言わなくていいから…
カーテンの隙間から入り込む日差しに、目を覚ます。もう朝か。全然寝た気がしないのは、降谷の所為だ。今日から帝丹高校に潜入だというのに、寝不足って…。
「うわ、酷い顔」
目元には薄っすらとクマが出来ている。軽めに化粧をして、コンシーラーで何とかクマを消す。用意していた服に着替え、今日から短期間ではあるが務め先である帝丹高校に向け車を走らせた。
事前に聞いていた駐車場に停め、職員室へ向かう。教職員に軽く挨拶し、会議が始まった。会議と言っても、主に不審者情報の共有や生活指導関連の話である。
「栗原先生は、浅田先生の代理に2年B組をお願いします」
「はい」
「短期間ではありますが、宜しくお願いしますね」
「此方こそ、宜しくお願い致します」
校内で足を滑らせ階段から落ち、全治三カ月の大怪我を負った浅田先生の代理であの子のいるクラスを任せられたのだが、先程渡された名簿を見て驚愕する。まさか、彼女達も居るなんて……。
「え、?!」
「何で藍さんが!?」
「席に着け、お前ら!浅田先生の代理で来られた栗原先生だ」
「浅田っち怪我したってマジだったんだ!」
「では、私はこれで。何かあれば隣に居るので、呼んで下さい」
「そうさせて頂きますね。羽柴先生、有り難うございました」
騒がしい生徒達に喝を入れ、A組の担任である羽柴先生が教室を出たのを確認し、軽く自己紹介をする。
「怪我をされた浅田先生の代わりに、短期間ではありますがこのクラスの担任になりました栗原藍です。宜しくね」
「先生ー、彼氏いますかー?」
「あんた達じゃ到底敵わないイケメン彼氏が居るわよ!」
「園子ちゃん、言わなくていいのよ……」
これ以上余計な事を言わせないように、話を遮る。そのままHRを始めると、文句を言いつつもきちんと聞いてくれているのが可愛くて笑ってしまいそうだ。
それにしても、少し前まで世間を騒がせていた高校生探偵の工藤新一も同じクラスだなんて。浅田先生からの引き継ぎノートを見ると、工藤くんは暫く欠席扱いで大丈夫だと記されていたが、暫くテレビや新聞でも姿を見てない。何かありそうね。
「ちょっと、藍さん!何で言ってくれなかったの?!」
「…う、ごめんね。私も最近知ったの」
「二人とも先生と知り合いなのか?」
「ポアロで知り合ったの」
「それに、安室さんの彼女なのよ〜」
「言わなくていいから…」
「へえ、安室って、あの探偵の?」
「はい、雑談は終わり。そろそろ授業始まるから、ちゃんと準備してね」
これ以上の接触は危険だと判断し、予鈴が鳴る前なのを利用し自然を装いつつ教室から出る。"安室"の名前に反応したのは、面識があるのか、何かを探っているのか。恐らく、後者だろう。職員室近くのトイレに入り、至急工藤新一について調べるよう佐田に連絡する。例の組織に関係しているとは言えないが、調べて損は無いだろうから。
「藍さーん、お昼一緒に食べましょ!」
「鈴木さん…、此処では先生って呼んで欲しいな」
「ごめーん、つい」
「もう!園子ったら」
予想はしていたが、本当に誘いに来るとは。お弁当箱を持ち、ウキウキしている二人に着いていくと手を振りながらこっちだと言う世良真純が居た。
「ボクも一緒にいいかな、先生」
「もちろん」
「あ、そーだ!今度世良ちゃんも一緒に行こうよ!ポアロ」
「ポアロって、蘭くん家の下にあるっていう喫茶店の事かい?」
「イケメン彼氏も拝めるわよ〜」
「拝むって、園子…」
「先生の彼氏も見てみたいし、行ってみようかな」
「彼の話は置いといて。クラスの事とか、三人の仲良しさとか、色々教えてくれない?」
いつまで恋人の振りをしているのかは分からないが、まだ暫く続けなくちゃならない事になってしまったようだ。弾む会話を聞きながら、心の中で謝っておいた。降谷、ごめんと。