ヴァレリーが風呂に行った。ジグルフは風呂から今出てきたところだ。
 これ使ってません。と渡されたタオルはふかふか。クッションの上に座り特に興味はないテレビ番組に視線を向ける。こうやって風呂を済ませて相手を待つのはいつ以来だろう。インキュバスとしての能力を自覚してからはさっさと相手を眠らせて精液だけもらってとんずら。わざわざ自分もシャワーを浴びて準備するなんてことはほとんどなかった。
 テレビに映るのはクイズ番組だ。盛り上がる出演者をぼんやり眺めているうちに時間は過ぎていく。
「……。ベッド行きますか」
「どこでもいいよ」
 聞こえた声に視線を上げた。
 風呂を終えたようだ。わしゃわしゃと頭をかくヴァレリーはなんとなく居心地悪そう、というか緊張している。ジグルフは立ち上がりヴァレリーの後ろについた。
「……。夕飯どうでした?」
「? おいしかった」
「よかったです。……」
 2人してベッドに乗り上がりお互いに向き合い見つめ合う。ヴァレリーから振られた問に答えたあとは無言だ。何だこの状況。とジグルフは怪訝に思うもとりあえずヴァレリーを眠らせてしまえばいいかと思い直す。
 ずいっと距離を詰め顔を寄せるとヴァレリーの方は動揺した。特に構わず唇を重ねた。
「……、積極的ですね」
「……」
 おかしい。ヴァレリーは眠る様子がない。
 今まで触れるだけのキスをすれば相手は電池が切れたかのように昏睡してくれた。なのにヴァレリーはまだ意識があって、ちっとも気を飛ばしそうにない。
 眉を顰めるジグルフの頬をヴァレリーの手が包む。親指がスリスリと頬を撫でる。壊れ物を扱うかのように丁寧だ。
「もっかいいいですか? キス」
「……。うん」
 求められる理由はわからない。けれどジグルフとしてももう1回やれば眠るかな。なんて思いもあったので拒否することはなかった。
 目を閉じた。
 ちゅ、と触れるだけのキス。いつの間にかジグルフを抱きしめるように回っていた手が腰を撫でてくる。そういえばこの人、忘れてもいないんだよな。そんなことをぼんやり思っていたら不意に歯をなぞられて思わず肩が跳ねた。
「……」
 舌入れるのか。この人。別にいいけど。
 軽く口を開けてツンと舌先でつつき応える。柔らかいとも固いとも言えない生暖かなそれは絡みついてきた。
 なんで眠らないんだろう。
 なんで忘れないんだろう。
 この人、もしかして自覚がないだけでなんかそういう体質を持つ生き物の末裔とかなのかも。サキュバスは一応悪魔だから、エクソシストとか。
 目を伏せて一人、一切本気にしてないことを考えていた。
 ディープキスしたのっていつぶりだっけ。
「は、……」
「……」
 そういうどうでもいいことを考えるぐらいには、ジグルフにとってキスは取るに足らないことだ。
 口からこぼれた唾液を舐め取られた。顔が離れていくのを感じてそっと目を開けた。
「男とキスしたの初めてです」
 ヴァレリーがふにゃりと頬を緩めている。
「そう。女は?」
「まあ、それなりに? 女の子だから柔らかいのかと思ってたけど、男でも普通に柔らかいですね」
「……」
 なんだその感想。
 またすりすりと頬を撫でられながらジグルフは微妙な顔をした。
「ね。もう1回いいですか?」
「……。やだ」
「ええ」
 ヴァレリーが残念そうな声を出したが知ったものか。いつまでキスに付き合わなければいけないのか。ジグルフの目的はそれじゃあない。
 徐にヴァレリーの下半身に手を伸ばし服の上から撫でてみる。驚いたのだろう。ヴァレリーが少し身をよじった。
 しっかり固くなっている。まあ前も固くはなっていたのでまだなんとも言えないけれど。
「……、触ってていいのでキスさせてください」
「え? なんで……、ん」
 ぐいと強引に顎をすくわれまた口を塞がれた。優しく歯列をなぞられてぞわぞわとお腹の当たりにむず痒さを覚えた。
 動きづらい。なんなんだこのキス魔。半分イラつきながらも好きにさせ、ジグルフはヴァレリーのズボンの中に手を突っ込んだ。
「……ぅ」
「、」
 勃ってる。しかもちょっと、カウパーが出ている。
 顔を離した。
「あ、ちょっ……」
 ヴァレリーの静止を無視して下着ごとズボンを下ろしてやると窮屈な布から開放されたそれはびんと上を向いた。まじまじとその様子を眺め右手で軽く弄ってみる。萎える様子はない。
「……、そんなに凝視されると恥ずかしいんですが」
「……」
「……。舐めていいですよ? 欲しかったんでしょう?」
「は?」
 ムカついて視線を弾いたがヴァレリーがどことなく恥ずかしそうに眉を寄せてるのを見るに、嫌味で言ってきた訳では無いことを理解した。
 ジグルフの解釈だがヴァレリーなりに身を捧げる覚悟でいるらしい。
「インポのくせに」
「だから違いますって……っ、う……」
 ぱくりと咥えた。
 歯を立てないように唇をまいてピストンさせる。なんか。見た時よりも大きい。握っている根元までは咥えられそうにない。
「ジグルフさん、て唾液多いですよね……」
「?」
「ふぅっ、……上手」
 舐めてる最中に頭を撫でられ耳をいじられるのは初めてだ。いつも相手は眠っているから。
 舌先がぴりと痺れる。待ち焦がれた空腹を満たされる予感を覚え自然と体は熱を持つ。
「もう、ちょっと……」
 ヴァレリーからググッと頭部を押えられた。
「! ……ん、ぶっ……」
「は、……きもちぃ」
「……っ」
 苦しい。こいつ、容赦なくほとんど全部咥えさせやがった。目に涙が浮かぶ。ぼむぼむとマットを叩いて抗議する。
「口小さいんですね……、でもほら、頑張ってくれないと欲しいもの出てきませんよ? 止まってないで口動かして? お腹すいてんでしょう?」
「ふっ、〜〜っ」
「……、涙目で睨まれてもあんま怖くないかもです」
 ムカつく。その一言に尽きた。
 相手が起きているのは今回が初めて。この一回で今後も起きている必要はないと強く思った。次は頭を殴ってでも昏睡させておくべきだ。
 自分のペースで進められないどころか邪魔をされている。不愉快だ。食事をしたいだけなのにこんな苦しい思いをさせられるなんて。
「はあ、口の中、あっつい……」
 が、今ここで苦しいから辞めると音を上げるつもりもなかった。
 熱に浮いた目をしているヴァレリーをもう一度だけ睨みつけてジグルフは目を閉じる。ぐちぐちと水音。唾液とカウパーが混ざった液体がぷつぷつ泡を立てる。
 ジグルフの耳を擽っていたヴァレリーの手は余裕がなくなったのか後頭部に回って軽く頭を押さえつけてきている。荒い息遣い。怒張したそれはびくりと口の中で脈をうった。
「う、く……っ」
「! ……」
 ツンと鼻につくにおい。
 口の中に広がる軽い酸味。
 啜りながら口を離してしばらく舌先で粘液を弄び、ごくんと喉を鳴らした。
 思っていたより量が多かった。
 おいしい。
 ティッシュで拭こうとしているヴァレリーの手を払い、すっかりふにゃんと擡げている性器をぺろぺろと舐める。
「んん、くすぐった……」
「……」
「もしかしてまだ空いてます? ちょっと、まだ勃たないかもです……」
 そういうヴァレリーの声は力ない。
 なんだかんだ彼は社畜である。久々定時で帰ってきてうなぎを食べたからと言って急に日々の疲れが吹っ飛んでいくわけではない。
「……、1回眠らせてくれたら勃つかも……」
 なんてジグルフの耳を触りながら言っているが随分と眠たそうな声だ。
 ジグルフが顔を上げるとヴァレリーの手は力なくベッドに沈む。ヴァレリーは程なくしてすーすーと柔らかな寝息を立て始める。
 その様子をジグルフはしばらく眺めていた。
 起こす気は無い。念願の食事を果たせたので不満はないし。むしろ、口だけかとあまり期待していなかったが社畜インポのわりに頑張ったんじゃないかなと高評価である。ジグルフもここまで空腹を耐えた甲斐があったというもの。インポ認定は撤回してやってもいいかもしれない。
 ジグルフはとりあえず眠るヴァレリーにパンツだけ履かせてやって、布団もかけた。
 まだ空いてるのかと聞かれたのに胸中で遅れて答える。食べられなくはないけれどどうしても食べたいわけでもない。自分は完全なインキュバスではない。あくまでハーフなのだ。精液が必要と言っても毎日啜らないと生きていけないほどじゃなくて、今ので十分。空腹なので2回くらいはと思っていたけど結構量が多かったので足りた。ヴァレリーは今月童貞だから溜まっていたのだろう。
 顔も好みだし味もいいし、しばらくはこいつにお世話になろう。見つけた食料にジグルフは内心ガッツポーズであった。