赤井秀一って言うんだ



「そういえば、世良ちゃんってホテル暮らしなのよね?」
「そうだよ」
「お兄さんと住まないの?」
「いやー、それがさ断られちゃってね」
「ホテル暮らしって事は、世良ちゃん実はお嬢様だったり?」
「昔から世話になってるパパの友人が金持ちでね。まあ、園子くんの所には負けるけど」
「じゃあ、世良さんは今ホテルで一人なの?」
「ママはアメリカに戻っちゃったからね」
「…そう。何か困った事があったら言ってね?」
「うん!」


佐田によると、一人では無く、誰かと一緒に暮らしていると報告を受けている。彼女の言う事が正しければ、母親では無い"誰か"と一緒に居る。その誰かを匿っているという事なのだろうか。


「なあ、先生は兄弟いるのか?」
「すっごい生意気な弟が一人ね」
「へえ、弟さんがいるんですね!」
「絶対イケメンよ」
「イケメンって…」
「写真とかないんですか?」
「無い無い!」
「絶対美男美女よ」
「もう、園子ったら!」


楽しそうに笑う二人を見て、数年前に会った弟の事を思い出していた。最後に会った弟はまだ大学生で、私と同じ道に進みたいと言っていた。ゼロに配属されてからは、一度も連絡を取ってないから卒業した後の事は分からない。


「ねえ、世良さん」
「ん?」
「男性に間違われる事が多いって言ってたけど、もしかして、お兄さんに似てるの?」
「死んだ兄とは似てるけど、真ん中の兄はパパ似だから似てないんだ」
「じゃあ、亡くなったお兄さんと世良ちゃんはお母さん似なんだね!」
「目元が似てるって良く言われるよ」
「…先生。そんなに死んだ兄の事が気になるのか?」
「そうね。世良さんに良く似た男性を、前に見たのよ。もしかして、お兄さんじゃないかと思って」
「何処で?!」
「米花駅の近くだったかな」
「いつ?」
「二、三カ月前だけど、違う人よね。ごめん。辛いのに」
「……」
「赤い」
「!」
「肘が赤くなってる!」
「大丈夫?」


ずっと肘を付いていたからか、赤くなっているのを蘭ちゃんが指摘すると彼女は"赤い"の言葉に過度な反応を見せた。写真を見た時から感じていたが、やはり彼女は赤井の妹。あの反応を見ると、ホテルで一緒に居るのは赤井では無いようだ。


「そういえば、安室さん来ないわね」
「彼の事はいいから」
「きっと、忙しいのよ!」
「先生の彼の事もいいけど、蘭くん。大丈夫なのかい?」
「え?あ!」
「うわ、もうこんな時間!?乙女の話は尽きないわ〜」


時間を確認すると、18時を過ぎていた。降谷の事だ、直ぐ其処で今までの会話を聞いていただろう。会計を済ませ、梓さんに降谷への伝言を頼み店を出る。


「さ、二人共。お家まで送っていくから、車乗ってね」
「はーい!」


車内の中でも話題は尽きる事なく変わっていく。もう少し行った所のパフェが絶品だとか、あのお店の店員がイケメンだとか。家に着くまで楽しそうに話す姿を見て、この笑顔を、この平和を護るんだと強く思う。


「それじゃ、また明日学校で」
「あのさ、先生」
「ん?」
「ボクも呼んでいいかな。藍さんって」
「どうぞ。あ、学校ではダメだからね」
「うん。それと、もう一つ」
「何?」
「赤井秀一って言うんだ。死んだ兄の名前」
「そう」
「もし、また見掛けたら…」
「声掛けてみるね」
「…うん」


赤井を見掛けたというのは嘘だが、沖矢昴が現れた場所だ。私自身、赤井の件は半信半疑だが接触する機会がある事を祈ろう。


「じゃ、有り難う。送ってくれて」
「夜更かししないでちゃんと寝るのよ」
「はーい」


ホテルに入るのを確認して車を出し、降谷へ電話する。遅いだの何だの文句ばかりだが、何故か世良の事では無く弟の事を聞かれた。其れはもう、かなりしつこく。