先輩に告白される【完結】

赤葦あかあしさいど

 卒業式が終わり、体育館の裏は人が少なくなっていた。胸がざわついて落ち着かない。期待と不安が混ざって、呼吸が少しだけ浅くなる。

(……来るって、言ってたけど)

 そんな弱気な声が胸の奥で揺れた瞬間。

「赤葦くん」

 その声が、背中から静かに落ちてきた。

 振り返ると、佑月さんがいた。

 春の風に髪を揺らしながら、あの日と同じ優しい目で立っていた。

「……佑月さん」

 名前を呼んだ瞬間、胸が熱くなる。

「迎えに来たよ」

 その言葉は、約束の続きだった。あの合宿の夜で交わした言葉が、今、現実になっている。

「……本当に、来てくれた」
「当たり前でしょ。赤葦くんの卒業式、絶対に来るって言ったし」

 佑月さんは、少し照れたように笑った。その笑顔が、胸の奥にじんわり広がる。

「……待ってました」

 言うと、佑月さんの目が少し潤んだ。

「俺も……ずっと待ってたよ」

 その声が、春の風よりも温かかった。そして佑月さんは、ゆっくりとポケットに手を入れた。

「赤葦くん。今日、伝えたいこと覚えてる?」

 胸が跳ねる。息が止まりそうになる。

「赤葦くんが好き。ずっと……ずっと、好きだった。俺と付き合ってください」

 その言葉は、あの夜の約束の“答え”だった。胸の奥が甘く締めつけられる

「……俺も、ずっと好きです…っ、」

 そう言うと、佑月さんは、泣きそうな顔で笑った。

 その笑顔が、春の光に溶けていく。

(ああ……来てくれた)

 その事実だけで胸が満たされていく。でも、佑月さんはそこで終わらなかった。

「……赤葦くん。もうひとつ」

 そう言って、ポケットから小さな箱を取り出した。見覚えのある、あの箱。胸が一気に熱くなる。

「これ、卒業したら渡すって言ったもの」

 箱を開けると、細いシルバーのリングが光を返した。

「……赤葦くんのだよ」

 声が震えた。

「……佑月さん」
「どこの指がいい?」

 あの日と同じ問い。でも、意味はまったく違う。俺は、迷わず小指を差し出した。

「……佑月さんと同じが、いいです」

 佑月さんの目が、優しく細められる。佑月さんの指が、俺の小指にそっと触れる。
 金属が肌に触れた瞬間、指先が震えた。リングがぴたりと収まる。春の光が反射して、小さな光が灯った。

それはただの指輪じゃない。
約束でも、所有でもない。

 "これからを一緒に歩きたい”という、静かで確かな想いの形。

 佑月さんが、少し照れたように笑って言った。

「……似合ってるよ、京治」

 名前を呼ばれた瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。

指輪が光る。
春の風が吹く。
世界が少しだけ柔らかく見える。

 気づけば、自分の手が勝手に動いていた。佑月さんのコートの袖を、そっとつまむように指先で触れていた。

「……赤葦くん?」

 驚いたように名前を呼ばれる。でも、手は離れなかった。触れたのはほんの少し。袖の布を指でつまんだだけ。それなのに、胸の奥が甘く締めつけられる。

「さっきみたいに名前で、呼んでください」
「…京治」
「……っ、すみません。でも……離したくなくて」

 自分でも驚くほど素直な言葉がこぼれた。佑月さんは、目を見開いて、それからゆっくり笑った。

「……京治が触れてくれるの、嬉しい。俺も触りたくなる」

 その声が、指輪よりも深く胸に落ちていく。袖をつまんでいた指先を、佑月さんがそっと包むように握った。

「キスしてもいい?」

 手のひらが触れた瞬間、息が止まりそうになる。

「待たせてごめんね、大好きだよ」

 一瞬重なった唇と、その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなった。

「……っ、」

 気づけば、自分の方から佑月さんの胸元に手を伸ばしていた。制服の襟を、そっと掴む。

 引き寄せるつもりなんてなかった。ただ、触れていたかった。

「……離れたくないです」

 自分でも驚くほど素直な声が出た。佑月さんは、目を細めて笑った。

「離れないよ。京治が掴んでくれてる限り、どこにも行かない」

 その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。春の風が吹き抜ける。体育館の裏は静かで、世界にふたりだけが残されたみたいだった。

 佑月さんが、俺の小指の指輪にそっと触れる。

「……やっと渡せた」

 その声は、ずっと大切にしまっていた想いがようやく形になったような響きだった。

「これから先、京治がどんな未来を選んでもいい。でも……その未来に、俺もいたい」

 胸が締めつけられるほど嬉しくて、言葉が出なかった。

 代わりに、佑月さんの胸元を掴んでいた手を、そっと彼の手の上に重ねた。

「……いますよ。俺の未来に、佑月さんは」

 その瞬間、佑月さんが息を呑んだ。

 そして、ゆっくりと額を寄せてくる。触れたのはほんの一瞬。でも、その温度だけで胸がいっぱいになる。

「……京治。卒業、おめでとう」
「……ありがとうございます」

指輪が光る。
手が触れる。
春の風がふたりを包む。
そのすべてが、"ここから始まる”という合図みたいだった。

そしてふたりは、指を絡めたまま歩き出した。未来へ向かって。同じ光の中へ。