この世界は不安定。


うちほどじゃないけど一般家庭では有り得ないお屋敷レベルのお家は品があってなんかいい匂いもした
前世覚えてなかったら一般家庭はこれぐらいかーとか思っちゃう金持ちのガキに成り果てるところだった
幼稚園に通わせるの大事かもしれない、真剣に。


「あらぁ〜可愛いお友達が沢山だこと!」

「!!…ぁ、こんにちは…」

「「こんにちはー!」」


居間に通されて先ず目に入ったのが工藤新一の母親である工藤有希子だった。内巻きのロングヘアーを一つに縛って薄いクリーム色のエプロンをかけている新妻にしか見えない元女優さんだ。
え、いくつ?いくつでその美貌?と思わずガン見してると有希子さんは私達に目線を合わせてしゃがんで挨拶をしてくれた
母親に見えない。見えないよ。
え、もう少し大きくなったら美のコツ絶対聞く…


「はい、こんにちは!蘭ちゃんに確か園子ちゃんだったわね?…真ん中のお嬢ちゃんはなんてお名前なの?」

「えっと…すず、鈴木夢子です…あの、おねえさんは…?」

「!!! やぁ〜ん夢子ちゃん可愛い〜!お上手なんだからぁ〜!ふふっ有希子です、新ちゃんのママよ?」


この人をオバサマと呼ぶのも失礼だなとお姉さん呼びをしてみるとパァァっと花が咲いた様に満面の笑みになって私のもちもち子供ほっぺを両手で撫でくりまわした。子供特有のもちもちさは今だけだよね、と納得しつつなんか凄いいい匂いが有希子さんからして顔がニヤける。
だが背後からいやオバサンだろ?とボソリと新一くんが呟くのが聞こえた。
その瞬間私の頬を包んでいた掌が離れて笑みを浮かべたままスクリと立ち上がると有希子さんは後ろにいた新一くんの頭をがしりと掴んだ。
あーあ、と内心新一くんの無神経さに呆れて見守ってしまう


「新ちゃん…?ママになんて口の利き方するの…?」

「いった!!痛いって!!ごめんなさい!!」


クスクスと二人のやりとりに蘭ちゃん達と笑っているとお仕置きは終わり!と有希子さんが立ち上がり此方に笑いかけながらお菓子持ってくるからここで遊んでてね〜とキッチンへと入っていった
いてて、と頭を抑えた新一くんがまぁ座れよ、と居間にあるソファーに腰をかける
家の前からずっと繋がれたお手手のせいか新一くんが座るソファーの対面に3人で並んで座った
足をプランとさせながら辺りを見渡す。
ひぇーお高そう。
鈴木家ではなく前世の峽家の実家と比べてしまうのは仕方が無い。
そんな私をじっと見ると対面に座る新一くんが声をかけてきた


「夢子。」

「へっ…?」

「夢子って呼んでいいか?お前いくつ?」

「さん、さい。 新一くん、てよんでもいい?」


2つ下だったか、と呟くと新一くんは私の問に対してもいいぜ、と頷いてくれた
いやこれでダメだぜ言われたら泣いてたと思うけども。なんて呼べばいいのよ、と。
脳内で勝手に呼んじゃってるので今の内に許可を取っておくか、と左手をまだ握ってニコニコしながら私を見つめて来る蘭ちゃんに向き直って「蘭ちゃん、で…いい?」と聞くとパァァっと満面の笑みを咲かせてうん!!いいよ!!と何度も頷き返してくれた
可愛いかよ、直視できないよ天使すぎて…

有希子さんがちょっとお高そうなお菓子とジュースを4つ運んできてすっかり両サイドの女の子達は夢中になっていた
新一くんはジュースを飲みながら満面の笑みの蘭ちゃんを盗み見てるし、そんな新一くんをニコニコと有希子さんが見つめている、のを私が見ている。
そうか、この頃から新一くんは蘭ちゃんが好きなのか。
このクッキー、バターたっぷり使ってるやつだ美味しい…とじっくり味わってると思い出したかのように有希子さんが声をあげた


「あっ いけない!優ちゃんが帰ってきちゃう前に晩御飯の仕度しないと!」


いけないいけない、とまたキッチンへと向かった有希子さんを見ながら「…ゆうちゃん?」と呟くと新一くんが「俺の父さん。優作ってんだ。今は仕事で外に打ち合わせいってんだよ」とわざわざ説明してくれた。
工藤優作。確か小説家で闇の男爵シリーズ?とかの推理小説を書いてる有名人だよな、と脳内で朧気な記憶を思い浮かべる。
あーこれ忘れない内に覚えてること書き留めた方がいいかも、と私は家に帰ってからやる事を決めた
誰かがもし読んでも創作に読める様に…でも詳細に…書けるだろうか、この3歳の身体で。とちょっと不安になりながら私はジュースをストローで最後までズズズッと啜って飲み干した



この世界は不安定。

(しかしこの頃の新一くんで良かった。コナン君だったら色々ボロが出て怪しまれてたな)

 

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