長い夜になりそうだね
久しぶりに見た彼女の姿に俺は泣きそうになった。いや、すでにもう泣いてしまっている。
「ナマエー!うわー!ごめんよごめんよー!俺と兄ちゃんがいながらナマエのことほっぽっちゃってー!」
「ふ、ふぇりし、あーのさん…!」
プロイセンの隣に立つ彼女はどこか気まずそうに視線を泳がせていたけれど、俺はそんなことどうだってよかった。ただ彼女ともう一度会えたことが嬉しくて、抱き締めずにはいられなかった。
相変わらず小さい体は俺の腕の中にすっぽりと収まって。それがなんだか無性に可愛く思えて。
今度はもう二度とどこかへ行ってしまわないようにと彼女が痛いというまでぎゅっと抱きしめた。後ろで泣きながら兄ちゃんに怒られたけど、今目の前にある存在を確かめたくて、それに安心したくて。
俺たちにつられるように泣きだした彼女はほんのちょっと俺の服をつまんでシワができるくらいに握っていた。この際シワができようが服が濡れようがなんだっていい。彼女がここにいるのなら。
「全く。本当に心配したんだからな!まさか兄さんが連れてくるとは思わなかったが…」
「へっへーん。俺様役にたっただろ?」
「ええ。貴方にしては珍しく」
「じじぃ…それどういう意味だコラ」
「?、そのままの意味ですが…?」
えぐえぐと俺たちが感動の再会を果たしている後ろでみんなの声が聞こえる。ああもう本当に良かった。無事で良かった。安心した。兄ちゃんも情けない顔で泣いてるし俺も一番情けない顔をしてるだろうし。彼女もきっと、情けない顔してるんだと思った。
「ヴェー本当に無事でよかったよー!ね!兄ちゃん!」
「う…あ、あたりめーだこんちくしょう!」
「わ、私も、寂しかったです…!」
「こうなってしまったのは俺たちのせいだから…ナマエ!思いっきり俺たちをぶってくれていいよ!あ…でもできるだけ優しくね…?」
「い、痛くても俺は我慢するぞ!やっぱり痛いのは嫌だけど…」
彼女の前に二人で並んでぎゅ、と目をつぶってしばらく痛みを待つ。なかなか来ない痛みに恐る恐る目を開けようとしたとき、彼女の小さい手が俺の手にそっと触れた。引き寄せられるように彼女の手に包まれたときには、俺のじゃない、きっと兄ちゃんの手も一緒に収まっていた。
「ナマエ?」
「私、お二人に言ってないことがあるんです。お二人だけじゃない。ルートさんや菊さんにも、聞いてもらいたいことがあります」
てっきりビンタが飛んでくるものだと思っていたのに、彼女はとても柔らかく笑った。それにまた泣きそうになったけど、今は泣いてる場合なんかじゃないよね。空いてるほうの腕で残りの涙を全部拭いて、今度は俺の番。
「うん。俺も。ナマエに聞いてもらいたいことがあるよ」
「!、おい、フェリシアーノ…!」
「兄ちゃんも、そう思うでしょ?」
「…、そうだな…話さなきゃなんねーことは、いっぱいあるな…」
お互い様だと言い聞かせて秘密にしてきたこと。彼女が必死に隠してきたこと。今こうしてようやく向き合おうとしてくれている彼女の気持ちを無駄にしないためにも、俺も兄ちゃんもどんなことも受け入れられるようにと笑った。
その全てに驚くかもしれない。彼女への見方が変わるかもしれない。微妙な距離が生まれるかもしれない。俺たちが国の化身であることを彼女に教えることで、彼女の隠していた秘密を聞くことで、どういうふうに転ぶかはわからないけれど。なんでかな…きっと大丈夫な気がしたんだ。
そのためにもまずはご飯を食べよう!と俺が声をあげれば、一番にパスタが食べたいです!と彼女が言った。兄ちゃんに向かってトマト料理も食べたい!とリクエストをする彼女に、俺たちは顔を見合わせて笑って。
「「È un comando!」」
いくら料理が美味しくても、それを美味しいと喜んでくれる人がいなければ始まらない。今日はルートもいて菊もいて、ギルもいて。何より彼女がここにいる。
あんなにも心から願ったことがこんなにもすぐに叶うなんて。それならもっと早く願っておけばよかったと少しだけ後悔したけれど、兄ちゃんに行くぞ、と腕を引っ張られてからはそんな考えは飛んでいった。
あの日、彼女が偶然にも俺たちの家へ来たことを、必然だったんだと思えるようになれたらいいな。包丁とトマトを持ったままの出会いなんて、きっとこの先ずーっと生きててもこの一回きりなんだと俺は自信を持って言えるよ。
「ヴェー、今日のパスタは最高の出来だよ〜!」
「俺のピッツァも最高の出来だぜ!」
ああ、いつも以上に今日は長い夜になりそうだね。
----- La fine -----
閉鎖ということもあり、一応ここで終わりとさせていただきます。まだまだもっと出したいキャラや絡ませたいキャラ、書きたい話がありましたが…残念です。この話を楽しみに読みにきてくださっていた皆様や応援してくださったお気持ちに最後まで答えられず、こんな終わりで本当に申し訳ないです。不完全ですがこれにて完結とさせていただきます。ここまでのご愛読本当にありがとうございました。
補足:ちなみにマカロニ兄弟が二人で言っていた言葉はÈ un comando→仰せのままにという意味でした。うーん最後の最後でようやくヒロイン扱いですね。まったくこのやろう!
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