30

 美雪が壁に書かれた音符を見たのは昼間のこと。
 マジックペンで書かれている音符を見ながら、彼女は油性で書かれたものなのか水性で書かれたものなのか頭の中で考える。もし油性であれば落とすのに苦労するだろう。そもそも壁は落書きをしても良いのだろうかと思ったところで、美雪はその音符がどこまで続いているのか確認しようとするが、肉眼で見えるぎりぎりのところまで途切れない。

 歩きながら壁に書かれたメロディを口ずさんだ。ゆっくりゆっくり足を交互に踏み出して進んで行く。曲がり角で途切れたと思った音符は、かくんと折れた先にまだ続いていた。

 窓から差し込む光はあたたかい。十一月の下旬になり、秋から冬へと移り変わりつつある今日、この日差しは有難いものだった。日光に照らされた氷室美雪はまさに女神だと、斎宮宗は言う。

 音符が消えると共に、美雪は歩みを止めた。視線を落とすと、マジックペンを持った月永レオが茫然と彼女を見上げている。

「……乾いてしまいますよ、ペン」

 キャップをせずにそのままにしておいては、乾いて使えなくなってしまう。美雪に指摘されたレオはハッとして、眉間に皺を寄せた。

「勝手に歌うなよ」
「……すみません」
「下手くそ」
「……音程は取れてました」
「下手」
「……そう感じさせてしまったのなら、すみません」

 レオはぷいっと顔を背け、音符を続けていった。美雪はその後ろ姿をじっと眺める。

「……それ、油性ですか?」
「さぁ」
「……壁は、書いちゃ、駄目な気がします」
「いいんだよ、別に」
「……いいんですか」
「五線紙がないんだから仕方ないだろ」
「……あげましょうか?」
「お前からは貰わんっ」

 先日の対決で負けたのが気に食わないのか、レオは美雪の言うことに次々反発し、彼女を見ることなくペンを動かしていた。敗北したレオは気持ちよく舞台に上がり、二人は和解したかのように思われていたが。

 美雪はペンケースからサインペンを取り出すと、レオの書いた音符に新たな音を付け足し始めた。それに気づいたレオはぎょっとして美雪に吠える。

「おいッ! 勝手に編曲するなよ!」
「……こうした方が良いと思いました」
「良いんだよ、そこは敢えてそうしてるんだ!」
「……でも、ちょっと、しっくり来ません」
「うるさい! お前のための歌じゃない! あと壁に落書きしちゃ駄目なんだぞ!」
「…………ここ、Cis(ツィス)の方が」
「うるせーーーーーーー!」
「五月蠅いのは貴様だ、月永」

 美雪と同じように壁に書かれた音符の流れを見つけた敬人は「またアイツか」と青筋を立てながら競歩で此処まで辿り着いた。絶叫するレオの脳天に拳骨を落として黙らせる。ため息を吐いた敬人は美雪がサインペンを持っているのに気づき、彼女の前の壁にレオの筆跡とは異なる細い音符が書いてあるのを見て眩暈がした。

「氷室……まさか、貴様まで壁に……」
「……月永先輩が『いいんだよ』って」
「あ、お前チクんなよ! ってかおれは『壁に落書きしちゃ駄目』って言っただろ⁉」
「……自分は良くて他の人には駄目なの、良くないです」
「はぁ〜っ? お前は赤ちゃんかよ! そんくらい自分で判断しろ!」
「氷室は善悪が良く分かっていない子なんだ。だから月永、今回は全面的にお前が悪い」
「なんで!」
「お前は先輩なんだから後輩の前では手本とならなければ。悪いことをしたら氷室は真似してしまうぞ」
「めんどくせーーーーーーーーーー!」

 敬人は二人に正座をさせるとくどくどと長いお説教を始める。学校は皆で使っているものなのだから云々かんぬん、よく考えてみれば壁に書いていいなどとは思わな云々かんぬん。

 正座で足が窮屈になってきたレオはあっという間に崩して敬人の説教を右から左に流していた。美雪はちらりとレオを見て自分も足を崩す。

「ほら見ろ月永。氷室が真似をしてしまった」
「全部おれのせいかよ!」

 敬人もつい先日、美雪の前で栄養補助ゼリーを飲んでしまい泉から叱られたばかりだった。自分の反省を活かして忠告しているのか、棚に上げているのか。
 美雪はしゅん、として敬人を見上げる。

「……ごめんなさい、蓮巳先輩。足、痛いです」
「そうか、なら楽にすると良い」
「なんでコイツには優しいんだよ! 贔屓だ贔屓! 差別だ差別! 男尊女卑ならぬ女尊男卑!」

 レオは隣でふぅ、と息をついている美雪を指さしてギャンギャン喚いた。腕を組んだ敬人が「人を指でさすな」と言う。

「氷室はちゃんと『ごめんなさい』もしたし、『足を崩したい』と言ったからな。お前は言ってないから駄目だ、正座をしろ」
「うぎゃぁあああああああああああ!」
「発狂しても駄目なものは駄目だ」

 レオは足をブンッと振り上げて逆立ちをしたかと思えばそのままチョコチョコと不気味に進んで行く。大した身体能力だ。敬人は目を吊り上げて「逃げるな月永!」と気味の悪い競歩で追いかけていく。

 残された美雪は動いて良いものか、敬人が戻ってくるのを待つべきなのか悩み、廊下に座ったままだ。ぽーっと窓の外を見たかと思えば、壁の音符を眺める。

「……えっと、美雪さん? 何をしているんだあ?」
「……三毛縞先輩、御機嫌よう」
「ああ、御機嫌よう!」

 廊下にちょこんと座っている美雪に驚いた斑が声を掛ける。彼は丁度美雪を探している最中だった。

「廊下で座っていたら足腰が冷えてしまうぞお? あ、これはセクハラではなく純粋な心配だ。どうしてこのような状況に? 眠くなってしまったのかあ?」
「……蓮巳先輩に怒られてました」
「むむ? 美雪さんのようないい子が怒られたのか、どんな理由でだ?」
「……壁を楽譜にしました」
「……ああ、レオさんの真似をしたのか」

 横の壁にペンの跡があるのに気づいた斑は苦笑いだ。「あーあー、また油性で書いて……」と呆れた母親のように言うと、美雪を持ち上げる。突然肩に担がれた美雪は目を丸くして高くなった視界に戸惑うも順応し、されるがままになった。揺れるスカートを視界の端に収めながら、斑はズンズン進んで行く。

「しかし、美雪さんは軽すぎるなあ? もう少し肉をつけた方が……ああ、これもセクハラではなくてだな?」
「……私の食べられるものが、この世に少ないのが、悪いと思います」
「おっと、責任転嫁ができるようになったんだな。関心感心♪」

 言い訳がましい台詞だが、これも美雪の成長だと斑はにこやかに返す。斑に担がれた美雪は床の遠さを実感しながら後ろに向かって尋ねる。

「……どこに行くんですか?」
「ん〜? この間、俺抜きでクラスの皆とお弁当を一緒に食べたと聞いてな? 俺も一緒に食べたいと思い、拉致している!」
「……もうお昼食べました」
「ほう。何を?」
「……ゼリー」
「それはお昼じゃないな!」
「……ただのゼリーではありません。栄養補助ゼリーです」
「うん。変わらんぞ」

 美雪はしっかり敬人の真似をしていた。
 三年A組の教室に辿り着いた斑は爽快に扉を開けて中に入った。昼食を取っていた生徒たちが次々に「人攫い!」「誘拐!」と言う。泉と薫だ。斑は前回のお昼に同じく呼ばれなかったよしみで、わざわざ「今日は美雪さんと教室でお昼を食べるつもりだ!」と宗に伝えていた。おかげで教室内で待機していた宗は目を剥いて「貴様ぁああああ!」と今にも斑に掴みかかりそうになっている。

 斑は痛くも痒くもないといった様子で笑って美雪を下ろす。すかさず宗が駆け寄って乱れた制服や髪を整えた。

「今日は俺が美雪さんにご飯を食べさせてあげるぞお!」
「はあ? ずるいんだけど」
「泉さんはこの間やっていただろう。俺を除け者にして」
「あんときアンタは普通に用事があっただけでしょ〜?」

 悪者扱いは心外だ、と泉が呆れながら言う。斑は鼻歌を歌いながら机をセットし、美雪に座るよう促した。美雪に何かあってはいけない、と宗がシュバッと机をくっつけた。自分のことをいつも図体がデカいと言って近寄ってこない宗が間近に来て、斑は目をぱちくりさせる。その間に泉と薫、千秋、英智も机を寄せてきていた。敬人は現在レオを競歩で追いかけている最中だ。

「ほぅら美雪さぁん! ママが用意したお弁当だぞお!」

 どどん、と斑が小さくて可愛い女児用のお弁当を取り出した。男子高校生であればペロリと食べ切れてしまうくらいのサイズだが、美雪はぷいっと顔を背ける。

「……こんなに食べられません、お腹いっぱいです」
「栄養補助ゼリーだけでお腹いっぱいにはなりません! 胃袋を拡げましょう!」
「は? 栄養補助ゼリー? こら、美雪。蓮巳の真似しちゃ駄目でしょ」

 泉が目を吊り上げた。美雪はしょんぼりしていじけた子どものように言う。

「……だって、あのゼリーは効率が良いです」
「駄目駄目! ああいうゼリーだけを摂取していると栄養失調で倒れるぞ!」
「……その分たくさん寝てますから」
「うーん、たぶん美雪さんの場合、『食べないから寝る』という体になっているだけだと思うぞお? たくさん食べれば、たくさん動ける。それだけ美雪さんが色んなことを体験できる時間が増えるということだ。どうだ? 頑張ってみないか?」

 斑の作って来たお弁当の中には小さい子どもの好きそうなおかずが入っていて、今でもお子様ランチが好きな千秋が「おおっ!」と声をあげた。

「……お肉は硬いから嫌です」
「むむ。今日の美雪さんは我が侭だなあ? 自我が出てきたのは大いに結構!」
「美雪ちゃん、割とご飯に関しては文句言うよね……」
「では食べられそうなものから食べよう!」

 三年生が身を乗り出して美雪の食育に当たっていた。美雪はきゅっと眉を顰めて宗をちらりと見る。目線で助けを求められた宗は「うぐっ」と言葉に詰まった。

「氷室が、僕に助けを……っ、だがこれは、君の為なんだ! 救うことのできない僕を許してくれ!」
「ちょっと美雪。今、自分の言うこと聞いてくれそうなヤツの顔見たでしょ。女は小さいときから父親を誑かす女優だって言うけど、マジだね〜?」
「……瀬名先輩、私のこと嫌いですか?」
「そ、そんなわけないでしょ〜⁉ 美雪のために怒ってるんだからね! みんな心を鬼にしてるの!」
「……私はこの食生活で生きていますし、長生きもできないから良いんです」
「美人薄命とは言うが、そこまで人生を悲観しなくてもいいんじゃないかあ? ほらほら、お花の形の人参さんだぞお♪」

 斑は──女児用のお弁当箱に合わせたのか──先の丸いフォークに型抜きした人参を刺して美雪の口元にグイグイ運んだ。

 そこに突然レオが教室に飛び込んでくる。敬人に追いかけ回され、いつまでも自分を追う彼の意表を突こうと彼自身の教室に訪れたのだった。

「あ、ママだ〜!」
「おお、レオさん!」
「お弁当作ったのかっ? 名波なんかに食べさせてないでおれに食べさせて〜!」

 斑がフォークを向けている相手が美雪であることに気づくと、その間に割って入るようにしてレオが駆け寄り、ちょろちょろとかまってちゃんをする。斑は大きな口を開けて迫ってくるレオに人参が食べられないようフォークを高く持ち上げたり、躱したりする。

「ううむ? お腹が空いているのかあ? だがこれは美雪さんのために作ったもので……」
「……どうぞ。私の代わりに食べてください、要らないので」

 これ幸いにと食事をとりたくない美雪がレオに食べるよう言う。

「酷い! 酷いぞ美雪さん! ママは美雪さんをそんな子に育てた覚えはありません!」
「……私は母親にも三毛縞先輩にも育てられた覚えはありません」
「食べて良いなら食うぞ〜! ママ〜、食べさせて〜♪ こんなブスにママの愛情たっぷりのお弁当食べさせるなんて勿体ない!」
「待て。月永、今なんと言った?」

 レオの罵声を聞き逃さなかった宗が目を吊り上げる。斑のフォークから人参を奪ってもぐもぐと口を動かすレオが「んえ?」と間抜けな声をあげた。

「なんだ、今日はシュウもいるのか。珍しいな。このクラスに一番馴染めてないのお前なのに」
「僕の質問に答えたまえよ。今、氷室に何と言ったのかと聞いているのだよ」
「え〜? 氷室って誰?」
「……私ですね」

 斑からフォークを取り上げたレオが丸い先を突き付ける。

「お前名前二個使うなよ。覚えられないだろ〜?」
「……貴方もいくつも使っていませんか?」

 レオの言うことはいつも矛盾しているように感じる美雪はじっと彼を観察する。ひょいぱく、ひょいぱくと次々に斑の弁当を平らげている。リスのように頬を膨らませ、口の中にまだ食べ物が入っている状態で話し始める。

「おれは気分で変えてるだけだし〜。お前は意図的に変えてるだろ?」
「……諸事情で、変えなければいけないので」
「ふぅん、なんでもいいや。名波で良いんだろ? それで通じるもんな?」
「……ええ、それで構いませんよ。名前は記号ですから」

 無表情の美雪をじいっと見つめたレオは鼻で笑う。

「お前、今日もブスだなぁ〜?」
「だからそれだよ、それ! 氷室に向かってブスだとぉっ⁉」
「事実だろ?」
「虚構だよ!」

 宗は机をバンッと叩いて立ち上がる。美雪の隣に膝をつくと、「良いかい?」とレオの意識を自分と美雪に向けさせる。

「よく見たまえ、この子の美しいご尊顔を。氷室、少し触れるよ。……まず、前髪を下ろしている状態の彼女の顔は白銀比と呼ばれる日本人が好む比率で形作られており、前髪をあげると──うわっはぁああ可愛い〜〜! 美しい〜〜〜!」
「うわ何、今の奇声」
「キモいからやめなよ」
「たぶん斎宮も瀬名には言われたくないと思うぞ!」

 手を差し込んで美雪の前髪をあげた宗は晒された彼女の可愛いおでこに興奮を隠し切れない様子だ。自分でやっておいて自分で騒いでいる。泉は机の下で千秋の腕を思いっきり抓った。

「こほん……前髪をあげるとだね? そう、言わずもがな黄金比なのだよ。目から鼻の距離、それから顔の横と縦の幅なんか、もう、最高ではないか。氷室は神によって生まれた、この宇宙の生み出した奇跡なのだよ」
「ふーん」
「なんだその薄っぺらい反応は! 僕がここまで懇切丁寧に解説してやっていると言うのに……! 君だって黄金比くらいわかるだろう、共にダ・ヴィンチの絵画について語らったこともあったはずだがね⁉」
「いやまあダ・ヴィンチは確かにあの時代で黄金比をやってのけた天才ではあるけどさぁ、別におれは名波を見ても『うわぁ〜黄金比だぁ〜』とはならないし」
「嘘だろうッ⁉」

 同じ芸術家として語らった回数が少なくはないレオと宗だったが、レオの「お前の言ってることはわからん」と言いたげな台詞に宗は目を剥いた。宗は葵双子を見分ける際に髪の長さのミリ単位の違いを用いていたくらいに目が鍛えられている。顔の比率を計算することくらいお茶の子さいさいだった。

「いや、大半がそうだからね、斎宮くん。僕も今解説されて『そうなんだ〜』って思ったよ」
「君には解説していない。勝手に聞き耳を立てるな、天祥院」
「じゃあここで話すのやめたらどうかな? 誰が聞いているかもわからないしね」

 宗にあげられた前髪をちょいちょいと指先で突きながら直した美雪はレオに向かって口を開く。

「……月永先輩、可愛いって言ったり、ブスって言ったりするので、混乱します」
「おれ、お前のこと『可愛い』なんて言ってない!」
「……言ってました」
「うん、言ってたね」

 この間のナイトキラーズとFata Morganaの戦いにおける、舞台袖での発言だ。英智は勿論、紅郎もなずなも聞いていた。レオはぎょっとして髪の毛を逆立てている。

「え、皇帝の前で……⁉ おれ言った⁉」
「うん。『可愛い可愛い』って言いながら手を引いて舞台に上がろうとしていたじゃないか」
「し、してない! してないもん! してたんだとしたら、あのときのおれは可笑しかった! 洗脳されてたんだ! や、やーい、ブースブース!」
「小学生か。恥ずかしいからやめなって」

 好きな子の前で素直になれない小学生男子じゃあるまいし、と泉はレオの首根っこを掴んで引き留めた。レオは「ぐえっ」と鳴き声をあげたが、ひるまずに罵声を繰り出す。

「お前がいくら可愛くたってなあ! あ、いや別に可愛くはないけどっ、可愛いって言われてるとしても! どんなに美人でも脇は臭いんだからな! 楊貴妃もワキガだったって言うし!」
「それ、美雪ちゃんのこと世界三大美人に並ぶって言っているようなものだけど」
「違う、違うっ、違うからな! がるるるるっ!」

 揚げ足を取ろうとする英智にレオは威嚇する。

「まったく。くだらないことを言う……氷室の腋はとても甘いよ、舐めてみたらわかる」

 ギャンギャンと騒いでいたレオが押し黙った。美雪も真隣にいる宗を見つめる。泉も薫も千秋も英智も斑も、宗のとんでもない発言に言葉を失った。宗は自分を見つめてくる美雪が不安に思っていると察知し、「フルーティーだったよ、桃味だった」と更に爆弾を投下する。本人は至って善意で、フォローをしているつもりなのが質が悪い。

「……舐め、たんですか? い、いつ?」
「? 君が寝ている間にね。テイスティングしてみたくなったんだ」
「…………」
「……うん、あのね、俺にもわかる。斎宮くん、今美雪ちゃんにドン引きされてるよ?」

 美雪はススス、と自分の腕を押さえて腋を庇った。その様子を見ていた薫が宗に忠告するが、宗は首を傾げる。

「え? な、何故だ?」
「無自覚! ヤバいよ、斎宮くん。マジでヤバい。マジの変態」
「僕は『マジ』や『ヤバい』という単語はあまり好きではない」
「今そういう話してない!」
「氷室、危ないから俺の後ろに隠れていろ。怪人から乙女を守るのも、ヒーローの役目だ」
「誰が怪人だ」

 千秋が美雪と宗の距離を離し、背に庇った。流石のレオも宗がそこまでの奇行に走っているとは思わず、泉に首根っこを掴まれたまま茫然としていた。宗が自分と美雪を引き離す千秋を追い詰めようとするせいで、机の周りをぐるぐるとしている状態。レオは千秋の背中に隠れる美雪が近くに来たタイミングで、

「な、なんか……悪いな。シュウがここまでキモいの、久々に見たかも……」

と耳打ちをした。
 千秋と宗の鬼ごっこが開催される中、ガチャと三年A組の扉が開かれ、外からくたびれた様子の敬人が現れた。

「はぁ……」
「あれ、敬人。お帰り」
「あぁ……って、月永⁉ 此処にいたのか、貴様!」
「げっ」

 逃げようにも泉に捕まっているレオは迫りくる敬人から距離を取ることができず、再び拳骨を喰らうことになった。そこら辺でグルグルしている千秋と宗も捕まり、教室に正座させられることになる。美雪も隣に並び、長い説教を聞くことになった。

prev

next