気付けよ、馬鹿
降谷が振る舞ってくれた料理はどれも美味しくて、何でも出来る彼が羨ましく思う。苦手な事とか無いんだろうか。警察学校も首席で卒業。運動神経も抜群で、考えていたら何だかムカついてきたな。
「何かムカつく」
「自分何かしました!?」
「あ、ごめん。佐田じゃなくて、降谷にね」
「降谷さんですか?」
「苦手な事ないのかな」
「…恋愛、とか?」
「安室の姿を見てると、恋愛が苦手だなんて微塵も思わないわ」
「それは、偽っているからでは?」
「偽ってても、三十路手前の男が平気でウインクする?」
「悪かったな」
「げ、」
「ふ、降谷さん!お疲れ様です」
「随分と楽しそうだな」
「可愛い部下とのブレークタイムなんだから、邪魔しないで」
「ほぉー」
「あ、あの、自分、そろそろ仕事に戻らなくては!」
「えー、もっとちゃんと休みなさいよ」
「藍、佐田の邪魔しちゃダメだろ」
「休んでたのを邪魔したのは誰ですか」
「誰だろうな」
喫茶ポアロのシフトは午後らしく、溜まっている書類を片しに来たらしい。当たり前のようにソファの隣に座る降谷の手には、マグカップが二つ。美味しそうな珈琲の香りが漂っている。
「ほら」
「ありがと。やっぱ課長に頼んで、置いてもらお」
「落ちないさ」
「其処は、落としてもらうのよ」
「無理だろうな」
「インスタントじゃ敵わないもん」
「なら、美味い珈琲飲みに来るか?」
「とびっきりのやつ淹れてくれる?」
「もちろん」
「じゃあ、時間までにこの山、全部片してよね」
「…頑張ります」
凄まじい速さで書類の山を捌いていく降谷を眺めながら、明日から帝丹高校の教員として潜入する為、対象者である彼女の資料に目を通す。彼女も探偵らしい。どうやら、米花町は探偵達が集まってくるようだ。
「藍出れるか?」
「出れるけど…って、もう終わったの?!」
「終わった」
「流石ですね」
「行くぞ」
「あ、佐田。明日から、連絡はこっちの携帯にメールで。宜しく」
「はい」
栗原として使っている携帯へ連絡するよう佐田に伝え、私達は喫茶ポアロへ移動するが、何故か降谷は不機嫌だ。
「佐田ばっかだな」
「は?」
「そんなに佐田が良いのか?」
「はい?」
「佐田は部下だろ」
「そうだけど?」
降谷の直属の部下は、風見。そして、私の直属の部下は、佐田。企画課なら誰もが知っている事だ。降谷が風見に指示するのと同じように、私は佐田に指示をしている。突然黙る降谷を見ると、口元を手で覆っていて、不機嫌だった理由が分かった。
「部下に嫉妬ですか?降谷さん」
「…っ、」
「そんなに構って欲しかったの?」
「…うるさい」
「てか、何で嫉妬?」
「気付けよ、馬鹿」
何が起きたのか、理解するのに時間が掛かった。いつの間にかポアロ近くの駐車場に車が停まっていて、急に目の前に降谷が居ると思ったら柔らかい感触がした。そして、離れていく降谷が視界に入り、キスされたのだと分かった。