ジグルフが迎えに来たというのに、ヴァレリーは更に酒を頼んでぐびぐびと飲み干し、周りの男たちとどんちゃん騒ぎをし始めた。小さなグラスを1個持ってしばらくは許してやっていたジグルフだったが、さすがに我慢の限界である。
「いい加減にしろ。ヴァレリー!」
 ジグルフはわいわいと楽しそうに談笑していたヴァレリーの腕を掴み、店の隅っこまでグイグイと引っ張った。
「なんです、ジグルフ。そんなにぷんぷんして……」
「もう2時! いい加減に眠い!」
「おこちゃまですねえ。夜はこれからですよ?」
「クソが……」
 随分と出来上がっている。
 ニコニコと機嫌のいいヴァレリーに、わかりやすくジグルフは眉をひそめた。
「そんな顔したら美人が台無しです」
「そんな顔させてんのはお前だよ」
「いてて」
 ジグルフはヴァレリーの頬をつまんで引っ張った。
「とにかく今日は帰る。もう眠たいんだって」
「もー。おこちゃまなんですから」
「おこちゃまおこちゃまって……。俺がヴァレリーより年下なのに大人びてるからコンプレックスなんでしょ」
「……」
「図星」
「……。あのねですねぇ」
「帰ろう。ヴァレリー」
 ジグルフはヴァレリーの腕を掴んでいたのを離して、指を絡めて手を繋いだ。
「手、大きいね」
「……ジグルフは、華奢ですね」
「そう?」
「……。そうですよ」
 態度がでかいからあまり感じていなかったが、改めて見直すと、ジグルフという男は線が細くて繊細に見えた。
 すらっとした手足。細い首。同じ男なのに、なんだか彼は、異様に綺麗だ。綺麗で、儚い。いつか消えてしまいそう。
「……ジグルフ」
 小さく呼んだ声は人々の賑やかな声にかき消されてしまった。
 周りの人達をかき分けて店主の元へと向かい、勘定を済ませ、店を出た。ジグルフはすうと深呼吸する。やっぱり、あんな二酸化炭素で充満した雑踏なんかより外の空気は肺に優しい。
「ジグルフは同じ男なのに。指も細くて、顔も綺麗ですよね」
「ふ。なにそれ」
「俺なんか手がゴツゴツしてて、体もがっしりしてるし……」
「そういう人の方が男らしくてモテるよ」
「どうでしょう。世間はジグルフみたいなのをアイドルだとか、イケメンだとかいうんですよ」
 ヴァレリーのそれは酔っぱらいの戯言だろう。ジグルフは呆れたように笑ってみせ、話に付き合う。
 人々の熱がない外は少しひんやりとしている。時間が時間だ。酒場以外は当然店を閉めていて、ぽつぽつとたつ街灯の他、月の光が足元を照らす。
「いいですよねえ。ジグルフは指が細くて、手が綺麗で」
「俺の手は人殺しの手。ヴァレリーの手は努力の手だ」
「……はい?」
「俺のはたくさん人を殺したから綺麗なんかじゃないよ。でもヴァレリーのは、ちょっと固くなった皮膚なんかは日頃の荷物運びの成果でしょ。俺なんかよりよっぽど素敵だ」
「……」
「好きだよ。俺は」
 ジグルフはヴァレリーの手を引き寄せ軽く唇を当て、穏やかに笑った。
 ――好きだよ。俺は。
 どうしてそんなに優しく、どこか悲しそうに言うのだろう。ヴァレリーの目の前にいるのに、ジグルフは本当に今にも消えてしまいそうで――ヴァレリーは一瞬息の仕方を忘れた。
「歩ける?」
「……。……歩けます」
 ヴァレリーは繋いでいる手をぎゅっと握る。先導するように歩くジグルフは、ヴァレリーを振り返っては来なかったけれど、ぎゅうと同じように握り返してきた。
「……、……」
 掴まれたのは手だったのに、なんだか胸がぎゅうと苦しくなった。

 ハリネズミはジグルフが宿を出る前から眠っていたらしく、今夜はテーブルに置かれた柔らかいタオルの上を寝床としていた。くぷくぷと寝息を立てる呑気な彼に小さく笑みし、ヴァレリーは冷蔵庫から水を取り出す。
「俺、もう眠いから寝るね。電気消していい?」
「はい。俺のベッドのとこのランプだけ、付けててください。寝る時に俺が消します」
「わかった」
「迎えに来てくれてありがとうございました」
「時間になっても帰らないからね。事故にでも巻き込まれてたら困るし」
「心配しました?」
「そうだよ」
 からかってやるつもりがジグルフは素直に返答するのでヴァレリーの方が面食らう。
「じゃあ。おやすみ、ヴァレリー」
「……。おやすみなさい」
 ぱちんと電気が消されて、部屋の中は小さなランプひとつの光があるだけなので随分と暗くなった。目が慣れれば、ゆっくり動くことなら大丈夫そうだ。
 ジグルフは本当に眠たかったようで自分のベッドに横になってすぐ、すーすーと穏やかな寝息を立て始めた。
 この部屋で起きているのはヴァレリーだけになった。とりあえず水をグラスに移してゆっくり飲む。こくこくと喉がなる。
 ――手、大きいね。
 ――俺なんかよりよっぽど素敵だ。
 ――好きだよ。俺は。
「……っ」
 ヴァレリーは壁に背を預けてずるずると崩れ落ちた。
 ジグルフはどういうつもりでヴァレリーにあんな言葉をかけたのだろう。いや、意味なんてなくていつもの様にからかってきていただけか。――そう思いたいのに記憶の中のジグルフはやけに穏やかな表情をしていたし、それを嬉しいと思っている自分がいる。
「……っ。どうして……」
 ヴァレリーはグッと胸を押さえた。
 自分のことなのにわからない。ジグルフに向けているこの感情がなんなのか。
 憎い。
 愛おしい。
 恨めしい。
 失いたくない。
 そばに、
 ――それっていつか死ぬんですか?
 ――死ぬだろうね。風船だもん。
 そばに。いてほしい。
 死を、簡単に受け入れないで。生きたいと願ってほしい。
 ――これだからムーンキーパーは嫌いなんだ。
 食い破った白い肌。赤い血。
「……、……」
 ヴァレリーは徐に顔を上げ、ゆらりと不安定に立ち上がった。
 布団を口元までかぶっているジグルフは丸くなって横向きに眠っているらしかった。ヴァレリーが彼から布団をはぐるとほんの少し眉を寄せ、うぅ、と小さな声を上げて寝返りを打った。仰向けだ。
 ヴァレリーはちょうどよく仰向けになったジグルフに覆い被さった。服をたくし上げ白い肌を露わにする。古傷は変わらずところどころに残っていて、けれど痣の増えた様子はない。ヴァレリーはお腹の辺りから唇を寄せて軽く肌を啄んでいき、胸、鎖骨、それから自分が牙を立てた首筋をなぞった。
「俺より先に、お前の首を噛んだやつがいるんですね。それも、牙をたてて」
 ヴァレリーは忌々しそうに、けれどどこか泣きそうな声で呟いた。
 ――これだからムーンキーパーは嫌いなんだ。そう言われた時にはなんだその種族批判はと笑った。ジグルフ本人だって深い意味を待って言った訳ではなかったのだろう。
 気づいてしまえばどこまでも気分が沈んでいく。その言葉は、明確に、過去ムーンキーパーの男に牙を立てられた経験を示していた。
「痕なんかないのに。それでも、ほかのやつに、……」
 胸が苦しい。想像すると喉の当たりがかあっと熱くなってくる。
 上下する胸。細い首。
 そうだ。殺してしまえば彼はもう誰の手に渡ることもないのか。
 細い首に両手をかける。どくどくと血管が脈打っているのが手のひらに伝わってくる。グッと手に力をこめた。
「……、っ……」
 ぴく。とジグルフの指先が跳ねる。
 閉じていた口はうっすらと開き空気を求めるように小さく動く。ヴァレリーは首に手をかけたまま、呼吸に喘ぐ口をそっと塞いだ。
「……っ、――、――……」
「ふ……は、……」
 舌を絡めるとたどたどしく応えてくる。好意的にしてくるというより、口の中に入ってきた異物に抵抗しているような反応だった。
 痙攣するように動いていた指先から力が抜ける。ヴァレリーはそれに気がついてジグルフの首から手を離した。
「! はっ、はあっ、けほっ、……んむっ……んーっ……」
 勢いよく息を吸い込んだ口をもう一度塞いでやる。さすがに目が覚めて苦しさを自覚しているのか、ジグルフは首を横に倒して逃げようとする。
 ヴァレリーはジグルフの顔を片手で掴むと逃げられないようにと頬を挟んで無理やり深く口づけた。
「んー、ぅ、うー……っ」
「は……」
 糸が引いてプツリと切れた。
 ぼんやりした灰白色は状況を理解できない様子でゆっくりと瞬きを繰り返している。
「死にそうになると興奮する質ですか? 変態」
「はっ、んん……。……」
 固くなっている局所を膝でぐりぐりと押してやるとわかりやすく体が跳ねた。
「……? ヴァレリー……?」
「はい」
「……」
 息苦しくて目が覚めたと言えど、まだ半分は夢の中であるようだった。どことなく呂律の回らない様子でヴァレリーを呼んだジグルフは、ヴァレリーの返事を聞いて、緩慢に瞬きをする。
「……、ヴァレリー……」
「……」
 文句の一つや二つ言ってくるかと思いきや、ヴァレリーの名前を二度読んだあとにはそう間を置かずに瞼をおろし、また緩やかに胸を上下させる。こんな状況でも目を閉じるなんて、酒場までヴァレリーを迎えに来たときからずっと訴えていた通りよほど眠たいのだろう。
「……。無防備」
 それでも普通、こんな状況で眠らないだろう。呆れなのか怒りなのかわからない感情が湧き上がってくる。
 部屋着のズボンを脱がせ、軽く足を持ち上げてから内股に噛み付いた。
「いっ、ぅ……」
「……」
 びくと身体を震わせ眉間に皺を寄せる様子は少し可哀想だったので牙を立てるのはやめてやった。それでも歯型はくっきりついて、白い肌は赤く腫れた。
「こんななりでもやっぱりちゃんと男の子なんですね」
「はっ、ふぅ……っ」
 下着に手を突っ込んで勃ちあがっているそれを軽く扱くと熱っぽい呼吸が聞こえてくる。
「ふ、はぁ、は、……なに? っ」
「起きました?」
「? はっ、あ、ぅ、うーっ……」
 ぐりぐりと先端を親指で押してやるとジグルフの体は面白いぐらいに跳ねた。
「いく、いきそっ、……」
「はやいですね? どうぞ」
「あ、はぁっ、……っ! 〜〜っ……」
 生暖かい精液はヴァレリーの手のひらを汚した。ふーふーと息を整えるジグルフを横目に、ヴァレリーは手についた精液をジグルフの腹の上に擦り付け伸ばす。
「結構出ましたよ。溜まってました?」
「はぁ……ヴァレリー、俺、眠い……」
「……寝ててもいいですよ。俺はやめませんけど。ほらなめて。自分で濡らしなさい」
 うっすら開いている口に無理やり二本指を押し込むとジグルフは苦しそうに唸る。しかしヴァレリーはそんなのお構い無しで、人差し指と中指でジグルフの舌を挟んで引っ張って遊んでみたり、ぐるぐると指を回して口腔で唾液をまぜたりした。
「はっ、ふぅ、ふーっ」
「はは。唾液すご。ベトベトですよ」
 下着の隙間から指を入れ後孔に唾液を擦り付ける。
「ちょっ、ヴァレリー……」
「おや。眠るんじゃなかったんです?」
「……なにすんの」
「俺が言わなくてもジグルフはわかるんじゃないですか?」
「そうじゃなくて、っひ、あっ、まって、まっ、んん、う」
「調教済みって感じの反応ですね?」
「! っ、っ……う、……ぅー……」
 指が無遠慮に肉壁を押しわけ内側を擦る。
 ヴァレリーの言葉を聞いてジグルフは手を上げヴァレリーを平手打ちしようとしたが、ビリビリと体に走る感覚にひゅっと喉を鳴らし、咄嗟に手の甲を噛み声を殺そうと必死だった。
「……」
「ひっ、っ!?」
 ヴァレリーは頓に指を引き抜いた。それからジグルフの腕を掴んで急に上体を起こさせたかと思うと、自分は膝立ちになり、ずりと怒張する自身のものをジグルフの顔に擦った。
「はい。舐めて」
「……っ、う」
「濡らさないと痛いのはジグルフでしょう? あ。歯ぁ立てたら殴りますよ」
「! う、ぅぅ……」
 ヴァレリーはジグルフの前髪を掴んで頬を軽く叩く。
「ジグルフ?」
「う、……で、でかい……」
「……。どうも?」
 頑なに唇を噛んでいるから嫌だと拒否を紡ぐかと思っていた。が、やっと出た言葉はヴァレリーのものへの感想で、これにはヴァレリーも少し拍子抜けした。
「え、えぐいって、こんな、ん、んー!」
 まだ続けている口にこれ幸いとヴァレリーは無理やりその巨根をねじ込んだ。
「はっ……口ちいさ……」
「ん、ぐっ、ぅうー」
「喉せっま」
「……! ……っ」
 口はいっぱいで喉まで咥えさせられては声も出ないのだろう。苦しいのかジグルフはボロボロと涙を零している。
 けれどヴァレリーはジグルフの前髪を掴んだまま、お構い無しに腰を軽く揺すった。
「……っ……」
「はぁ、はは、なんです? 目がとろんとしてきましたよ」
「……っ、――」
「苦しいのも好きなんですか? やっぱりお前変態ですね」
 酸欠だ。限界。気が飛びそうだ。
 そのタイミングをちょうど見計らったかのようにずるりとものが引き抜かれた。ジグルフは胸いっぱいに息を吸い込んで激しく咳き込んだ。
「ぉえっ、げほっ、はっ、はあっ……」
「こっちの目ってないんですか?」
「げほ、……」
 ヴァレリーの親指はジグルフの右目の下を撫でた。そっちはいつも固く閉ざしている。
 息の整ってきたジグルフは左目を瞬きし、それから徐に首を縦に振った。
「……ない。とられたから……」
「……。ふーん。じゃあこっちは俺がもらいましょうか」
「……」
 ヴァレリーがジグルフの前髪から手を離すと右目は隠れた。ヴァレリーの親指は今度はジグルフの左目の下をなぞる。
「……いいよ。別に……もう、見たいものもない」
「……。はぁ。またそういう態度。なんですかそれ。嘘でも嫌がりなさいよ」
 諦めた態度。
 もう生には興味のなさそうな白けた眼差し。自分のことなのに他人事のような。生きているのに死んでいるような心。
 ジグルフのそういうところが気に入らないのだ。ヴァレリーは。
 荒っぽくジグルフを押し倒して曲げた両足を肩に担ぐ。
「ま、まって……」
「……これには慌てるんですか」
「だって、ヴァレリーのとか、絶対無理、でかい、こ、怖い」
「怖いってそんな今更。慣れたもんでしょう。いままでたくさんしてきたんだから」
「……、好きでしてたわけじゃない……」
 悲痛な声だった。
「……。わかってます」
 ジグルフは嘘はつかない。本当のことを隠していたとしても、彼が語る言葉が嘘であったことはなかった。だから今の言葉だって嘘じゃないのだ。好きでしていたわけじゃない。でもそれと同時にジグルフは否定しなかった。たくさんしてきた。その言葉を暗に肯定していた。
 わかっている。好きでしていたことではないことぐらい。望んだことではない。そういう境遇だったことぐらい。
 でも、頭でわかっていても心が反対を向いてしまうのだ。
「! う、うぅ、こわい、こわい……」
「……」
 可哀想なくらい怯えるジグルフなんて初めて見た。ぎゅうと枕で顔を隠して情けないぐらいに手を震わせている。
 ヴァレリーはふとさらけ出された肌の痣を見る。逃げようとして殴られたのか。それで、手篭めにされたのか。怖い怖いと言っておきながらヴァレリーを殴ってでも逃げ出そうとしないのは、そういう風に躾られてきたからなのだろうか。
 それでも。
 後ろを軽く指で解して自身のものをあてがった。それでも、やめてやるという選択肢はなかった。
「ひっ、ぃ、……っ」
「……っ、ちょっと、力抜いてください」
 ぐぐっと内臓を押し上げてくる異物にジグルフは喉をひきつらせた。ぎゅうと枕を掴んで身を縮めているが、そうされるとジグルフの体に力が入ってヴァレリーの方も窮屈だ。
「ジグルフ」
「う゛、ぁあ」
 腰を押し進めながら枕を片手でひっつかむと案外簡単に奪えた。泣いていた。カタカタ身を震わせて、目にいっぱい涙を浮かべて、怯えていた。
「……ジグルフ」
「うう、ん、むっ」
 喘ぐ口を優しく塞いで熱を交換する。やっていることとは裏腹に優しいキスだった。きゅっと閉じられた目からほろりと涙が伝っていった。
「はぁ、あ゛、ぅ、おなか、ぐるし……っ」
「ふ、……はぁ、はは、たしかに。ここ、ポコってなってますね」
「ぁう、ひっ……ぐぅっ……」
 腰を揺らしながら薄い腹を撫でる。
「俺の全部入れたら、今当たってる狭い入口、ぶち抜いちゃいますね。ね? いいです? ジグ」
「よ、よくない、あ゛、こわい、ぃ、っ」
「いつも飄々としてるくせに案外怖がりなんですね。……全部入れますよ?」
「! いやだ、う、こわ、こわいっ、うう、っ」
「……」
 ブンブンと首を振っている。ヴァレリーに必死に訴えているジグルフはなんだか非力な子猫のようで可愛いと思った。ヴァレリーは優しくジグルフの頭を撫でてやった。
「よしよし。いい子ですね」
「ひ、ぅ」
「せーのでしましょうか?」
「! し、しないっ」
「ほら。せーの」
「あ゛っ、ぁ゛っ! っ」
 無理やり狭い入口をこじ開けて奥まで勢いよく貫いた。
 ジグルフの体が大きく海老反りに撓った。
 絶叫するように喘いだ後は声を失ったかのようにはくはくと空気を食べている。体は可哀想なぐらいにガクガクと大きく震え、目はチカチカと軽く白目をむいていた。
「わ。ジグルフ? 大丈夫です?」
「……、っ……」
「声出ないんです? 苦しそうですけど、やっぱり気持ちいいんだ? 射精してますよ」
 ヴァレリーは吐精したジグルフのそれをツンと弾く。
「ねえ、俺も気持ちいいですよ。ジグ」
 中は軽く痙攣していて、ヴァレリーのものに吸い付くように収縮する。軽く体を揺すっただけでも面白いぐらいにジグルフはびくつく。意味をなさない母音ばかりを口にして、時折嘔吐き、だらしなく、よだれまで垂らしている。
「はぁ。ジグ、もう全部入れちゃったから怖くないですね?」
「あ゛っひ、ぁ、あっ」
「はは。何言ってんだかわかんないです。かわい」
 ぐちぐちと粘液が掻き混ぜられる音と木の軋む音が部屋に響く。
「中出しもされたんですか?」
「おぇ、ぁあ、あ゛っ」
 ジグルフは言葉を紡げるような状態ではないようだがふるふると首を振ることもない。
「やっぱ否定しないんですね。そりゃありますよねえ、中出しぐらい。何回もヤられてんですから」
「ぁ、ぐぅっ、う゛……!」
「はっ、はぁ。わかってますって……好きでやられたわけじゃないんでしょ?」
 言われなくたって分かっているのだそんなことは。
 ばちばちと乱暴に体を打ちつける。
 ジグルフの視界は何度も反転していた。腹の奥を突かれる度に内臓が口から出てきそうだった。気持ち悪い。苦しい。気持ちいい。熱い。もう限界だ。意識が遠のくのを感じる。
「は、俺もイきそうです」
「ひ、あ゛っ」
「中に出しますね? ジグ。ここの奥に」
 ヴァレリーはジグルフの隆起するへその上を指でなぞった。
「う、――っ」
 ぐっと息を殺した。
 乱れた呼吸を整えながらずるりとものを引き抜く。びくりと大きくジグルフの体が揺れた。
「はあ……ジグルフ?」
 体を投げ出すようにして、涙もよだれもそのまま、眉を下げて目を閉じている。胸は軽く上下し呼吸を繰り返しているようだ。
 寝たのか。というか、気を失ったのか。
 ヴァレリーはジグルフの口元と眦とを拭ってやった。
「……ジグルフ」
 返事はない。聞こえるのは浅い呼吸だけ。
 頓に、ヴァレリーは押し殺していた何かがせりあがってきて胸をきつく締め上げるのを感じた。のどの辺りが熱くなった。
「ジグルフ、……ねえ、俺嫌なんです。お前の過去が。わかっていても、嫌なんです、過去に嫉妬するんです」
 ぽろぽろと涙が出てきた。ヴァレリーは眠っているジグルフにぎゅうと抱きついた。
「……好きです。どこにもいかないで」