飼い始めてから改めて実感していることだが、聡明さはロストの方が持ち合わせていて対してシャルルは愚直である。ロストは胸に抱いた反抗心を包んで隠し時期を窺う冷静さがあるが、シャルルの方はその瞳に反撥を映し適わないと知っていても常に王の首を狙うような、そういう正反対さが彼らにはあった。
「は……ふ、……」
 小さく吐息したシャルルが屹立から口を離し、ちら、と隣のロストの様子を伺う。健気に奉仕する姿に目を細め、今度は僕の方を一瞥して、濡れた唇を舐めた。
「……ロスト」
「ふ、……はい……ん、む」
 唾液を絡ませた紅い舌を這わせていたロストは、シャルルに呼ばれ素直に顔を上げた。そこに、シャルルは顔を寄せ、柔らかく唇を重ねる。
「ん、……っ」
 舌先で小さな唇を割り開き、口淫に濡れた舌を根本から愛撫する。まるで子猫が親猫に毛繕いされているような、そんな光景だ。
 飼い主のことなんかすっかり放置して随分と睦まじいことだ。叱ってやるべきかとも思ったけれど、じゃれあう姿も愛らしいものなので好きにさせることとした。
「……あまり、二人の世界となられると困りますが。飼い猫の仲が良いのは好ましいことですね」
 互いに夢中になる二人の頭に手を伸ばし、髪を撫でる。擽ったそうに身動ぎしながらもシャルルもロストも甘受し、しばらくして僕の下半身へと再び向かい合う。一度に両側から迫る唇の熱さ。艶やかな髪を撫でながら二人の動きを追いかけると、赤い舌を這わせるロストと目が合った。
 じっと見つめるロストの視線は媚びるように垂れ下がっていて、普段は澄んだ湖のような瞳に濃い欲情を孕んでいるのがわかる。それを味わってしまいたくなる衝動に駆られ手を引けば、ロストは従順に足元から這い上がり僕の胸元に手をつく。
 白い指が自らの後孔を拡げればそこは真っ赤な粘膜を晒し物欲しそうに蠕く。
「ふふ……今日は積極的ですね。シャルルからの口付けに当てられましたか?」
「ひぅっ、あ、はぁ……ぁ゙……」
 揶揄めいた問いかけも聞こえていないようだ。先程まで懸命に奉仕していた肉塊を孔に押し付けられて声を上擦らせ、そのままぐぬぐぬと飲み込んでいく。
「……、ロスト……」
「あ゙、ひっ、うぅ゙♡」
 深々と貫かれる最中に背後からシャルルに抱きしめられるようにされて首筋を吸われて、ロストは仰け反りながら啼いた。白い肌の至る所に散る小さな鬱血痕は、シャルルの執着を表しているようで可愛いものだ。
「ふふ……。シャルルの独占欲は少し、異常なくらいですね」
「……フリンズに、言われたくない」
「あなたのことも可愛がってあげますから、今は大人しく、待てを、していてくれますね?」
「……ロスト」
 拗ねた顔をし僕から目を逸らしたシャルルは、ロストの首筋に顔を埋め、柔らかな口付けを肌に落としていく。そうするとロストはまた喘ぎ鳴き僕を締め付けてきた。
 腰を揺らすのに合わせてロストの肢体がゆらゆらと踊り、「ぅ゙あ♡ ……はぁ゙っ♡」と荒い呼吸と共に涎を溢す。
「あ……ぁっ♡ はぁっ♡ お゙ッ♡」
 突き上げれば喉を反らせたロストが悦ぶ。頤を掴んで口付けようとすれば、ぺし、と額を叩かれ、シャルルに邪魔をされた。まるで猫のように睨まれても可愛いだけなのだけど、それ以上を叱る気も失せるような威嚇に思わず笑ってしまう。
「ふふ……わかりましたよ」
「あっ!? やっ……ぁ゙!」
 諦めてロストの内側を穿ち続けると甲高い嬌声が零れ落ちる。きゅうきゅうと締め付けてくるそこはよく僕に馴染んでいる。
「ふぅ゙……ぅ♡ はぁ゙ッ♡」
 腰を浮かし喘ぐロストは絶頂に達しようとしているらしい。ひくひくと震える体躯に力が込められるのがわかった。
「い、い゙ぐ、ぁ゙、あぁ゙〜……っ゙♡」
「……ああ。可愛らしい」
 涙を浮かべて射精するロストに呼応して奥を穿ち続け彼の中で果てる。最後の一滴まで搾り取るように収縮する肉襞は堪らない気持ちになる。余韻に浸りながらずるりと抜き出せば、「はぁ゙……♡」と息をついたロストがへたり込んだ。
 そこで待ち構えていたシャルルが抱き留めて、ぎゅ、と大切なものを隠すみたいにロストを腕の中に閉じ込める。甘えるように銀色の髪に擦り寄るシャルルは子猫が母親の側に寄り添うのに似ていた。
「……シャルルは本当にロストに心酔していますね」
「べつに……」
「その忠誠心を、飼い主である僕にも見せてもらえないと、困るのですが」
「……、ロスト、」
「シャルル……いけませんよ」
 微睡みにあるロストの額に口付けを落とそうとしたシャルルの名前を呼べば、彼は緊張したように身を固くした。それでも瞳は反抗的で、その様子は怯えながらも牙を剥こうとする野良猫に似ている。
「……いつかその牙を研いで僕の喉笛を掻き切ろうとでも?」
「…………」
「ふふ、素直ですね。……あなたのその利かん気の強さは個性ですが、……もう少し、いい子にしてください」
 手を伸ばし、首輪を少しずらしながら細い首を掴む。薄く血管が浮いたシャルルの首は簡単に折れそうなほど華奢だった。
「あ、……」縋るような、期待したようなか細い音がシャルルの喉から鳴る。軽く圧迫しながら爪を立ててやると瞳を潤ませてシャルルは浅い呼吸を繰り返した。
「っは……ぁ゙……あ…」
 苦痛に歪む表情は扇情的だ。
 それでもなお、少しでも手を離せば取られてしまうと思っているのか、ロストを守るように抱きしめて、身を捩り、無防備な喉を晒す。まるで子猫を守る母猫のような健気さだ。
「シャルルは少し、性癖が歪んでいますね。ほら……首を絞められて、嬉しそうにしていますよ。随分待たせてしまいましたから、今日はこうして抱いて差し上げましょう」
「はぁ゙……あ……」
「ふふ……。安心してください。殺しませんよ。あなたたちが死ぬときは、僕と一緒ですからね」
「ぅ゙……」
 少し体重をかければロストを抱えたままベッドに沈んだシャルルの、首を強く圧迫していくと瞳に涙が滲む。手遊び程度の戯れのつもりだったがもう限界だろうか。
 ぐったりと脱力しかけたところで手を離してやれば、途端に咳き込み肩で息をする。
「げほっ! げほ、っ、はぁ゙……ふ……はぁっ……」
「……そろそろ楽になってきましたか?」
「……あ……ぅ゙……」
 酸欠による思考の朦朧により理性が溶けてきたのだろう。頬を赤らめ喘ぐシャルルに微笑みかけ、彼の脚を開かせ、未だ昂る屹立を蕾に押し当てる。
「ぁ゙……はぁ……ぁ……」
 苦しみの淵を漂うシャルルは抵抗もできないまま侵入を許した。中は蕩けていて淫らに僕を誘っている。
「シャルルのここは、いつでも僕を求めていますね……」
「ん……っ、はぁ……うぅ……ろす、と……」
「大丈夫ですよ。あなたの大事なロストも、すぐそばに居ますから」
「ぁ゙、ぐ、っ……」
 首を握り、ぐぢゅぐぢゅと水音を立てながら挿入するとシャルルは苦しげに喘ぐ。肺を萎ませ全身を萎縮させて小刻みに震えるさまを見ているだけで興奮した。手加減をしてやる必要はない。だってシャルルは苦痛こそを欲しているから。
「……首を絞められて犯されるのがこんなに好きだなんて……僕としても意外でした」
「っ゙♡ ひゅッ゙、ゔ、っ゙」
「最初は嫌がっていましたよね。ロストの目の前で凌辱してやってからでしょうか。……ふふ。あなたはロストへの献身が止まりませんね。ロストを庇って傷付くのが好きですか?」
「ッ゙〜〜っ゙♡」
 ぐぽんと音を立てて奥を貫いてやるとシャルルが激しく痙攣する。性器から吐き出された体液は透明でサラサラとしたもの。射精ではなく潮吹きだ。
 敏感になった内壁を更に抉るように責めれば喉仏が大きく跳ねる。呼吸を阻害され苦しむはずなのに、腰の律動に合わせて彼の中は強く締め付けてきて快感を伝えてくる。
「はぁ……シャルル……、涙も涎も垂れ流して、酷い顔、ですね……ふふ、そろそろ呼吸をしましょうか。苦しいでしょう?」
「っぁ゙……ッ゙はァ゙……ッ…ひゅっ、は、い゙、は……」
 首を解放してやれば、酸素を取り入れようと喘ぐ喉元から掠れた音が漏れる。困ったことに、息の仕方がわからなくなってしまったらしい。ゆるく腰を揺らしてやれば、嬉しそうに痙攣を起こす身体を弄びながらどうしたものかと思案していると、ロストの指先がぴくりと動いた。
 先ほどまでの蹂躙の余韻で汗ばみ気怠そうに瞼を持ち上げたロストがゆっくりと瞬きをする。
「ああ、ちょうどいいですね。ロスト、どうやらシャルルは溺れてしまったようですので、息の仕方を、教えてあげてください」
「……? ぁ、……シャルル、……?」
 霞がかった瞳で僕を見ていたロストはやがてシャルルを見つけ出し、ひゅ、ひゅ、と苦しげに喘ぐシャルルへと視線を向けた。
「シャルル……? ……シャルル……、そばに、います、……シャルル、おれは、ここに、いますから……」
「ひゅ、ぅ゙……ふ……はっ゙」
 迷子のように彷徨っていたシャルルの焦点が定まり、ロストに向けられた。恍惚に表情を染め、微かに笑む。緩んだシャルルの口を覆うように唇を重ねたロストは呼吸を混ぜ合わせる。「シャルル……」呼び掛けながら慈愛に満ちた眼差しで愛し子を見つめるその姿は聖母のようであった。
「ふふ……。シャルルはロストを守る騎士になりたいようですけど、これでは逆ですね。シャルルは、守られている立場だ」
「ぅ゙……はぁ゙……ッ゙♡」
 揶揄うように耳元で囁いてやればシャルルは震え上がり淫靡に吐息を零す。屈辱に塗れながらも感じてしまうのか。本当に可哀想な子だ。憐れみを含んだ微笑を浮かべてシャルルの頬を撫でてやれば彼は涙に濡れた睫毛を震わせた。
「シャルルのその綺麗な顔は、弱々しく泣いている時が一番美しいですね。……おや、ロスト。何か言いたげ、ですね?」
「……、シャルルに、籠の中は、……似合いません」
 ロストが悲しげな表情で僕を見る。強く飼い主に楯突くことはしないが、反抗的な態度はたまに出る。
「ふふ……」
「……なんで、笑うんですか?」
「いえ……シャルルが籠に入れられているのは、シャルルの意志ですよ。シャルル自身が僕と……あなたと離れたくないと願っているのです。現にシャルルは――外へ出ても、ここに、戻ってきますよね?」
「……」
「互いを思い合いすぎているのも、悩みものですね」
 軽くロストの頭を撫でた後、半分寝かけていたシャルルに向き直る。軽く頬を打つと、瞼が緩慢に持ち上がった。
「シャルル。聞いていましたか? ロストが、あなたのことを心配していましたよ。……シャルルは自由であるべきだと」
「あ゙……はぁ゙……」
「もう返事も出来ないくらい溺れてしまいましたか? ……まったく。困った子ですね。このままあなたの中に出しますよ」
「……お゙……っ♡」
 弛緩した身体を暴くのは容易い。子種を注がれやすいようにと腰を高く持ち上げて最奥に打ちつけるとシャルルは掠れた嬌声を響かせる。
 勢い良く吐き出した熱を受け止めながら身体を痙攣させる彼はもう言葉も発せず、ただ僕の下で犯され翻弄されている。
 ずるりと引き抜くと腹を膨らませた白濁がこぼれ落ちた。
「シャルル、……」
「ぅ゙ー……」
 シャルルは虚ろな瞳で虚空を見つめるのを、ロストが心配そうに見守っている。震える手は投げ出された手を取り、指を絡め、ここにあるのだと温もりを示すかのようだ。それはまるで恋人同士の触れ合いに見える。
「……愛おしいですね。あなたたちの関係は。……ずっと見守っていたいものです」
 言葉もなく寄り添う二匹の姿はどこか儚くて美しい。生の短い人間が紡ぐ刹那の煌めきを具現化しているようだ。歴史を紡ぐ宝石なんかより、二人のそれがどうしようもなく尊いものに思える。
 だからこそ――首輪を繋ぎこの手の中に閉じ込めておかなければならないのだ。妖精が子を隠して己のものにするのは、人の子が大切なものを宝箱にしまうのと同様、純粋な愛から行われる行為なのだから。