新人歓迎会
×早川家
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「新人歓迎会?」
「そ、アキくん主催で」
「いつ」
「今週ーマキマさんがいるからってさぁ」
「へぇ」
「だからぁ、佑月の名前も書いといた」
「は?姫野、勝手に…」
「佑月だって、4課でしょー何やってるんだか知らないけど最近全然こっちに顔出さないし」
「…俺も課が変わったり、バディがあれで忙しいんだよ」
「まぁまぁ、じゃ!そういうことで」
煙草の火を消すなり、姫野は喫煙所から出て行ってしまう。そして俺は強制的に新人歓迎会に参加するわけだが。
この間の森内ホテル事件には別の任務で参加できなかったし、ニャーコ救出大作戦以来だな、みんなと会うの。
パワーとデンジにも会いたいし、まぁ良いか。それにホテル事件ではデンジがたくさん頑張ってたって話を聞いたから、会ったら褒めてやろ。
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「佑月も来るんですか」
「ん、誘っといた。なぁんか忙しいみたいで、本当に来るかわかんないけど」
姫野先輩は、たまたま喫煙室であった佑月のことも誘ってくれたらしい。
参加人数は俺を含めて12人。マキマさんは遅れてくると連絡があって今はまだ居ない。
佑月もコベニと同じぐらいのタイミングで少し遅れて来た。当然、俺の横に座るのかと少し間を空けたのに「読める漢字が少ない….」と渋い顔してメニューを見るデンジが目に入ったのか、デンジの右側に座るようだった。
「デンジー」
「お、佑月じゃん」
「この間すげぇ頑張ったんだって偉いな」
「だろぉ、俺スゲー頑張った」
ジャケットを脱いで、両手でデンジの頭を撫でる佑月。撫でるというかわしゃわしゃ犬を褒めるような感じで髪の毛がぐちゃぐちゃだ。
野郎は好きじゃないと言っていたデンジも何故か佑月には懐いていて、嫌がる素振りは見せない。
デンジはボサボサになった髪を直して、ここ座れとばかりに床を叩いてメニュー表を佑月に渡す。
「先、決めろよ。俺は読めねーから時間かかる」
「読んでやるから気になるのあったら教えて。
生姜焼きに…手羽先だろ、これがからあげで…刺身の盛り合わせ…」
と、メニュー表を一つずつ読み上げていく佑月。コイツが懐く理由はこれだな。二人を見ながらビールを一口飲んだ。
「俺は手羽先食べようかな。デンジもちょっと食べるか?」
「食ったことねぇ、食べる」
「あ、すいませんー生1つと手羽先お願いします。
…あ、デンジ、カタカナは読めんの?」
佑月が指差した場所をみてハッとした顔を見せたデンジは、問いに答えないまま左隣にいた姫野先輩にコソコソと話を始めた。
二人が話してるところを一瞬見て、いつもの興味無さそうな顔。メニューを閉じた佑月と、ここでやっと初めて目が合った。
「アキ、お疲れ様。主催ありがとな」
「…俺も手羽先食べる」
「ははっ、そうだな。一緒に食べよ」
デンジばっかりでずるい、声に出してそうは言わない。ただ、さっきの一言で俺の心中は察してもらえたようだった。
「手羽先、食うとこすくねぇけどうめぇ!」
「だろ、流石に喉に骨刺さりそうだから骨は食うなよ」
届いた手羽先を一本、デンジに食わせた佑月は残った手羽先とビールを持って俺の隣へ座る。
「改めて、アキいつもお疲れ様」乾杯してからお互いそのままビールを一口。佑月はそのまま半分ぐらい一気に飲み干した。それから、口についたビールをぺろっと舌で舐めて「うまぁ」と声を漏らして俺を見る。(えろい)と、思いゴクリと息を飲み込むと、にやとして見てくる佑月はどうやら確信犯だ。
最近仕事と、厄介者の面倒を見るが忙しいこともあってか佑月と会ってないから、セックスもしてない。
「アキ、顔赤いぞー」
「…酔っただけだ」
「ふぅん」
デンジと佑月が気になって中々飲み進めていなかったビールを一気に飲んでからおかわりを注文し、誤魔化すように手羽先を食べ始めた。
それから新人の自己紹介が始まった。辛気臭い話になったが姫野先輩がだいぶ酔い始めてその場を繋いでくれたので助かった。
姫野と佑月は酔えばキス魔になる、という話になって、デンジが大層嬉しそうな顔をしていたが佑月は酔うほど大勢いる飲み会では飲まない、という約束をしたので今日は大丈夫だろう。
それからマキマさんが到着し、そのタイミングで佑月はパワーの隣へ移動した。
俺達のマキマさんを酔わせる作戦は見事に失敗だった。
「パワー、唐揚げちょうだい」「…一個だけじゃ」と厄介な奴を手懐けて楽しそうにしてる佑月を空になったグラス越しに見ながら、俺はマキマさんの「生、もう一つ」の声を聞きながらそっと目を閉じた。
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大勢いる飲み会では、酔わない程度でしか飲めないからこれが最後のビールだ。
隣の隣にはマキマさんに酔い潰されたアキと空になった大量のグラス。姫野と何やら作戦を立てたようだが、それは叶わなかったんだろう。
「俺、煙草吸ってきます」最後のビールを勢いよく飲み干す。少し緩くなってしまったが、それでも、美味い。最近全然飲んでなかったし、人と飲むお酒は余計に美味く感じる。
「佑月くんはあんまり飲まないんだね」
「えぇまぁ」
「残念だな、こんなに美味しいのに」
途中マキマさんに声をかけられた。上司にこんなこともいうのもなんだがマキマさんはたまに子供っぽいことをいう。
「…あぁなるわけにはいかないので、アキの前では」と、姫野がデンジにキスし始めたのでそれを指差して、その目線から逃げられた。
外で煙草を吸ってたらだいぶ体調の悪そうなデンジとマキマさんが出てきたので、見て見ぬふりをして中に戻った。さっきまでの出来事を面白おかしく話すパワーに、トラウマになっただろうなと思ったが好きな女の人に介護されたら少しは良い思い出になるだろうと無責任な事を思った。
マキマさんが会計を済ませてくれてる最中。
もう店の中には俺と寝ているアキしかいない。
せっかくこんなに寝ているなら起こすのも可哀想かとパワーに手伝ってほしいと言ったが、嫌じゃの一択で手伝ってもらえなかった。
泥酔状態のアキを起こすのは気が引けて、結局店を出るのが最後になってしまった。
「アキーそろそろ帰るぞ」
「っ、……ん、佑月」
「そう佑月だよ、アキ大丈夫か」
「…」
「ダメそうだな…おーい、アキ」
「ちう、したい」
デンジがあんな事になってるのにキスがしたいなんてすごい奴だな。あぁコイツは寝てたから知らないのか。「ん、」ちゅと短いキスをしてやれば満足したようでまた寝始めようとする。
「あーこら寝るな。アキもキス魔になったのかー」
「……っ、こ」
「ん?」
「抱っこしてくれるなら帰る……」
「あー別に良いけど…明日の朝文句言うなよ」
上司と先輩、後輩がいる中で男の先輩に抱っこされてる姿をみんなに見られたなんて言ったら明日のアキがなんと言うやら。文句は言わないという約束をしたので、ん、と両手を広げてくるアキを背負って、靴は左手に持ってから店から出る。
少し緊張しながら外へ出るとすでに解散していたようで、外にいたのはマキマさんと怯えているパワーだけだった。
「早川家はわたしが送ろうかと思ってたけど…デンジくんも居ないし佑月くんパワーちゃんもお願いしてもいいかな?」
「俺は構いませんが…」
パワーを横目に見ると取れそうな勢いで首を縦に振っていて少し面白かった。
「パワーいい子に出来るよな、じゃあアキの靴持って」
「も、持つぞ!ワシはいい子じゃからな!」
「…だそうです。じゃあ二人は俺が送ります」
今日の会はマキマさんの奢りらしいので、アキとここに居ないデンジの分を俺とパワーでお礼を伝えた。
「アキが俺に抱っこされてたのはみんなに言わないでくださいね」と、マキマさんに言えばいつもの顔をして「そうだね」と返事をいただいたので、そのままアキの家に向かった。
「パワーは、アキと一緒に住んでどう?」
帰り道、少し遠回りして街頭のある大通りを歩く。普段魔人のパワーの角が目立つからと大通りは歩かないからネオンや光る看板にパワーは目を惹かれているようだった。
「チョンマゲ」
「はは、何それ」
「チョンマゲはチョンマゲじゃ」
「アキの手料理美味しいよね」
「…飯、は作ってくれるから感謝しておる…」
「あんま喧嘩しすぎんなよ。アキは人間だから」
「人間は脆いからのぉ、難儀じゃ」
「そうかもな、だからこそアキは綺麗だ」
デンジとパワーの保護者をしながら公安の仕事もこなして、アキは疲れているんだろう。ぐっすり寝ているようですぅすぅと寝息が聞こえる。
「佑月もじゃ、」
「俺?」
「お前の腕、美味かったからのぉ。また食わせろ!」
「パワーに食われるために生きろってか。食い過ぎるとマキマさんに血抜きさせられるぞ」
「そ、それは嫌じゃぁ!」
「はは、帰るの遅くなっちゃったからニャーコにコンビニでご褒美買ってやるか」
「アイス!」
「それはニャーコじゃなくて、パワーにだろ」
「ワシも頑張ったのにぃ、みんなデンジデンジばっかりじゃ」
「1000円までな。ニャーコとパワーの分」
途中のコンビニに寄った。こんな身なりの三人が入ってきたものだからコンビニの店員は驚いた顔をした。
「佑月!パピコ!!も!」
「それだと100円オーバーだけど」
「で、デンジと半分こする!!!」
「…アキと俺の分でもう一つ買ってくれる?」
「おう!おう!」
きっとデンジと半分こするというのはパワーの嘘だろう。ただ、パワーのアイスが食べたいという必死な顔と、かわいい嘘に騙されてあげようって気分になった。