ちゃんと、意識してくれ
彼女に対する感情は昔から分かりやすくしてきた。周りの奴等に認識させるためでもあるが、彼女が少しでも俺を意識してくれたらと思っていたからだ。…それなのに、好意があると全く気付きもしない。彼女からすれば、俺は何年経っても"同期"なのだ。どんなにアピールしても無駄ならば、言ってしまえばいい。直球に、好きだと。
「俺を、男として見てほしい」
「…な、なん、で」
「好きだ」
「何、言ってんの?」
「安室透としてじゃない。降谷零として、俺は藍が好きだ」
「…な」
「今は返事は要らない。ちゃんと、意識してくれ。俺の事」
彼女の驚いた顔を見ると、俺が今まで行ってきた数々のアピールが本当に無駄だったのだと思い知らされる。恋愛は疎い方だと前に話していたが、此処まで鈍感だとは。そろそろポアロに向かおうかと思った矢先、安室の携帯が鳴る。梓さんだろう。
「はい、安室です」
『あ、安室さん?至急買い出しお願いしたいの!マスターが発注するの忘れたみたいで』
「いいですよ。何が足りないんです?」
『珈琲用のミルクと小麦粉。それと、牛乳と珈琲豆をお願いします!』
「分かりました」
電話を切り、未だに固まっている彼女に買い出しに行くと伝えると漸く正気に戻ったらしく、先程まで黙っていた彼女からマシンガンのような質問が飛んでくる。本当に気付いてないのか、キミは。
「いつから?」
「大学の時」
「へ?私達会った事無いよね?」
「あるよ。何度も」
「…記憶に無いけど?」
「覚えてないだろうな。店員と客、だったし」
「もしかして、バイト先!?」
大学三年の頃だったか。友人が指定した待ち合わせ場所が、出来たばかりのカフェで彼女は其処で働いていた。一目惚れだった。ベタな話しだが、会計時に見た屈託の無い笑顔に落ちたのだ。あの笑顔を自分だけに向けて欲しい。もっと、話したい。もっと、近付きたいと。
「…全然覚えてないわ」
「だろうな」
「降谷みたいな人、忘れないと思うんだけどな…」
「何で」
「高身長、褐色の肌、髪色。それに、その顔立ち。女の子が黙ってないもん」
「…っ、!」
「何で覚えてないんだろ?」
自分が何を言ってるのか分かっているのか。自惚れそうになるのをぐっと堪え、ハンドルを握り直す。"料理上手な人が好き"だと聞き、自炊をするようになったなんてキミは一生気付かないだろうな。
「着いた」
「え、あ、うん。買い出しだっけ?」
「カートは俺が。あと、逸れないように…手はこっち」
「逸れません!」
逸れないようにというのは、完全なるこじ付けだが。このくらい問題無いだろう。遠慮しないと決めたんだ。彼女の小さな手に自分の手を絡ませ、買う物をカートの中に入れていく。
「…もう、分かったから。お願い、離して」
「嫌だ」
「意地悪」
「有り難う」
「褒めてない」
レジで領収書を発行して貰っている間に、彼女は買った物を袋に詰めいくのを見て自然と口角が上がってしまう。詰め終わった買い物袋を横から取り、空いた手で彼女の手を取る。
「…もう逸れないと思うけど?」
「俺が繋ぎたいんだよ」
「私、安室ファンに殺されるかも」
「俺が守るから、大丈夫だ」
「なら、ちゃんと守ってよね」
「…ああ」
「この国を」
「は?此処は、私をだろ?」
「自分の身は自分で守るわよ」
「……はあ。」
「幸せ逃げるよ」
「俺の幸せ逃げたから、藍が幸せにして」
「この手で満足でしょ」
満足じゃないが、今は満足だという事にしておくか。警察学校で再会した時の態度で、此れは随分な長期戦になると確信したからな。忍耐強くいくさ。彼奴らとも約束したからな。俺が彼女を幸せにする、と。