこと送れないだろ」
「さっきからそればっかだな」


運転中の先輩の顔を横目にみると、少し眠た気で目が普段より伏せ目がちだ。そんなぼんやりした顔も、綺麗だと思うのだから俺が女だったら骨抜きにされていたかもしれない。こちらを見ていた俺に気づいた先輩が「今日どうだった?」といつもより柔らかい表情で微笑んできた。無駄に顔が良いな、この人は。



「姫野先輩とバディになった」
「姫野、せんぱいねぇ」
「なんだよ」
「いや、俺以外に先輩っていう人ができちゃったのかーって、そんだけ」
「まだ本人には言ってない」
「へぇ、じゃあ今は俺だけだ」
「…くだらない」
「あ、孤独の悪魔だっけ、その人の大事に思ってる人が死ぬとか、なんかもう卑怯だよな」
「別に」
「一人は寂しいもんな。…今日の現場、本当は俺たちが行く予定だったんだ」
「へぇ」
「よかった。もし俺がそいつにやられてたら、アキが死んじゃってたから…あ、着いた」


は?どういう意味だ、それ。
先輩は自分のシートベルトを外して車を降り、助手席の方へまわってきて「着いたぞ」と今度は俺のシートベルトを外そうとする。


「…ちょっと待って、さっきの意味って」
「そのままの意味」


数センチ先の佑月先輩の澄んだ水縹色の瞳。長い睫毛に整った顔立ち。綺麗だと、見惚れている間にシートベルトは取り外されて、先輩は俺から離れていった。


「…送っていただき、ありがとうございました」
「あはは、すげぇ片言。こちらこそ。
アキ、お疲れ様。おやすみ」


先輩の車が見えなくなるまで、なんとなく見送ってしまった。先輩の言った"そのままの意味"が、俺には理解しきれなかった。


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 暫く公安の任務が続き、人が集まらないといった理由で数ヶ月後に開かれた俺を含む新人たちの歓迎会。

ー公安対魔課の姫野と酔うとキス魔になる。

公安の中では有名な話だった。「今から全員とちゅうしまーす」と酔って上機嫌な姫野先輩は本当に全員にキスして回り始めた。
新人たちは挙動不審になるヤツも多かったが、その姿を見て姫野先輩は面白がって余計に気分をよくしてるみたいだ。先輩方々はみんな始まったって感じで、姫野先輩にされるがまま。
佑月先輩も例外ではない。


「次は佑月!」
「姫野、あんま飲み過ぎんなよ……はいはい、ちゅーな」


慣れた手つきで姫野先輩を膝の上に座らせて、三度ぐらい短いキスされる先輩。この二人は、年も近くて、入社日も近くて仲がいい。昔からこの二人はこんな感じなんだろうと少し姫野先輩が羨ましくなった。

俺は未成年で、まだ飲めない。だから、酔ったフリしてでも先輩と触れ合うことはできない。
あの日から、何度か4人で昼飯を食べたり、二人きりで飲みに行ったりもした。その度、先輩に触れてみたいと思っていた。


「アキにもすんの」
「するに決まってるじゃんーねーアキ君」


酒に酔い潰れた姫野先輩を介護しながら、焼き鳥を食べる俺のところへくる先輩。
まだ焼き鳥が口の中残る中、近づいてきた姫野先輩の唇が一瞬重なって、感触は一瞬だったからあまり覚えていない。
ただ俺の前にキスされてたのは先輩だったから、間接キスだな、とつまらない事を考えていた。


「あ、アキ。俺と間接キスじゃん」


姫野先輩を抱き抱える先輩の一言に、食べていた焼き鳥を喉に詰まらせそうになって咽せた。顔が熱くなる。つまらない事を考えてたのは俺だけじゃないらしい。


「アキ君、顔赤いよ。ファーストキスだった?」さっきの佑月先輩の一言は姫野先輩には届いていなかったようだった。これがファーストキスではなかったことは確かだったけど、先輩が俺を見ながら適当に話合わせとけという顔をしてみせたから数回頷くと姫野先輩はまた上機嫌になって「次だー」とまた先輩を連れて別の卓へ行ってしまった。顔が赤いとまわりの先輩方からいじられるのも嫌だったので手洗いへ行き、戻ってくると扉の近くに座っていた野茂さんの膝の上で姫野先輩は酔い潰れて寝ていた。


「責任転換だ」
「野茂だって、同期だし」


姫野先輩から解放された先輩の隣に座る。先輩の手に握られたグラスを興味本位で奪って、そのまま一気に飲んでみた。


「残念、酒じゃないよ」
「…先輩は飲まないんですね」
「俺はアキがいる飲み会は飲まないことにした」
「なんでですか」
「なんでも」
「ビール好きなくせに」
「ビールよりもアキが大事ってことだよ。あ、すいません、唐揚げ一つ追加で。アキもなんか飲むか?」
「……烏龍茶」
「あと烏龍茶も二つお願いします」
「…ありがとうございます」
「ん。いつでも頼っていいから、お兄ちゃんだと思って」


この人が俺のことが大事だと、思っていたのは弟、としてなのかと、その時思い知らされた。
「佑月」と、思わず口から出た名前に、相手は少し驚いた顔を見せる。それから頭を撫でられる。
「なぁにアキ」と優しい声で呼ばれ、手の甲で俺の頬を撫でた。


「佑月も酔うとキス魔になればいい」
「なんで」
「なんでも」


理由は一つ。俺が佑月とキスしたいと思ったからだ。
そうしたら、簡単に目の前にある佑月の鮮やかな紅色の唇とキスできる。


「ふぅん。でも多分俺、アキより酒強いよ」
「そんなの飲んでみないとわからない」
「じゃあ、はやくアキと飲みたい」
「俺がいる時は飲まないんだろ」
「未成年のアキとはね、成人になったら飲ませるよ」


この時の、俺はなんで「アキの前では飲まない」と、言っていた理由までは考えていなかった。

ー公安対魔課の姫野と佑月は酔うとキス魔になる。

それを知ったのは一年後の親睦会の時だった。


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